スラッシュ/キーダー(能力者)田母神京子の選択

栗栖蛍

文字の大きさ
上 下
373 / 647
Episode4 京子

88 同期組の男子

しおりを挟む
佳祐けいすけ

 入口で声がして、久志ひさしが足音を鳴らしながら佳祐に詰め寄った。
 今日最初に会った時の憔悴しょうすいした様子とは違い、怒りをはらんだ目が真っ赤に染まっている。そんな彼の様子に、部屋の外に居た綾斗あやとも慌てて飛び込んで来た。

 久志は乱れた黒タイを片手で解き、扇ぐように佳祐を睨みつける。

「久しぶりだってのに、僕やマサには挨拶もなし?」
「さっきは話す暇もなかっただろうが」

 返事する佳祐も、何処か好戦的だ。
 京子はそんな二人を交互に見つめ、そっと綾斗の側へ移動した。

「佳祐は一昨日の夜、どこで何してたんだよ」

 やよいが居なくなった夜の事を、久志はストレートに尋ねる。

「俺を疑ってんのか?」

 佳祐は太い眉をねじり上げる。
 久志の言葉は、疑うというよりも彼が犯人だと決めつけているようだった。導火線に火でもつけたように、久志はヒートアップしていく。

「疑ってるよ。けど、疑いたくないんだ。だから、僕のこのモヤモヤした気持ちを晴らしてくれない?」
「俺じゃねぇよ。そういうお前だってシロだとは言い切れないんじゃねぇのか?」
「僕を疑うの?」
「やよいの死因が能力死だってんなら、数百キロ離れた俺より、一番近くに居たお前を疑うのが普通じゃねぇのか?」
「お前ら、やめろ!」

 険悪な空気を嗅ぎ取ったマサが駆け込んできて、二人の腕を掴んだ。
 マサがいなかったら、このまま取っ組み合いになりかねない状況だった。

「やよいの前だぞ? 今はそんな言い合いしてる時じゃないだろ!」

 普段見せないような形相で短く怒鳴って、マサが京子たちを肩越しに振り返る。

「お前らは外に出てろ。俺たちの問題だ」
「はい……」

 押し黙る久志と佳祐に頭を下げて、京子は綾斗と部屋を出た。
 やよいの遺影と棺を前に同期組の三人が険しい顔で話しているが、その内容を聞き取ることはできなかった。

 ロビーに出た京子は窓寄りの椅子に腰を下ろし、深い溜息を吐き出す。周りにはポツリポツリと参列者や護兵ごへいの姿があった。

 いつも仲が良く見える三人の争いを前に、何もすることができなかった。

「こんなの嫌だよ。久志さんは本当に佳祐さんを疑ってるのかな」
「冗談であんなことを言う人じゃないから、何か気になる事があるのかもしれませんね。けど、それが事実だと確定したわけじゃない。俺たちも協力して真相を突き止めなければですね」
「うん、そうだよね」

 真実が宙に浮いたままだと、良くない考察ばかりが頭を支配してしまう。
 今回の件は謎だらけで、久志と佳祐がお互いを疑ってしまうのも無理がないように思えた。

 ここに来て仕入れた情報でただ一つだけ分かっているのは、やよいが敵である相手と接触することを初めから分かっていたという事だ。
 当日、彼女は非番にも関わらず当直だと家族に話していたらしい。
 だから、最初から夜に帰るつもりはなかったようだ。

「やよいさんは、どうして──」

 頭を殴り付けられたような不安にさいなまれて、京子は重くなる額を両手で押さえた。


   ☆
 金沢に着いた最初の夜、綾斗は京子がシャワーへ行ったタイミングを見計らって彰人あきひとへ電話を掛けた。今日から本部の留守を頼んでいる彼への定期報告だ。
 部屋が狭く、シャワーの音をもどかしく感じながら今日の事を一通り話す。

『そっか、お疲れ様。こっちは不気味なくらい平和だよ。京子ちゃんはどう?』
「あまり元気はないですね」
『まぁ仕方ないよね。僕も結構ショックだったし。綾斗くんもやよいさんと仲良いもんね』
「……ですね」

 平常心を装っていたつもりだが、先に弱音を吐かれてしまうと強がる理由も消えてしまう。

『二人が無事ならそれで良いから。僕もこの数日は空いてるし、帰りに一泊くらいなら気分転換して来ても構わないよ?』
「えっ、けど今はそんな時じゃ……」
『すぐにどうのって話ではないよ』

 留守を頼んでいる立場で申し訳ないと思うけれど、少し休みたいのも本音だ。
 彰人の計らいに甘えてしまいたくなるが、京子は同意してくれるだろうか。

『いいよ、ゆっくりしてきて。ところでさ、君は誰が犯人だと思う?』

 彰人の穏やかな口調が少しだけ鋭く尖って、綾斗は息を呑んだ。
 さっき見たばかりの光景が頭に浮かんで、佳祐を疑ってしまう。けれど敢えて口にはしなかった。

「俺の知っている人なんですか?」
『分からないよ。可能性があるって事。だから、京子ちゃんの側に居てあげて』

 久志と同じことを言われた。
 やはり監察もそう見ているのだろうか。

「分かりました」

 綾斗はスマホをきつく握り締めた。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

金蘭の契り

つゆり歩
キャラ文芸
舞台はとある田舎町にある楽器修理工房 そこでは、リペアマンという楽器を修理する職人たちが働いている。 主人公真日那の父は、「魔法の手を持つリペアマン」と呼ばれ崇拝されていた。 昔は多くのリペアマンが働いていたが、現在は働く人も来る客も減っていき衰退していっていた。 そんな折、父は病気で亡くなってしまう。 父の腕で成り立っていたような工房だったので、畳むしかないと真日那は思っていた。 しかし、父の遺言書に「真日那に継いで欲しい」と書かれてしまっていた。 真日那は、継ぐ気はなかったのだが、困っている人を放っておけなくて、継ぐことを決意する。 知識も経験もないけど、楽器に触れると、その楽器から〝声〟が聞こえてくる「楽器の気持ちが分かるという力」を持っていた。それが、父の死んだ日の夜に宿った。 この不思議な力を活かしながら、色んな想いを抱えた人々と出会い触れ合っていくことで、真日那は楽器を始め様々なものに興味を持っていくようになる。 やがて、自分なりの夢を抱くようになっていく——— これは、音楽と楽器を通して人と人との繋がりをも修復していく絆の物語

月灯

釜瑪 秋摩
キャラ文芸
ゆったりとしたカーブを描くレールを走る単線は駅へと速度を落とす。 白樺並木の合間にチラリとのぞく大きなランプがたたえる月のような灯。 届かなかった思いを抱えてさまよい、たどり着いたのは……。 少しだけ起こる不思議の中に人の思いが交差する。

完結『相思相愛ADと目指せミリオネラ突如出演の激闘20日間!ウクライナ、ソマリア、メキシコ、LA大激戦!なっちゃん恋愛小説シリーズ第3弾!』

あらお☆ひろ
キャラ文芸
「なつ&陽菜コンビ」にニコニコ商店街・ニコニコプロレスのメンバーが再集結の第3弾! もちろん、「なっちゃん」の恋愛小説シリーズ第3弾! 今度こそは「ハッピーエンド」!? はい、「ハッピーエンド」です(※あー、言いきっちゃった(笑)!)! もちろん、稀世・三郎夫婦に直とまりあ。もちろん夏子&陽菜のコンビも健在。 今作も主人公も「夏子」! 今回の敵は「ウクライナのロシア軍」、「ソマリアの海賊」、「メキシカン・マフィア」と難敵ぞろい。 アメリカの人気テレビ番組「目指せ!ミリオネラ!」にチャレンジすることになってしまった夏子と陽菜は稀世・直・舩阪・羽藤たちの協力を得て次々と「難題」にチャレンジ! 「ウクライナ」では「傭兵」としてロシア軍の情報・指令車の鹵獲に挑戦。 「ソマリア」では「海賊退治」に加えて「クロマグロ」を求めてはえ縄漁へ。 「メキシコ・トルカ」ではマフィア相手に誘拐された人たちの解放する「ネゴシエーター」をすることに。 もちろん最後はドンパチ! 夏子の今度の「恋」の相手は、なぜか夏子に一目ぼれしたサウジアラビア生まれのイケメンアメリカ人アシスタントディレクター! シリーズ完結作として、「ハッピーエンド」なんでよろしくお願いしまーす! (⋈◍>◡<◍)。✧♡

狐火郵便局の手紙配達人

烏龍緑茶
キャラ文芸
山間の町外れ、霧深い丘の上に立つ「狐火郵便局」。夜になると青白い狐火が灯り、あやかしの世界と人間の世界を繋ぐ不思議な郵便局が姿を現す。ここで配達人を務めるのは、17歳の少年・湊(みなと)と彼を助ける九尾の狐・あかり。人間とあやかしの橋渡し役として、彼らは今日も手紙を届ける旅に出る。 湊は命を救われた代償として、あやかし宛の手紙を届ける配達人となった。彼が訪れるのは、座敷童や付喪神が住む不思議な異界。手紙に込められた人々の想いや未練、感謝の気持ちを届けるたび、湊は次第に自分自身の生きる意味を見出していく。

裏社会の何でも屋『友幸商事』に御用命を

水ノ灯(ともしび)
キャラ文芸
とある街にある裏社会の何でも屋『友幸商事』 暗殺から組織の壊滅まで、あなたのご依頼叶えます。 リーダーというよりオカン気質の“幸介” まったり口調で落ち着いた“友弥” やかましさNO.1でも仕事は確実な“ヨウ” マイペースな遊び人の問題児“涼” 笑いあり、熱い絆あり、時に喧嘩ありの賑やか四人組。 さらに癖のある街の住人達も続々登場! 個性的な仲間と織り成す裏社会アクションエンターテイメント! 毎週 水 日の17:00更新 illustration:匡(たすく)さん Twitter:@sakuxptx0116

処理中です...