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Episode4 京子
106 女の勘は鋭い
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金沢から新幹線で帰宅した翌日、京子は朝からアルガスへ向かった。
綾斗との事はまだみんなに公表はしないでおこうと言う話になったが、デスクルームに入った途端、彼と触れ合った視線に一瞬顔が緩んでしまった。
綾斗を含めた三人は既に席に着いていて、京子は表情をぎゅっと引き締めて平静を装う。
「おはよう。二人とも留守番お疲れ様。これお土産買ってきたからどうぞ」
「わぁ、ありがとうございます! こんなにいっぱい」
「お茶の時にみんなで食べよ」
事務所に届いていた段ボールから、ここの分を抜いて持ってきた。
金沢らしいお土産をと思ったもののなかなか一つに絞ることができず、あれもこれもと紙袋一つ分になってしまった。
「こっちはどうだった? 彰人くんは帰っちゃったって聞いたけど、特に何もなかった?」
「はい。けど、彰人さんが居てくれて心強かったです。それに、大舎卿も昨日いらしてたんですよ」
「えっ、爺が?」
「そうなんだ、知らなかったな」
眉を上げる綾斗と目を合わせて、京子は大きく頷く。
大舎卿が実はサードの一人で、有給休暇を消化すると言いながら秘かに裏で動いているという事実を、この間マサに聞いたばかりだ。
それにしても彼が本部に顔を出すなど何年振りだろうか。
「浩一郎さんと面会したらしいです」
「へぇ。このタイミングで? 何か言ってた?」
「いえ」
美弦は首を横に振る。
理由は分からないが、もう三年も地下に居る浩一郎が今回の事に関係しているとは考えにくい。京子が人差し指をギュウと頬に押し付けて唇を尖らせると、修司が「あの」と口を挟んだ。
「俺はまだここに待機しなきゃならないんですかね? 上官たちに聞いてみたんですけど、ちゃんと答えて貰えなくて」
「向こうがそれどころじゃないから、何とも言えないってのが正直なトコなんだと思うよ」
「ですよねぇ」と諦めモードの修司に、皆が苦い顔で相槌を打つ。
この春から北陸へ行く予定にストップが掛かって、修司は今宙ぶらりんの状態だ。来年の春に戻れると見込んで大学入試を一年先送りにしたが、出発が後ろへズレると来年の入試が危ぶまれる。
「けど、ここに居ても訓練することに変わりはないんだから、いつも通りトレーニングして勉強もしてればいいよ。時期は融通を利かせて貰えるかもしれないし、その時は俺も一緒に長官に掛け合ってみるから」
「綾斗さぁぁあん」
ずっと不安だったのか、修司が泣きつくように安堵を広げた。
確かに桃也や朱羽に長官の便宜が大きく影響している事は、ここ数ヶ月で良く分かった。美弦もホッとした顔を見せて、「そうだ」と顔を上げる。
「京子さん、朱羽さんに今日中の届け物があるんですけど、どうしますか? 私行けますよ?」
美弦は机にある茶封筒を京子に向けた。
「いいよ、私が行く」
「俺も行きます?」
「ううん、綾斗は書類とか溜まってると思うからそっち任せていい?」
「分かりました」
普段整頓されている綾斗の机が、マサの部屋宜しく紙だらけになっている。重要な資料は彼が一番に目を通すことが多く、反対に京子の机は出発時とほとんど変わりなかった。
「朱羽と話したいこともあるし、このまま行ってくるね」
そう言うと京子は、受け取った封筒を鞄に入れて部屋を出た。
やよいの敵討ちをしたいとは言ったものの、今自分が何をすれば良いのか具体的なことが見えてこない。
これからの事をぼんやりと考えながら階段を下りて外へ出た所で、
「京子さん!」
後ろから追い掛けてきた美弦に声を掛けられた。
「え?」と芝生を踏み込んで振り返ると、酷く興奮した様子の彼女が目の前で立ち止まる。
「どうしたの、美弦」
何か忘れものでもしただろうか──そう思ったのも束の間、美弦はその胸に詰まった想いを一息で吐き出したのだ。
「京子さん、綾斗さんと何かありましたね?」
女の勘は鋭いらしい。
綾斗との事はまだみんなに公表はしないでおこうと言う話になったが、デスクルームに入った途端、彼と触れ合った視線に一瞬顔が緩んでしまった。
綾斗を含めた三人は既に席に着いていて、京子は表情をぎゅっと引き締めて平静を装う。
「おはよう。二人とも留守番お疲れ様。これお土産買ってきたからどうぞ」
「わぁ、ありがとうございます! こんなにいっぱい」
「お茶の時にみんなで食べよ」
事務所に届いていた段ボールから、ここの分を抜いて持ってきた。
金沢らしいお土産をと思ったもののなかなか一つに絞ることができず、あれもこれもと紙袋一つ分になってしまった。
「こっちはどうだった? 彰人くんは帰っちゃったって聞いたけど、特に何もなかった?」
「はい。けど、彰人さんが居てくれて心強かったです。それに、大舎卿も昨日いらしてたんですよ」
「えっ、爺が?」
「そうなんだ、知らなかったな」
眉を上げる綾斗と目を合わせて、京子は大きく頷く。
大舎卿が実はサードの一人で、有給休暇を消化すると言いながら秘かに裏で動いているという事実を、この間マサに聞いたばかりだ。
それにしても彼が本部に顔を出すなど何年振りだろうか。
「浩一郎さんと面会したらしいです」
「へぇ。このタイミングで? 何か言ってた?」
「いえ」
美弦は首を横に振る。
理由は分からないが、もう三年も地下に居る浩一郎が今回の事に関係しているとは考えにくい。京子が人差し指をギュウと頬に押し付けて唇を尖らせると、修司が「あの」と口を挟んだ。
「俺はまだここに待機しなきゃならないんですかね? 上官たちに聞いてみたんですけど、ちゃんと答えて貰えなくて」
「向こうがそれどころじゃないから、何とも言えないってのが正直なトコなんだと思うよ」
「ですよねぇ」と諦めモードの修司に、皆が苦い顔で相槌を打つ。
この春から北陸へ行く予定にストップが掛かって、修司は今宙ぶらりんの状態だ。来年の春に戻れると見込んで大学入試を一年先送りにしたが、出発が後ろへズレると来年の入試が危ぶまれる。
「けど、ここに居ても訓練することに変わりはないんだから、いつも通りトレーニングして勉強もしてればいいよ。時期は融通を利かせて貰えるかもしれないし、その時は俺も一緒に長官に掛け合ってみるから」
「綾斗さぁぁあん」
ずっと不安だったのか、修司が泣きつくように安堵を広げた。
確かに桃也や朱羽に長官の便宜が大きく影響している事は、ここ数ヶ月で良く分かった。美弦もホッとした顔を見せて、「そうだ」と顔を上げる。
「京子さん、朱羽さんに今日中の届け物があるんですけど、どうしますか? 私行けますよ?」
美弦は机にある茶封筒を京子に向けた。
「いいよ、私が行く」
「俺も行きます?」
「ううん、綾斗は書類とか溜まってると思うからそっち任せていい?」
「分かりました」
普段整頓されている綾斗の机が、マサの部屋宜しく紙だらけになっている。重要な資料は彼が一番に目を通すことが多く、反対に京子の机は出発時とほとんど変わりなかった。
「朱羽と話したいこともあるし、このまま行ってくるね」
そう言うと京子は、受け取った封筒を鞄に入れて部屋を出た。
やよいの敵討ちをしたいとは言ったものの、今自分が何をすれば良いのか具体的なことが見えてこない。
これからの事をぼんやりと考えながら階段を下りて外へ出た所で、
「京子さん!」
後ろから追い掛けてきた美弦に声を掛けられた。
「え?」と芝生を踏み込んで振り返ると、酷く興奮した様子の彼女が目の前で立ち止まる。
「どうしたの、美弦」
何か忘れものでもしただろうか──そう思ったのも束の間、美弦はその胸に詰まった想いを一息で吐き出したのだ。
「京子さん、綾斗さんと何かありましたね?」
女の勘は鋭いらしい。
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