上 下
500 / 618
Episode4 京子

205 3年振りの警報

しおりを挟む
 敵の侵入を告げる警報が鳴り響く。
 アルガス本部の敷地内に二ある巨大なラッパ型のスピーカーが音を発したのは、浩一郎と彰人あきひとの襲撃事件以来、実に三年振りだ。その時の戦いで一度破壊されたものの、問題なく修復されている。
 甲高い音は周辺への警報も兼ねているが、シェイラが侵入した時は鳴らないままだった。

 エアコンの効いたデスクルームから大階段を下りて、京子は他のメンバーと炎天下の外へ出る。

「うわ、暑っ」

 館内放送に従って門の側まで来た所で、京子が感じたままの気持ちを零した。
 美弦みつるも「ですね」とうなずきながら強い日差しに手をかざす。

「昨日まで曇ってたのに、今日に限ってどうしてこんなに晴れるのかしら」
「土砂降りより良いだろ? 訓練なんだし諦めろよ」

 辛口の修司しゅうじに美弦がムッと苛立つが、次の指示が出て二人は持ち場へと散って行った。

「京子さんも気を緩め過ぎないように」
「分かってるよ。けど、最近平和過ぎてまったりしちゃってる所はあるかも」

 綾斗あやとはしっかり仕事モードだ。
 九州から戻って『ホルスの襲撃があるかもしれない』と騒いでいたのは、もう一ヶ月以上前の事だった。
 マサとセナの所に女の子が生まれたと連絡が来て、本部全体が祝福モードになったのも少し前に感じてしまう。
 敵からの音沙汰おとさたは何もなく、緊張感は日に日に薄れていた。

「それが向こうの戦略かもしれませんし」
「うん──」
「とりあえず、俺も行って来ます」

 壁際に待機する消防車を指差す綾斗に、京子も「私も」と付いて行く。
 ホルスとの戦闘に備えて、今日は朝から施設員総出で訓練をしていた。
 もし3年前のような事態になれば大半の施設員は地下シェルターに潜る事になっていて、今こうしてサイレンが消えた地上に残っているのはキーダーと数人の施設員、それに外部から来た消防隊だけだ。

 京子はからの屋上を見上げて溜息をつく。
 訓練を言い出したまことは九州へ行っていた。

「向こうは忙しいって言ってたよね」
「ホルスを警戒するのも大事ですけど、日々の業務をこなすのも仕事ですから」

 佳祐けいすけが居なくなり、桃也とうやも海外へ行ったままだ。
 修司の九州への異動もいったん白紙に戻り、福岡の支部は通常業務に追われているらしい。後任をという話もあるが、ホルスの事を考えるとまだ少ないキーダーを回すことが出来ず、中国支部の曳地ひきちが単発でキーダーの仕事を請け負っているという話だ。

平野ひらのさんが居ない頃は、私たちも良く東北まで行ってたもんね」
「そうですね」

 平野が北陸での訓練を終えて正式に東北支部に着任するまでの間、本部のキーダーが代わる代わるに出張を繰り返していた。

「綾斗さん、よろしいですか?」

 消防車の前で待ち構えた施設員の男が、敬礼して資料を綾斗に差し出す。
 「私も見ていい?」と京子が尋ねると、男は「どうぞ」と苦笑いした。
 箇条書きされた文字と数字が並ぶ資料に京子が眉をひそめると、綾斗が「あぁ……」とこれまた困ったと言わんばかりの溜息を漏らす。

「とりあえず実物を見て頂けますか?」
「分かった」

 施設員の男は建物を仰いで、どこかへ合図するように手を上げた。
 そこから少し間を置いて、ガゥンとどこからか音が響く。何かが動く音が低く続いて、地面に振動が伝わってくる。

 京子には何が起きているか分からなかったが、

「久しぶりに見ますね」

 綾斗の言葉にハッと建物を仰いだ。
 各階ごとの窓を塞ぐように鉄の板がせり上がり、アルガス全体を包んでいく。

「あぁ──これか」

 その存在すら忘れる程に懐かしい光景だ。
 スピーカー同様3年振りに見る建物の装甲は、前回が夜だったせいで印象がだいぶ違って見えた。

 





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

デリバリー・デイジー

SoftCareer
キャラ文芸
ワケ有りデリヘル嬢デイジーさんの奮闘記。 これを読むと君もデリヘルに行きたくなるかも。いや、行くんじゃなくて呼ぶんだったわ……あっ、本作品はR-15ですが、デリヘル嬢は18歳にならないと呼んじゃだめだからね。 ※もちろん、内容は百%フィクションですよ!

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

処理中です...