493 / 647
Episode4 京子
198 夜の提案
しおりを挟む
「綾斗」
ホールに満ちる強い気配に「凄いな」と焦りを覚えながら、京子は大の字に寝転ぶ彼の所へ駆け寄った。普段感じないほどの気配は、全身がザワリと殺気立つ程だ。
トンと頭の横に膝をついて綾斗の顔を覗き込むと、彼の目がゆっくりと開く。
「何かどんどん強くなってない? ちょっと驚いちゃった」
「その分暫く起き上がるのもしんどいけどね」
綾斗は京子を仰ぎ見るように顎を上げて「お疲れ様」とはにかんだ。
バーサーカーの力は他の能力者に比べて数段に火力は上がるが、力を維持する持久力は乏しく疲労も半端ないらしい。
「綾斗もお疲れ様」
「ありがと。松本さんがどれだけの力で何を仕掛けて来るか分からないけど、俺も同じバーサーカーだって名乗り出たからには、肩書通りに戦えるようにしておかないとね」
天井へ向けて腕を伸ばし、綾斗はゆっくりと上半身を起こした。傍らに座る京子を振り返って、「あれ」と眉を顰める。
「何かあった?」
「え?」
じっと見つめられて戸惑う京子に、綾斗は「だって」と苦笑した。
「涙の痕があるから。彰人さんと何かあった?」
「そうじゃないよ。これはマサさんに会ったから。制服着てるの見たら止まらなくなっちゃって」
「その事か。俺もちょっと震えた。まさかマサさんの力を失った原因が佳祐さんだなんて思いもしなかったからね。マサさんがずっと戻りたかったのは知ってるから。けど、だからこそ特殊能力は怖いって思ったよ」
「それは綾斗もだけどね」
綾斗はバーサーカーだ。銀環を付けたまま暴走レベルの威力を出せるというその力は、京子にとって十分な脅威だ。
「俺が怖い?」
「綾斗が怖い訳じゃないよ。同じ力を持った松本さんが敵で、自分はどれだけ戦えるんだろうって思う」
不安気な京子に手を伸ばして、綾斗は涙の痕に指を這わせた。
「威力だけでどうにかなるわけじゃないよ」
「うん、そう思いたい。マサさんと手合わせしたんでしょ? どうだった?」
「ずっと鍛錬してきたんだなって思った。昔はここで色々教えて貰ったけど、キーダーとしてのブランクなんて殆ど感じられなかったよ」
「そうなんだ。私もうかうかしていられないな」
綾斗は「俺も」と頷いて、身体を支えるように手を床へ着いた。
ここ数日バーサーカーとしての訓練をしてきた彼は、疲労が溜まっているように見える。九州から戻って休む暇もない程慌ただしかったせいもあるだろう。
明日はようやく土曜日で、二人の非番が重なっていた。
「今日はもう無理しない方が良いよ。それよりスタミナ付けにお肉でも食べに行かない?」
食べたいものをガッツリ食べて、明日はいつもより遅めの起床でぐっすり休めたら──そんな京子流の疲労回復術を提案してみたが、綾斗は「うーん」と言い淀んで、ニコリと笑って見せた。
「肉も魅力的だけど、夕飯はここの食堂で食べて俺の部屋に来ない? ちょっとゆっくりしたいなと思って」
確かにこれだけ疲れていたら、外に出るよりも中で過ごした方が良いのかもしれない。
「分かった」と返事した後、京子はふと忘れていた事実に気付いた。
綾斗の部屋に行くのは、これが初めてだったのだ。
ホールに満ちる強い気配に「凄いな」と焦りを覚えながら、京子は大の字に寝転ぶ彼の所へ駆け寄った。普段感じないほどの気配は、全身がザワリと殺気立つ程だ。
トンと頭の横に膝をついて綾斗の顔を覗き込むと、彼の目がゆっくりと開く。
「何かどんどん強くなってない? ちょっと驚いちゃった」
「その分暫く起き上がるのもしんどいけどね」
綾斗は京子を仰ぎ見るように顎を上げて「お疲れ様」とはにかんだ。
バーサーカーの力は他の能力者に比べて数段に火力は上がるが、力を維持する持久力は乏しく疲労も半端ないらしい。
「綾斗もお疲れ様」
「ありがと。松本さんがどれだけの力で何を仕掛けて来るか分からないけど、俺も同じバーサーカーだって名乗り出たからには、肩書通りに戦えるようにしておかないとね」
天井へ向けて腕を伸ばし、綾斗はゆっくりと上半身を起こした。傍らに座る京子を振り返って、「あれ」と眉を顰める。
「何かあった?」
「え?」
じっと見つめられて戸惑う京子に、綾斗は「だって」と苦笑した。
「涙の痕があるから。彰人さんと何かあった?」
「そうじゃないよ。これはマサさんに会ったから。制服着てるの見たら止まらなくなっちゃって」
「その事か。俺もちょっと震えた。まさかマサさんの力を失った原因が佳祐さんだなんて思いもしなかったからね。マサさんがずっと戻りたかったのは知ってるから。けど、だからこそ特殊能力は怖いって思ったよ」
「それは綾斗もだけどね」
綾斗はバーサーカーだ。銀環を付けたまま暴走レベルの威力を出せるというその力は、京子にとって十分な脅威だ。
「俺が怖い?」
「綾斗が怖い訳じゃないよ。同じ力を持った松本さんが敵で、自分はどれだけ戦えるんだろうって思う」
不安気な京子に手を伸ばして、綾斗は涙の痕に指を這わせた。
「威力だけでどうにかなるわけじゃないよ」
「うん、そう思いたい。マサさんと手合わせしたんでしょ? どうだった?」
「ずっと鍛錬してきたんだなって思った。昔はここで色々教えて貰ったけど、キーダーとしてのブランクなんて殆ど感じられなかったよ」
「そうなんだ。私もうかうかしていられないな」
綾斗は「俺も」と頷いて、身体を支えるように手を床へ着いた。
ここ数日バーサーカーとしての訓練をしてきた彼は、疲労が溜まっているように見える。九州から戻って休む暇もない程慌ただしかったせいもあるだろう。
明日はようやく土曜日で、二人の非番が重なっていた。
「今日はもう無理しない方が良いよ。それよりスタミナ付けにお肉でも食べに行かない?」
食べたいものをガッツリ食べて、明日はいつもより遅めの起床でぐっすり休めたら──そんな京子流の疲労回復術を提案してみたが、綾斗は「うーん」と言い淀んで、ニコリと笑って見せた。
「肉も魅力的だけど、夕飯はここの食堂で食べて俺の部屋に来ない? ちょっとゆっくりしたいなと思って」
確かにこれだけ疲れていたら、外に出るよりも中で過ごした方が良いのかもしれない。
「分かった」と返事した後、京子はふと忘れていた事実に気付いた。
綾斗の部屋に行くのは、これが初めてだったのだ。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
伏線回収の夏
影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。某大学の芸術学部でクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。かつての同級生の不審死。消えた犯人。屋敷のアトリエにナイフで刻まれた無数のXの傷。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の六人は、大学時代にこの屋敷で共に芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。グループの中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。
《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》
霊聴探偵一ノ瀬さんの怪傑推理綺譚(かいけつすいりきたん)
小花衣いろは
キャラ文芸
「やぁやぁ、理くん。ご機嫌いかがかな?」
「ふむ、どうやら彼は殺されたらしいね」
「この世に未練を残したままあの世には逝けないだろう?」
「お嬢さん、そんなところで何をしているんだい?」
マイペースで面倒くさがり。人当たりがよく紳士的で無意識に人を誑かす天才。
警察関係者からは影で“変人”と噂されている美形の名探偵。一ノ瀬玲衣夜。
そんな探偵の周囲に集うは、個性的な面々ばかり。
「玲衣さん、たまにはちゃんとベッドで寝なよ。身体痛めちゃうよ」
「千晴は母親のようなことを言うねぇ」
「悠叶は案外寂しがり屋なんだねぇ。可愛いところもあるじゃないか」
「……何の話してんだ。頭湧いてんのか」
「ふふ、照れなくてもいいさ」
「……おい、いつまでもふざけたこと言ってると、その口塞ぐぞ」
「ふふん、できるものならやってごらんよ」
「えぇ、教えてくれたっていいじゃないか。私と君たちの仲だろう?」
「お前と名前を付けられるような関係になった覚えはない」
「あはは、理くんは今日もツンデレ絶好調だねぇ」
「っ、誰がツンデレだ!」
どんな難事件(?)だって個性派ぞろいの仲間と“○○”の助言でゆるっと解決しちゃいます。
「Shed light on the incident.――さぁ、楽しい謎解きの時間だよ」
(※別サイトにも掲載している作品になります)
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/chara_novel.png?id=8b2153dfd89d29eccb9a)
<第一部 完結> お前がなれるわけがない!
mokono
キャラ文芸
貴族社会が中心な世の中で、平民でも政治の場へ参入出来る国がある。
ひょんなことから、役場で働く真面目で優秀な主人公アッシュが、ちょっと変わった家族たちに巻き込まれて、「平民議員」としての政治家の道へと進んでいくことになった。
そんな主人公アッシュが、対抗馬による様々な妨害?などにあいながらも、家族や仲間たちに支えられながら選挙戦へ挑んでいく、コメディ要素が入ったお話です。
現在、第二部 執筆中です。引き続き、皆様の応援よろしくお願いいたします。
小説家になろうにも掲載中!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる