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Episode4 京子
103 バーサーカーだった男
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綾斗が京子に秘密を打ち明けたのと同じ頃、アルガスの本部には地下へと下りる大舎卿の姿があった。
『有給休暇の消化』という名目で通常勤務を離れ、本部に来るのも数ヶ月ぶりだ。お陰で事務所に居た若いキーダーの二人に、声を上げて驚かれてしまった。
本部の地下牢は幾つかのエリアに分かれていて、大舎卿はその一番底へ下りる。
扉を立ち塞ぐ護兵の男もまた、英雄の登場に目を丸めながら敬礼した。
「お久しぶりです。今日はどうされました?」
男は慌ててポケットから取り出した電子メモを確認するが、その予定は確認できなかった。
「急ですまんな。上の許可は取ってある」
「分かりました」
護兵は腕時計を一瞥し、道を開ける。
大舎卿は胸に提げた許可証を翳しながらそのエリアへと踏み込んだ。
「生きておるか?」
1つだけ明かりの漏れた鉄格子を覗くと、細長い六畳ほどの部屋の奥で浩一郎が「やぁ」と椅子から立ちあがった。まるで自宅で家族を迎えるようなテンションに、大舎卿は『ふん』と鼻を鳴らす。
アルガスに収監中の罪人の中で、最も刑期が長いのが三年前アルガス本部に襲撃を仕掛けた元キーダーでバスクの遠山浩一郎だ。
あれから会うのは今日で二度目だが、相変わらず時間の経過など感じさせない態度で「待ってたよ」と笑顔を見せる。
髪は少し伸びているが、声も意識もハッキリとしていた。ブンと鳴る蛍光灯の明かりの下に立つ浩一郎はやつれた様子もなく、むしろ肌艶が前より良くなった気がして、大舎卿は訝しげに目を細める。
「優雅な生活をしているようじゃの」
「そんなことないよ。暇が辛いんだ」
「ほぉ」
「昔の癖だよね、訓練なんて嫌だったのに体に染みついてる。じっとしてなんかいられないから、一人で勝手に動いてるよ」
囚人服という特別なものはなく、浩一郎は灰色のТシャツにスウェットパンツというラフな格好をしている。相当動いているのか、上腕筋が前よりも増しているように見えた。
「それで、何か用があるから来たんだろ? もう俺はこんな身だから、勘ちゃんには全力で協力するよ?」
「あぁそうして貰うつもりだ。お前、松本が今どうしているか知らんか?」
「松本? あぁヒデか、あのお調子者ね。解放の時以来会ってないから、知らないよ?」
元キーダーの松本秀信は、アルガス解放の時に一度外した浩一郎の銀環を、上手い話術に乗せられて再び結んだ張本人だ。そのせいで力を持ったまま浩一郎は外へ出た。
「松本は解放時に留まったが、数年後にアルガスを出とる。損得しか考えていないような男が外で何をしているのかと思ってな」
「今更そんなこと聞くなんて、上で何かあったな」
ほくそ笑む浩一郎に、大舎卿は「色々な」で済ます。この部屋には監視カメラも多く、なるべく細かい話はしたくなかった。
トールになった松本が外で何をしようと勝手だが、最近のホルスの動向や今回のやよいの件で、ふと胸騒ぎを覚えたのだ。
「アルガスに居ると、外が良く見えぬ事も多い。お前ならと思ったんじゃがの」
「頼りにして貰えるなんて嬉しいね。情報提供してやれないのは心苦しいよ。ただ客観的に言わせてもらえば、トールのヒデに価値はないけど、もし俺みたいに何らかの事情で今も能力が使えるとしたら、あの力を欲しいって奴は幾らでもいるだろうね」
「……あの力か」
一度だけ目にした事のあるその光を瞼の裏に蘇らせて、大舎卿は深い溜息をついた。それを見た浩一郎が、勝ち誇ったように胸を張る。
「そういえば勘ちゃん、メガネの少年は元気かい?」
「何だ、綾斗の事を言っておるのか?」
「あぁそう、そんな名前だったね。彼、あれから大分強くなったんじゃない?」
「──何が言いたい?」
意味深な言い回しに大舎卿は苛立つ。
浩一郎は「気付いてないの?」とにんまり笑んで、嬉しそうにその事実を突き付けたのだ。
「彼はヒデと同じバーサーカーだよ」
「まさか」
大舎卿は耳を疑った。
『有給休暇の消化』という名目で通常勤務を離れ、本部に来るのも数ヶ月ぶりだ。お陰で事務所に居た若いキーダーの二人に、声を上げて驚かれてしまった。
本部の地下牢は幾つかのエリアに分かれていて、大舎卿はその一番底へ下りる。
扉を立ち塞ぐ護兵の男もまた、英雄の登場に目を丸めながら敬礼した。
「お久しぶりです。今日はどうされました?」
男は慌ててポケットから取り出した電子メモを確認するが、その予定は確認できなかった。
「急ですまんな。上の許可は取ってある」
「分かりました」
護兵は腕時計を一瞥し、道を開ける。
大舎卿は胸に提げた許可証を翳しながらそのエリアへと踏み込んだ。
「生きておるか?」
1つだけ明かりの漏れた鉄格子を覗くと、細長い六畳ほどの部屋の奥で浩一郎が「やぁ」と椅子から立ちあがった。まるで自宅で家族を迎えるようなテンションに、大舎卿は『ふん』と鼻を鳴らす。
アルガスに収監中の罪人の中で、最も刑期が長いのが三年前アルガス本部に襲撃を仕掛けた元キーダーでバスクの遠山浩一郎だ。
あれから会うのは今日で二度目だが、相変わらず時間の経過など感じさせない態度で「待ってたよ」と笑顔を見せる。
髪は少し伸びているが、声も意識もハッキリとしていた。ブンと鳴る蛍光灯の明かりの下に立つ浩一郎はやつれた様子もなく、むしろ肌艶が前より良くなった気がして、大舎卿は訝しげに目を細める。
「優雅な生活をしているようじゃの」
「そんなことないよ。暇が辛いんだ」
「ほぉ」
「昔の癖だよね、訓練なんて嫌だったのに体に染みついてる。じっとしてなんかいられないから、一人で勝手に動いてるよ」
囚人服という特別なものはなく、浩一郎は灰色のТシャツにスウェットパンツというラフな格好をしている。相当動いているのか、上腕筋が前よりも増しているように見えた。
「それで、何か用があるから来たんだろ? もう俺はこんな身だから、勘ちゃんには全力で協力するよ?」
「あぁそうして貰うつもりだ。お前、松本が今どうしているか知らんか?」
「松本? あぁヒデか、あのお調子者ね。解放の時以来会ってないから、知らないよ?」
元キーダーの松本秀信は、アルガス解放の時に一度外した浩一郎の銀環を、上手い話術に乗せられて再び結んだ張本人だ。そのせいで力を持ったまま浩一郎は外へ出た。
「松本は解放時に留まったが、数年後にアルガスを出とる。損得しか考えていないような男が外で何をしているのかと思ってな」
「今更そんなこと聞くなんて、上で何かあったな」
ほくそ笑む浩一郎に、大舎卿は「色々な」で済ます。この部屋には監視カメラも多く、なるべく細かい話はしたくなかった。
トールになった松本が外で何をしようと勝手だが、最近のホルスの動向や今回のやよいの件で、ふと胸騒ぎを覚えたのだ。
「アルガスに居ると、外が良く見えぬ事も多い。お前ならと思ったんじゃがの」
「頼りにして貰えるなんて嬉しいね。情報提供してやれないのは心苦しいよ。ただ客観的に言わせてもらえば、トールのヒデに価値はないけど、もし俺みたいに何らかの事情で今も能力が使えるとしたら、あの力を欲しいって奴は幾らでもいるだろうね」
「……あの力か」
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「そういえば勘ちゃん、メガネの少年は元気かい?」
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「あぁそう、そんな名前だったね。彼、あれから大分強くなったんじゃない?」
「──何が言いたい?」
意味深な言い回しに大舎卿は苛立つ。
浩一郎は「気付いてないの?」とにんまり笑んで、嬉しそうにその事実を突き付けたのだ。
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