492 / 618
Episode4 京子
197 焦る気持ち
しおりを挟む
『マサさん』こと佐藤雅敏は久志たち同期4人組の1人で、アルガスに入ったばかりの京子や朱羽のトレーナー兼教育係としてずっと本部に居た男だ。
原因不明で失われていた力が、今目の前でキーダーの制服を着る彼から立ち上っている事に気付いた途端、京子は涙の衝動を止めることが出来なかった。
「嘘……」
どうしてこんな事になっているのか状況が把握できず、京子は嗚咽してしまいそうな口元を手で押さえる。
「嘘じゃねぇよ。佳祐が俺の力を塞いでたらしい。酷ぇ事するよな、アイツが死んで突然こうなったんだ。いまだにマジかよって気分だぜ」
能力で消された記憶は、掛けた本人が解くか死亡するかで戻って来る。
──『マサの野郎にも謝っといてくれ』
佳祐が死の間際で言った言葉を理解して、京子は声を震わせた。
「佳祐さん、最後にマサさんに謝っておいてって言ってたの。この事だったんだ」
「前に京子が記憶を戻した時に具合悪くなったって聞いたけど、俺も相当だったぜ。倒れたまま暫く起き上がれなかったからな」
「けど本当に、戻って良かったよ」
「あぁ」
寂しさを滲ませるマサの口調に怒りは感じなかった。
京子は抑えきれない涙に瞼をぎゅっと閉じる。
マサがキーダーの力を突然失ったのは、京子が15歳でアルガスに入るよりも前の事だ。
力の復活を切望してその後も彼が施設員としてアルガスに残ったのは、同期組の三人が彼を支えたからだと思っている。佳祐に喪失の原因があったのは予想外だが、仲間としての顔も全てが偽りではない筈だ。
「長官に挨拶した後、ホールに行って綾斗と手合わせして来たぜ」
「そうなんだ。だからこんなに気配が強く感じるんだね。どうだった?」
「アイツはバーサーカーなんだよな。化け物みてぇだった。俺もキーダーに戻れたからって浮かれてる場合じゃねぇな」
「うん、敵にもバーサーカーは居るからね」
ホルスには元キーダーでバーサーカーの松本が居る。銀環さえ付けていない彼と一対一になってしまったら、戦う事などできるのだろうか。
「なぁ京子、頭触ってもいいか?」
「いきなりセクハラ?」
「そうじゃねぇよ」
彼は宥める時や褒める時に頭を撫でて来る事が多かったが、そんな伺いをされた記憶はない。昔はセナと『セクハラだ』と騒いでいたが、触れられてホッとするような気がしていたのは嘘じゃない。
「いいよ」と答えた瞬間、彼の大きな掌が頭の上にポンと乗った。
「何か感じるか?」
「感じる……? 温かいよ? マサさんにこうされるの嫌いじゃない……けど」
「そっか」
マサは短く唸って手を離す。
「どうしたの? 何かあるの?」
「それがな、久志の話だとこれは俺の特殊能力らしい。佳祐は記憶を操るだろ? それを俺が力で解くことが出来るらしいんだ」
「えっ、そうなの?」
「だから真っ先に消されたんだとよ」
ホッとする気持ちが彼の力の断片に触れたからだなどと、気付く由もなかった。
「彰人の親父さんが消したお前の記憶も、俺がキーダーのままだったらもっと早く戻せたんだろうけどな」
京子は自分の掌に顔を落とした。次々と明らかになるキーダーの特殊能力に、急に焦りを感じる。
「みんな凄いね。私にも何かないのかな」
「普通に戦えるだけで十分だろ?」
「──そうだけど」
自分だけ取り残された気分だ。羨ましいと嫉妬してしまう。
「マサさん、今日はこのまま居るの?」
「いや、もう帰るよ。来月セナが出産だし、何もない時は側に居ろって颯太さんから釘刺されてんだよ」
「颯太さん、産婦人科の先生だったんだもんね」
「あぁ。それに久志の骨折もまだ完治までは掛かるらしいから」
「そうなんだ、早く良くなると良いね」
「だな。だから俺はあっちで訓練して、戦いになったら戻って来るよ」
戦いを望むわけじゃないけれど、彼がキーダーとして戦えることは京子も嬉しくてたまらなかった。
「私も今度手合わせさせて」
「おぅ」と手を上げるマサが部屋を出て行くのを見送って、京子は3階へ向かう。
ホールの扉を開けた途端、外で感じた以上の強い気配が広がった。
「綾斗」
「凄いな」と呟いて、京子は中央で寝転ぶ彼に駆け寄った。
原因不明で失われていた力が、今目の前でキーダーの制服を着る彼から立ち上っている事に気付いた途端、京子は涙の衝動を止めることが出来なかった。
「嘘……」
どうしてこんな事になっているのか状況が把握できず、京子は嗚咽してしまいそうな口元を手で押さえる。
「嘘じゃねぇよ。佳祐が俺の力を塞いでたらしい。酷ぇ事するよな、アイツが死んで突然こうなったんだ。いまだにマジかよって気分だぜ」
能力で消された記憶は、掛けた本人が解くか死亡するかで戻って来る。
──『マサの野郎にも謝っといてくれ』
佳祐が死の間際で言った言葉を理解して、京子は声を震わせた。
「佳祐さん、最後にマサさんに謝っておいてって言ってたの。この事だったんだ」
「前に京子が記憶を戻した時に具合悪くなったって聞いたけど、俺も相当だったぜ。倒れたまま暫く起き上がれなかったからな」
「けど本当に、戻って良かったよ」
「あぁ」
寂しさを滲ませるマサの口調に怒りは感じなかった。
京子は抑えきれない涙に瞼をぎゅっと閉じる。
マサがキーダーの力を突然失ったのは、京子が15歳でアルガスに入るよりも前の事だ。
力の復活を切望してその後も彼が施設員としてアルガスに残ったのは、同期組の三人が彼を支えたからだと思っている。佳祐に喪失の原因があったのは予想外だが、仲間としての顔も全てが偽りではない筈だ。
「長官に挨拶した後、ホールに行って綾斗と手合わせして来たぜ」
「そうなんだ。だからこんなに気配が強く感じるんだね。どうだった?」
「アイツはバーサーカーなんだよな。化け物みてぇだった。俺もキーダーに戻れたからって浮かれてる場合じゃねぇな」
「うん、敵にもバーサーカーは居るからね」
ホルスには元キーダーでバーサーカーの松本が居る。銀環さえ付けていない彼と一対一になってしまったら、戦う事などできるのだろうか。
「なぁ京子、頭触ってもいいか?」
「いきなりセクハラ?」
「そうじゃねぇよ」
彼は宥める時や褒める時に頭を撫でて来る事が多かったが、そんな伺いをされた記憶はない。昔はセナと『セクハラだ』と騒いでいたが、触れられてホッとするような気がしていたのは嘘じゃない。
「いいよ」と答えた瞬間、彼の大きな掌が頭の上にポンと乗った。
「何か感じるか?」
「感じる……? 温かいよ? マサさんにこうされるの嫌いじゃない……けど」
「そっか」
マサは短く唸って手を離す。
「どうしたの? 何かあるの?」
「それがな、久志の話だとこれは俺の特殊能力らしい。佳祐は記憶を操るだろ? それを俺が力で解くことが出来るらしいんだ」
「えっ、そうなの?」
「だから真っ先に消されたんだとよ」
ホッとする気持ちが彼の力の断片に触れたからだなどと、気付く由もなかった。
「彰人の親父さんが消したお前の記憶も、俺がキーダーのままだったらもっと早く戻せたんだろうけどな」
京子は自分の掌に顔を落とした。次々と明らかになるキーダーの特殊能力に、急に焦りを感じる。
「みんな凄いね。私にも何かないのかな」
「普通に戦えるだけで十分だろ?」
「──そうだけど」
自分だけ取り残された気分だ。羨ましいと嫉妬してしまう。
「マサさん、今日はこのまま居るの?」
「いや、もう帰るよ。来月セナが出産だし、何もない時は側に居ろって颯太さんから釘刺されてんだよ」
「颯太さん、産婦人科の先生だったんだもんね」
「あぁ。それに久志の骨折もまだ完治までは掛かるらしいから」
「そうなんだ、早く良くなると良いね」
「だな。だから俺はあっちで訓練して、戦いになったら戻って来るよ」
戦いを望むわけじゃないけれど、彼がキーダーとして戦えることは京子も嬉しくてたまらなかった。
「私も今度手合わせさせて」
「おぅ」と手を上げるマサが部屋を出て行くのを見送って、京子は3階へ向かう。
ホールの扉を開けた途端、外で感じた以上の強い気配が広がった。
「綾斗」
「凄いな」と呟いて、京子は中央で寝転ぶ彼に駆け寄った。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
デリバリー・デイジー
SoftCareer
キャラ文芸
ワケ有りデリヘル嬢デイジーさんの奮闘記。
これを読むと君もデリヘルに行きたくなるかも。いや、行くんじゃなくて呼ぶんだったわ……あっ、本作品はR-15ですが、デリヘル嬢は18歳にならないと呼んじゃだめだからね。
※もちろん、内容は百%フィクションですよ!
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる