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Episode4 京子
156 修司のキモチは?
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「来いよ」と腕を引いて、美弦と路地へ入り込む。
平日の夕方で駅の側という条件が重なり、通りは通勤通学の人で溢れていた。そんな中で彼女を泣かせたとなれば、周りの視線は槍のように刺さって来る。
隠れたと言うには程遠い位置だが、その先にはまた別の繁華街が続いていて、これ以上はどうにもならなかった。
修司は電柱の陰でボロボロに泣く美弦を抱き締める。
「黙って行ったのは謝るよ。けどアイドルに会いに行くのは、個人が好きだとかそういうのじゃねぇし。元気貰うって言うか? 向こうはそういう仕事してるんだろ? お前への好きって気持ちとは全然違うの」
彼女の涙で胸の辺りが熱かった。
この間ジャスティのライブに行った事が、ずっと彼女の心の中に蟠っているらしい。
正直に話せばこんな事にはならなかったのかもしれないが、言った所で快く送り出して貰えたかと言えば違う気がする。普段から美弦の前でジャスティの話をすると、たちまち機嫌が悪くなるからだ。
「アンタがアイドルを見ながらニヤニヤしてるのを想像すると、気持ち悪いんだもの」
「そんな事勝手に想像すんなよ。お前がどう思おうと、俺はお前が一番なんだから。キスする相手も、それ以上の相手も、お前だけだって思ってる」
「手を繋ぐのは?」
「握手は手を繋ぐとは違うからな?」
握手会の事も根に持ってる。美弦は涙いっぱいの目で、じっと上目遣いに修司を睨んでいた。
沈黙が長い──けれど暫くその状態が続いた後、彼女の手がひしと修司の背中に回る。
「ここで行かないなんて約束したら、隠れていく事になるかもしれない。彼女たちには仕事で会う機会もあるだろうし、これからはちゃんと言うから」
「……分かったわよ」
不貞腐れた空気が否めないが、修司は「ありがとう」と抱き締めた手に力を込めた。
自分が悪いのは分かっている。これ以上理由を付けても言い訳にしかならない。
「じゃあ、キスしていい?」
「じゃあって何よ? アンタこんなトコで馬鹿じゃないの?」
「いいから」
そんな気分だった。『馬鹿』だと言われてホッとしたら止められなかった。
彼女の『馬鹿』はいつもの彼女に戻った合言葉みたいなものだと思う。
「恥ずかしいよ」
通りすがりのカップルが何か言っている声が聞こえて、美弦が隠れるように修司の胸に顔を押し付ける。
けれど、当のカップルは自分たちの世界に入っているだけだ。
「大丈夫、見られてねぇよ」
「本当──?」
そろりと顔を覗かせる彼女に、「ホント」と笑う。
「見られたらどうすんのよ」
「アホなカップルだって思われるだけだろ? けど、いいじゃん? 今くらい」
美弦は真一文字に唇を結んで、さっきの質問の答えをくれる。
「友達に、修司の事キーダーだから好きな訳じゃないでしょ? って聞かれたの。けどね、何度考えてもその理由は含まれてると思う。修司はキーダーだから、対等な関係で接してくれるもの」
「まぁ、俺がノーマルだったら今と同じようには居れないかもな」
自分がバスクだった頃、キーダーの美弦に会ってその差に愕然とした。
彼女の横に居たいと思ったから銀環を付ける選択をしたのだ。
「私が怒っても、本音を言っても、ちゃんと本音で返してくれる。そんな男子、他に会った事なかった」
「それは俺も自分で凄ぇと思ってるけどな」
確かに、なかなか出来る事じゃないだろう。
顔色を見て行動するのは良くないと言う奴も居るが、顔色を見ないとどうしようにもない事もあるのだ。自分の生活が平和であるための技だと思う。
「だから修司、隠し事はしないで」
目を潤ませて訴える美弦に、修司は「心がける」ともう一度キスした。
結局今日の呼び出しの理由は、彼女のそんな気持ちのせいだったようだ。
怒っている筈なのに怒鳴らない彼女に調子が狂うが、珍しく見せたしおらしさに気付いていないフリをして、そのままクレープ屋を目指した。
平日の夕方で駅の側という条件が重なり、通りは通勤通学の人で溢れていた。そんな中で彼女を泣かせたとなれば、周りの視線は槍のように刺さって来る。
隠れたと言うには程遠い位置だが、その先にはまた別の繁華街が続いていて、これ以上はどうにもならなかった。
修司は電柱の陰でボロボロに泣く美弦を抱き締める。
「黙って行ったのは謝るよ。けどアイドルに会いに行くのは、個人が好きだとかそういうのじゃねぇし。元気貰うって言うか? 向こうはそういう仕事してるんだろ? お前への好きって気持ちとは全然違うの」
彼女の涙で胸の辺りが熱かった。
この間ジャスティのライブに行った事が、ずっと彼女の心の中に蟠っているらしい。
正直に話せばこんな事にはならなかったのかもしれないが、言った所で快く送り出して貰えたかと言えば違う気がする。普段から美弦の前でジャスティの話をすると、たちまち機嫌が悪くなるからだ。
「アンタがアイドルを見ながらニヤニヤしてるのを想像すると、気持ち悪いんだもの」
「そんな事勝手に想像すんなよ。お前がどう思おうと、俺はお前が一番なんだから。キスする相手も、それ以上の相手も、お前だけだって思ってる」
「手を繋ぐのは?」
「握手は手を繋ぐとは違うからな?」
握手会の事も根に持ってる。美弦は涙いっぱいの目で、じっと上目遣いに修司を睨んでいた。
沈黙が長い──けれど暫くその状態が続いた後、彼女の手がひしと修司の背中に回る。
「ここで行かないなんて約束したら、隠れていく事になるかもしれない。彼女たちには仕事で会う機会もあるだろうし、これからはちゃんと言うから」
「……分かったわよ」
不貞腐れた空気が否めないが、修司は「ありがとう」と抱き締めた手に力を込めた。
自分が悪いのは分かっている。これ以上理由を付けても言い訳にしかならない。
「じゃあ、キスしていい?」
「じゃあって何よ? アンタこんなトコで馬鹿じゃないの?」
「いいから」
そんな気分だった。『馬鹿』だと言われてホッとしたら止められなかった。
彼女の『馬鹿』はいつもの彼女に戻った合言葉みたいなものだと思う。
「恥ずかしいよ」
通りすがりのカップルが何か言っている声が聞こえて、美弦が隠れるように修司の胸に顔を押し付ける。
けれど、当のカップルは自分たちの世界に入っているだけだ。
「大丈夫、見られてねぇよ」
「本当──?」
そろりと顔を覗かせる彼女に、「ホント」と笑う。
「見られたらどうすんのよ」
「アホなカップルだって思われるだけだろ? けど、いいじゃん? 今くらい」
美弦は真一文字に唇を結んで、さっきの質問の答えをくれる。
「友達に、修司の事キーダーだから好きな訳じゃないでしょ? って聞かれたの。けどね、何度考えてもその理由は含まれてると思う。修司はキーダーだから、対等な関係で接してくれるもの」
「まぁ、俺がノーマルだったら今と同じようには居れないかもな」
自分がバスクだった頃、キーダーの美弦に会ってその差に愕然とした。
彼女の横に居たいと思ったから銀環を付ける選択をしたのだ。
「私が怒っても、本音を言っても、ちゃんと本音で返してくれる。そんな男子、他に会った事なかった」
「それは俺も自分で凄ぇと思ってるけどな」
確かに、なかなか出来る事じゃないだろう。
顔色を見て行動するのは良くないと言う奴も居るが、顔色を見ないとどうしようにもない事もあるのだ。自分の生活が平和であるための技だと思う。
「だから修司、隠し事はしないで」
目を潤ませて訴える美弦に、修司は「心がける」ともう一度キスした。
結局今日の呼び出しの理由は、彼女のそんな気持ちのせいだったようだ。
怒っている筈なのに怒鳴らない彼女に調子が狂うが、珍しく見せたしおらしさに気付いていないフリをして、そのままクレープ屋を目指した。
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