461 / 647
Episode4 京子
171 別れの言葉
しおりを挟む
戦いは、ほぼ互角──けれど、戦闘開始から一分と経たぬ間に久志が倒れた。
佳祐の攻撃は躊躇いなく久志の足を狙う。切断さえ防いだが、その圧倒的な打撃に太腿が嫌な音を立てて踏み込みの感覚を消失させた。
久志は体勢を崩して、そのまま地面に崩れる。
伸ばした右手で、足がある事を確認する。骨が折れたのだと理解した途端、痛みが全身を貫いた。
「グハァァァ!」
衝撃を逃すように叫んで、久志は光を放つ。
立つことはできないが、能力で戦闘を続けることは可能だ。
ただ、相当に分は悪い。
「久、止めようぜ」
佳祐は攻撃を弾いて、疲れたように笑う。ジリジリと近付いた足が久志を跨いで、馬乗りに腰を落とした。
力任せに身体を捻るが、体格も重量も違う佳祐から逃れる事は出来ない。惨敗だ。
脚の痛みが響いて、頭が朦朧としてくる。
閉じそうになる瞳を必死にこじ開けた。
「だから甘いって言ってんだよ。お前はいつだってそうだ。俺を敵だと思ってねぇ。だから最後の最後で手を抜くんだろ?」
「手なんて……抜いてないからな?」
ただ、心のどこかで殺したくないとは思っていたのかもしれない。
「下半身がお粗末なのは、やよいの事ばっか考えて鍛錬サボったせいなんじゃないのか?」
反論もできなかった。この二ヶ月、基礎鍛錬は欠かさずしていたつもりだが、どうしてもやよいがチラついてぼんやりしている事も多かった。
けれど、それを理由にはしたくない。
痛みから意識を外して、弱まった力を佳祐へ集中させる。
趙馬刀はどこかへ飛んで行ったままだが、彰人を真似て作った光の刃が、手中から佳祐の顔面へ伸びた。
一瞬の攻撃は、佳祐の頬に赤色の筋を付けてパァッと霧散する。
「俺は本気だぜ。お前相手に手ぇ抜いたら負けるって分かってるからな」
「佳祐……」
「俺がもう生きていられねぇ事くらい分かってんだろ? 殺せよ。俺がマサの力を奪って、やよいを殺したんだ。全部気付いたお前を褒めてやる。もう同情なんて欠片も浮かばねぇだろ?」
「どうして……? どうしてそんなことできるんだよ。僕は三人と居て本当に楽しかったんだ。佳祐は違うの?」
キーダーは規則を守らなければならない。
誰かがやるなら自分がやらなければならない──そう思ってここへ来たのに。
「僕が甘いなんて分かってるよ。けど、佳祐に死んで欲しくなんかないんだ」
久志は腹の上にある佳祐のシャツを力なく掴んだ。誰かにこの事態を伝えたいと思うけれど、どうすることもできない。
佳祐は「馬鹿だな」と笑って、腕時計を確認した。
「最初から敵だったって言っただろ? もう別れを惜しんでる暇はねぇんだよ。お前はこのままここで寝てろ」
佳祐の右手が容赦なく久志の目元を覆う。
「うわぁぁあああ!!」
溢れた気配に死の予感が全身を走って、大声で叫ぶ。
「やめろ、佳祐……」
もがく暇さえ与えてはくれずに、
「やよいが死んだ時、お前を疑うような事言って悪かったなと思ってる。じゃあな、久。俺も楽しかったぜ」
意識が遠退く瞬間、佳祐の声が耳の奥に響いた。
佳祐の攻撃は躊躇いなく久志の足を狙う。切断さえ防いだが、その圧倒的な打撃に太腿が嫌な音を立てて踏み込みの感覚を消失させた。
久志は体勢を崩して、そのまま地面に崩れる。
伸ばした右手で、足がある事を確認する。骨が折れたのだと理解した途端、痛みが全身を貫いた。
「グハァァァ!」
衝撃を逃すように叫んで、久志は光を放つ。
立つことはできないが、能力で戦闘を続けることは可能だ。
ただ、相当に分は悪い。
「久、止めようぜ」
佳祐は攻撃を弾いて、疲れたように笑う。ジリジリと近付いた足が久志を跨いで、馬乗りに腰を落とした。
力任せに身体を捻るが、体格も重量も違う佳祐から逃れる事は出来ない。惨敗だ。
脚の痛みが響いて、頭が朦朧としてくる。
閉じそうになる瞳を必死にこじ開けた。
「だから甘いって言ってんだよ。お前はいつだってそうだ。俺を敵だと思ってねぇ。だから最後の最後で手を抜くんだろ?」
「手なんて……抜いてないからな?」
ただ、心のどこかで殺したくないとは思っていたのかもしれない。
「下半身がお粗末なのは、やよいの事ばっか考えて鍛錬サボったせいなんじゃないのか?」
反論もできなかった。この二ヶ月、基礎鍛錬は欠かさずしていたつもりだが、どうしてもやよいがチラついてぼんやりしている事も多かった。
けれど、それを理由にはしたくない。
痛みから意識を外して、弱まった力を佳祐へ集中させる。
趙馬刀はどこかへ飛んで行ったままだが、彰人を真似て作った光の刃が、手中から佳祐の顔面へ伸びた。
一瞬の攻撃は、佳祐の頬に赤色の筋を付けてパァッと霧散する。
「俺は本気だぜ。お前相手に手ぇ抜いたら負けるって分かってるからな」
「佳祐……」
「俺がもう生きていられねぇ事くらい分かってんだろ? 殺せよ。俺がマサの力を奪って、やよいを殺したんだ。全部気付いたお前を褒めてやる。もう同情なんて欠片も浮かばねぇだろ?」
「どうして……? どうしてそんなことできるんだよ。僕は三人と居て本当に楽しかったんだ。佳祐は違うの?」
キーダーは規則を守らなければならない。
誰かがやるなら自分がやらなければならない──そう思ってここへ来たのに。
「僕が甘いなんて分かってるよ。けど、佳祐に死んで欲しくなんかないんだ」
久志は腹の上にある佳祐のシャツを力なく掴んだ。誰かにこの事態を伝えたいと思うけれど、どうすることもできない。
佳祐は「馬鹿だな」と笑って、腕時計を確認した。
「最初から敵だったって言っただろ? もう別れを惜しんでる暇はねぇんだよ。お前はこのままここで寝てろ」
佳祐の右手が容赦なく久志の目元を覆う。
「うわぁぁあああ!!」
溢れた気配に死の予感が全身を走って、大声で叫ぶ。
「やめろ、佳祐……」
もがく暇さえ与えてはくれずに、
「やよいが死んだ時、お前を疑うような事言って悪かったなと思ってる。じゃあな、久。俺も楽しかったぜ」
意識が遠退く瞬間、佳祐の声が耳の奥に響いた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
まさかwebで ミステリー大賞に リベンジする日が来るなんて!
のーまじん
キャラ文芸
私の友人克也は謎の人物である。
彼の素性はよく分からないし、知ろうともしてなかった。
それはバーのカウンターの知り合いのごとく、フリマでなんと無く出会ったその場限りの知人関係であり、彼はなんか、世界のディープな秘密を田舎の図書館で暴こうとする謎の男だからだ。
WEBでの小説活動の限界を感じた私は、せめて彼の研究をあの人気オカルト雑誌『みぃムー」の読者の研究に投稿出来ないかとこっそり活動を始めるのだった。
冥王の迷宮
もうすぐ、2025年、止めていた作品を再開しようとかんがえる。
けれど、20世紀に密かに再造されたUFOがオカルトの秘密結社のものだと知って気持ちが冷めてしまう。
なんとか気持ちを上げようと、克也を地元の図書館で待っていた私の元に現れたのはオカルト克也ではなく山臥だった。
山臥の助言を元に、天動説とガリレオを探していた私は、天王星の発見から始まる物語に驚愕するのである。
この話はフィクションです。
離縁の雨が降りやめば
月ヶ瀬 杏
キャラ文芸
龍の眷属と言われる竜堂家に生まれた葵は、三つのときに美雲神社の一つ目の龍神様の花嫁になった。
これは、龍の眷属である竜堂家が行わなければいけない古くからの習わしで、花嫁が十六で龍神と離縁する。
花嫁が十六歳の誕生日を迎えると、不思議なことに大量の雨が降る。それは龍神が花嫁を現世に戻すために降らせる離縁の雨だと言われていて、雨は三日三晩降り続いたのちに止むのが常だが……。
葵との離縁の雨は降りやまず……。
お好み焼き屋さんのおとなりさん
菱沼あゆ
キャラ文芸
熱々な鉄板の上で、ジュウジュウなお好み焼きには、キンキンのビールでしょうっ!
ニートな砂月はお好み焼き屋に通い詰め、癒されていたが。
ある日、驚くようなイケメンと相席に。
それから、毎度、相席になる彼に、ちょっぴり運命を感じるが――。
「それ、運命でもなんでもなかったですね……」
近所のお医者さん、高秀とニートな砂月の運命(?)の恋。
書捨て4コマ的SS集〜思いつきで書く話
ねぎ(ポン酢)
キャラ文芸
何も考えてない時などに書く書逃げ4コマ的SS集。(基本全て1話読み切り短編)
思いつきの勢いのほぼ無意味なお遊び的なお話。前後左右など特になく、いきなり始まりいきなり終わります。(そして特に続きはないです)
(『stand.fm』にて、AI朗読【自作Net小説朗読CAFE】をやっております。AI朗読を作って欲しい短編がありましたらご連絡下さい。)
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/chara_novel.png?id=8b2153dfd89d29eccb9a)
陰の行者が参る!
書仙凡人
キャラ文芸
三上幸太郎、24歳。この物語の主人公である。
筋金入りのアホの子じゃった子供時代、こ奴はしてはならぬ事をして疫病神に憑りつかれた。
それ以降、こ奴の周りになぜか陰の気が集まり、不幸が襲い掛かる人生となったのじゃ。
見かねた疫病神は、陰の気を祓う為、幸太郎に呪術を授けた。
そして、幸太郎の不幸改善する呪術行脚が始まったのである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる