上 下
441 / 622
Episode4 京子

152 背の高いイケメン

しおりを挟む
 あれは今年の正月の事だ。
 別れたばかりの桃也とうやにお守りを渡す為、飛び立つ前の彼を追って羽田空港へ向かった。
 そこで出会った迷子少女『かの』の母親は、過去に自分もキーダーに助けられた事があるという。その相手を『背が高くて、カッコ良かった』と言っていたが、誰の事なのだろうか。

「ねぇ綾斗あやと曳地ひきちさんって背の高いイケメンだと思う?」
「はぁ?」

 少し大きめな京子の声にぎょっとして、綾斗あやとが「駄目だよ!」と小さく声を上げた。
 もう既に本人の姿は視界から消えているが、どこにどんな耳がひそんでいるか分からない。
 京子は右手で口を押さえ、スッキリしない表情で「うーん」とうなった。

「突然どうした?」

 困り顔を傾ける綾斗に、京子は空港でのことを話す。

「ずっとそれが曳地さんの事だと思ってたんだけど、久しぶりに会ってみると何か違うような気がして。背が高いっていうのは、どのくらいを指すんだと思う?」
「俺に喧嘩売ってる?」
「そうじゃないよ。私からすれば綾斗だって高いもん。あのお母さんも、私と同じくらいの身長だったと思うんだ」
「京子さんがそう言ってくれるのは嬉しいけど、俺くらいの高さをわざわざ高いなんて言わないんじゃないかな。せめて175は軽く超えるくらいじゃないと」
「175か」

 照れ臭そうな表情をこらえながら答える綾斗は、172か3だと言っていた気がする。そんな彼とほぼ同じ背の曳地は、京子の古い記憶よりもだいぶ視線が近かった。

「じゃあ、曳地さんは違うのかな。けど他に30代居ないよね? イケメンってのも……」
「駄目だよ、そこは個人の主観なんだから」
「はぁい」

 悪ノリしそうになった所で止められ、京子は肩をすくめた。

「けど、結局誰の事なんだろう。15年以上前の爆発騒ぎで助けられたって言うけど、暴走事件が起きたって事?」
「『大晦日の白雪』以前に大規模な騒ぎはなかった筈だけど、小規模の物なら幾つかあったと思うよ」

 京子もアルガスに来て長いが、過去にあった事件の話など耳にする機会は殆どなかった。
 胸騒ぎを覚え、京子は不安な気持ちで綾斗を見上げる。

「何だろう、気になるな」
朱羽あげはさんに聞いてみるのが早いんじゃない? 彼女が一番詳しいと思うし、資料庫も当てにならない時があるから」
「確かにそうかも。連絡してみようかな」

 朱羽はキーダーの中で一番の事情通だと思っている。
 昼食後、京子は早速彼女に電話した。


   ☆
「15年くらい前の事なんだけど、暴走事件がどこかで起きてないかなと思って」
『その頃だと高松かしら。そこまで大きな事件ではないけど、暴走を起こした本人は、その時に亡くなってるわ』
「そんな事があったんだ。すごいよ朱羽、多分それの事だと思う」

 正月に空港で会った達は、帰省から戻ったのだと言っていた。確か四国からの便だった気がする。
 四国は中国支部の管轄だが、曳地はまだ別の支部に居た筈だ。
 とりあえず事件まで辿り着けたことに京子は「やった」とはしゃぐが、朱羽は『けどね』と言葉を濁す。

『詳細は殆どないのよ』
「小規模だったからってこと?」
『逆よ。御遺族の希望で消されてしまっているの』
「犯人の、じゃなくて? 他に死人が出てるって事?」
『えぇ』

 朱羽の返事は重かった。
 『大晦日の白雪』でさえ、桃也の暴走で亡くなったのは強盗犯の一人だけだ。犯人と被害者の二人も死人が出ているシークレット事案に、京子は目を見開いた。

「朱羽も知らないの?」
『私の口からは言えないって事よ。だから聞かないで』
「そういう事か。ごめん」

 情報開示に関して、朱羽は一般のキーダーよりも権限がある。
 京子には伝えられていない事実を、彼女はどれだけ持っているのだろう。

『謝らないで。それよりその事件がどうしたのよ。京子、何か探ってるの?」
「探ってるわけじゃないよ。昔、その事件の時にキーダーに助けられたって人が居てね、誰なんだろうって思ったの」
『そういう事か……けど、上が秘密にしているならそれなりに理由があるって事よ? あんまり首を突っ込まないようにね』
「うん」

 秘密を知っている彼女が、そんな言葉をくれる。
 詮索してはいけないと分かっているのに、『それなりの理由』が気になってしまう。

「それより京子、桃也くん大変な事になったわね。私たちもできる限り応援してあげなきゃ」
「そうだね」

 桃也の事も気になるが、京子の頭は高松の事件で一杯になってしまう。
 けれど、その哀しい答えに辿り着くまでそう時間は掛からなかった。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

AV研は今日もハレンチ

楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo? AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて―― 薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

処理中です...