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Episode4 京子
205 3年振りの警報
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敵の侵入を告げる警報が鳴り響く。
アルガス本部の敷地内に二基ある巨大なラッパ型のスピーカーが音を発したのは、浩一郎と彰人の襲撃事件以来、実に三年振りだ。その時の戦いで一度破壊されたものの、問題なく修復されている。
甲高い音は周辺への警報も兼ねているが、シェイラが侵入した時は鳴らないままだった。
エアコンの効いたデスクルームから大階段を下りて、京子は他のメンバーと炎天下の外へ出る。
「うわ、暑っ」
館内放送に従って門の側まで来た所で、京子が感じたままの気持ちを零した。
美弦も「ですね」と頷きながら強い日差しに手を翳す。
「昨日まで曇ってたのに、今日に限ってどうしてこんなに晴れるのかしら」
「土砂降りより良いだろ? 訓練なんだし諦めろよ」
辛口の修司に美弦がムッと苛立つが、次の指示が出て二人は持ち場へと散って行った。
「京子さんも気を緩め過ぎないように」
「分かってるよ。けど、最近平和過ぎてまったりしちゃってる所はあるかも」
綾斗はしっかり仕事モードだ。
九州から戻って『ホルスの襲撃があるかもしれない』と騒いでいたのは、もう一ヶ月以上前の事だった。
マサとセナの所に女の子が生まれたと連絡が来て、本部全体が祝福モードになったのも少し前に感じてしまう。
敵からの音沙汰は何もなく、緊張感は日に日に薄れていた。
「それが向こうの戦略かもしれませんし」
「うん──」
「とりあえず、俺も行って来ます」
壁際に待機する消防車を指差す綾斗に、京子も「私も」と付いて行く。
ホルスとの戦闘に備えて、今日は朝から施設員総出で訓練をしていた。
もし3年前のような事態になれば大半の施設員は地下シェルターに潜る事になっていて、今こうしてサイレンが消えた地上に残っているのはキーダーと数人の施設員、それに外部から来た消防隊だけだ。
京子は空の屋上を見上げて溜息をつく。
訓練を言い出した誠は九州へ行っていた。
「向こうは忙しいって言ってたよね」
「ホルスを警戒するのも大事ですけど、日々の業務をこなすのも仕事ですから」
佳祐が居なくなり、桃也も海外へ行ったままだ。
修司の九州への異動もいったん白紙に戻り、福岡の支部は通常業務に追われているらしい。後任をという話もあるが、ホルスの事を考えるとまだ少ないキーダーを回すことが出来ず、中国支部の曳地が単発でキーダーの仕事を請け負っているという話だ。
「平野さんが居ない頃は、私たちも良く東北まで行ってたもんね」
「そうですね」
平野が北陸での訓練を終えて正式に東北支部に着任するまでの間、本部のキーダーが代わる代わるに出張を繰り返していた。
「綾斗さん、よろしいですか?」
消防車の前で待ち構えた施設員の男が、敬礼して資料を綾斗に差し出す。
「私も見ていい?」と京子が尋ねると、男は「どうぞ」と苦笑いした。
箇条書きされた文字と数字が並ぶ資料に京子が眉を顰めると、綾斗が「あぁ……」とこれまた困ったと言わんばかりの溜息を漏らす。
「とりあえず実物を見て頂けますか?」
「分かった」
施設員の男は建物を仰いで、どこかへ合図するように手を上げた。
そこから少し間を置いて、ガゥンとどこからか音が響く。何かが動く音が低く続いて、地面に振動が伝わってくる。
京子には何が起きているか分からなかったが、
「久しぶりに見ますね」
綾斗の言葉にハッと建物を仰いだ。
各階ごとの窓を塞ぐように鉄の板がせり上がり、アルガス全体を包んでいく。
「あぁ──これか」
その存在すら忘れる程に懐かしい光景だ。
スピーカー同様3年振りに見る建物の装甲は、前回が夜だったせいで印象がだいぶ違って見えた。
アルガス本部の敷地内に二基ある巨大なラッパ型のスピーカーが音を発したのは、浩一郎と彰人の襲撃事件以来、実に三年振りだ。その時の戦いで一度破壊されたものの、問題なく修復されている。
甲高い音は周辺への警報も兼ねているが、シェイラが侵入した時は鳴らないままだった。
エアコンの効いたデスクルームから大階段を下りて、京子は他のメンバーと炎天下の外へ出る。
「うわ、暑っ」
館内放送に従って門の側まで来た所で、京子が感じたままの気持ちを零した。
美弦も「ですね」と頷きながら強い日差しに手を翳す。
「昨日まで曇ってたのに、今日に限ってどうしてこんなに晴れるのかしら」
「土砂降りより良いだろ? 訓練なんだし諦めろよ」
辛口の修司に美弦がムッと苛立つが、次の指示が出て二人は持ち場へと散って行った。
「京子さんも気を緩め過ぎないように」
「分かってるよ。けど、最近平和過ぎてまったりしちゃってる所はあるかも」
綾斗はしっかり仕事モードだ。
九州から戻って『ホルスの襲撃があるかもしれない』と騒いでいたのは、もう一ヶ月以上前の事だった。
マサとセナの所に女の子が生まれたと連絡が来て、本部全体が祝福モードになったのも少し前に感じてしまう。
敵からの音沙汰は何もなく、緊張感は日に日に薄れていた。
「それが向こうの戦略かもしれませんし」
「うん──」
「とりあえず、俺も行って来ます」
壁際に待機する消防車を指差す綾斗に、京子も「私も」と付いて行く。
ホルスとの戦闘に備えて、今日は朝から施設員総出で訓練をしていた。
もし3年前のような事態になれば大半の施設員は地下シェルターに潜る事になっていて、今こうしてサイレンが消えた地上に残っているのはキーダーと数人の施設員、それに外部から来た消防隊だけだ。
京子は空の屋上を見上げて溜息をつく。
訓練を言い出した誠は九州へ行っていた。
「向こうは忙しいって言ってたよね」
「ホルスを警戒するのも大事ですけど、日々の業務をこなすのも仕事ですから」
佳祐が居なくなり、桃也も海外へ行ったままだ。
修司の九州への異動もいったん白紙に戻り、福岡の支部は通常業務に追われているらしい。後任をという話もあるが、ホルスの事を考えるとまだ少ないキーダーを回すことが出来ず、中国支部の曳地が単発でキーダーの仕事を請け負っているという話だ。
「平野さんが居ない頃は、私たちも良く東北まで行ってたもんね」
「そうですね」
平野が北陸での訓練を終えて正式に東北支部に着任するまでの間、本部のキーダーが代わる代わるに出張を繰り返していた。
「綾斗さん、よろしいですか?」
消防車の前で待ち構えた施設員の男が、敬礼して資料を綾斗に差し出す。
「私も見ていい?」と京子が尋ねると、男は「どうぞ」と苦笑いした。
箇条書きされた文字と数字が並ぶ資料に京子が眉を顰めると、綾斗が「あぁ……」とこれまた困ったと言わんばかりの溜息を漏らす。
「とりあえず実物を見て頂けますか?」
「分かった」
施設員の男は建物を仰いで、どこかへ合図するように手を上げた。
そこから少し間を置いて、ガゥンとどこからか音が響く。何かが動く音が低く続いて、地面に振動が伝わってくる。
京子には何が起きているか分からなかったが、
「久しぶりに見ますね」
綾斗の言葉にハッと建物を仰いだ。
各階ごとの窓を塞ぐように鉄の板がせり上がり、アルガス全体を包んでいく。
「あぁ──これか」
その存在すら忘れる程に懐かしい光景だ。
スピーカー同様3年振りに見る建物の装甲は、前回が夜だったせいで印象がだいぶ違って見えた。
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