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Episode4 京子
79 受け入れる事の出来ない事実
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屋上で気分転換してくると言った美弦を、修司が追い掛ける。
北陸へ発つまで2時間を切って、二人は朝から落ち着きのない様子だ。
朝のトレーニングを終えて朝食を済ませた京子は、コーヒーの入ったマグカップを手に綾斗とデスクルームへ向かった。
「あの二人いつも喧嘩してるけど、なんだかんだ言って仲良いよね。美弦って好きとか寂しいとか、思ってる事をちゃんと修司に言えるんだよ? 偉いなぁって尊敬しちゃう」
昨日の帰り際、怒鳴り散らすような美弦の声が廊下まで響いていたのを耳にした。
彼女なりの愛情表現は傍から見ると行き過ぎているような気もするが、修司は文句を言いつつあまり気にしていない様子だ。
言うべきことをお互いに吐き出せているからこその信頼関係だろうし、正直羨ましいと思う。
「京子さんが美弦みたいになったら驚きますけど。人それぞれなんじゃないですか?」
「なのかな。けど自分の気持ちを素直に伝えられるのは、やっぱり凄いよ」
京子は、いまだに綾斗へ返事ができていない始末だ。
彼の事は好きだけれど、それが友達以上の『好き』なのかそうでないのか、自分の気持ちもまだ良くわかっていない。
「……ごめんね?」
そっと呟いて彼を見上げると、綾斗は少し困ったように笑う。
そんな時、ふと京子のスマホが鳴った。手を差し伸べた綾斗に「ありがと」とマグカップを渡して、応答する。
相手は朱羽だ。
「何?」
『ねぇ京子、北陸で何かあった? 朝、久志さんから連絡貰ったんだけど、いつもと様子が違ってたから」
「私は何も聞いてないよ? 何か言われたの?」
『それがね、やよいさんが居なくなったって言って、わざわざ位置情報聞いてきたのよ。ちょっと連絡できないくらいで、大袈裟だと思わない?』
「銀環のGPSってこと?」
『そうよ』
えっと驚いて、京子は綾斗に「やよいさんが居ないんだって」と伝える。「やよいさんが?」と綾斗。
銀環に組み込まれたGPSの情報は、朱羽の所にあるパソコンで読み取りができる事は京子も知っている。
『誰かそこに居るの?』
「あ、ごめん。綾斗が居るけどマズかった?」
『仲良くて結構なことね。彼なら問題ないわ。それで、結局支部の側にやよいさんのポインタは光ってたから早とちりだとは思うんだけど、ちょっと気になったから』
「そうなんだ。何かあったら連絡するよ」
『お願い』
思い悩む様子のまま、朱羽は通話を切った。
「やよいさんが居なくなったんですか」
「早とちりだろうっては言うんだけど。今から修司が向こうに行くのに……心配だね」
京子はマグカップを受け取って、少し温くなった珈琲を息をつくように飲み込んだ。
普段陽気な久志からの連絡に不安がるとは、余程の事だったのだろう。
そして、その不自然な状況に答えが出るまで時間は掛からなかった。
デスクルームに入ると、スマホで通話中のマサがいきなり怒鳴り声を上げたのだ。
「ふざけるな!」
見開いた眼が、ずっと虚空を睨んでいる。
感情的になるマサに肩を震わせた京子に、綾斗が「大丈夫」と小さく声を掛け前へ出た。
そんな二人にも気付かない様子で、マサはどんどんヒートアップさせていく。
「冗談も体外にしろよ。久志、言って良い事と悪い事があるんだぞ?」
相手は、またもや久志らしい。マサの声が途切れる毎に、受話器の向こうでも彼が何かを叫んでいるような音が聞こえる。
暫くそれが繰り返された後、マサは数秒の沈黙を置いて通話を切った。
京子と綾斗には何が起きたのか分からない。
マサは崩れ落ちるように机の端を掴んで、力の抜けた身体を支えた。
朱羽の電話からのこの状況に、京子は胸騒ぎを覚える。
悪い知らせというのはマサを見れば明確だ。彼は落胆の色を顔いっぱいに広げて、その事実を口にした。
「やよいが、死んだ」
やがて起きる戦いへの始まりだった。
北陸へ発つまで2時間を切って、二人は朝から落ち着きのない様子だ。
朝のトレーニングを終えて朝食を済ませた京子は、コーヒーの入ったマグカップを手に綾斗とデスクルームへ向かった。
「あの二人いつも喧嘩してるけど、なんだかんだ言って仲良いよね。美弦って好きとか寂しいとか、思ってる事をちゃんと修司に言えるんだよ? 偉いなぁって尊敬しちゃう」
昨日の帰り際、怒鳴り散らすような美弦の声が廊下まで響いていたのを耳にした。
彼女なりの愛情表現は傍から見ると行き過ぎているような気もするが、修司は文句を言いつつあまり気にしていない様子だ。
言うべきことをお互いに吐き出せているからこその信頼関係だろうし、正直羨ましいと思う。
「京子さんが美弦みたいになったら驚きますけど。人それぞれなんじゃないですか?」
「なのかな。けど自分の気持ちを素直に伝えられるのは、やっぱり凄いよ」
京子は、いまだに綾斗へ返事ができていない始末だ。
彼の事は好きだけれど、それが友達以上の『好き』なのかそうでないのか、自分の気持ちもまだ良くわかっていない。
「……ごめんね?」
そっと呟いて彼を見上げると、綾斗は少し困ったように笑う。
そんな時、ふと京子のスマホが鳴った。手を差し伸べた綾斗に「ありがと」とマグカップを渡して、応答する。
相手は朱羽だ。
「何?」
『ねぇ京子、北陸で何かあった? 朝、久志さんから連絡貰ったんだけど、いつもと様子が違ってたから」
「私は何も聞いてないよ? 何か言われたの?」
『それがね、やよいさんが居なくなったって言って、わざわざ位置情報聞いてきたのよ。ちょっと連絡できないくらいで、大袈裟だと思わない?』
「銀環のGPSってこと?」
『そうよ』
えっと驚いて、京子は綾斗に「やよいさんが居ないんだって」と伝える。「やよいさんが?」と綾斗。
銀環に組み込まれたGPSの情報は、朱羽の所にあるパソコンで読み取りができる事は京子も知っている。
『誰かそこに居るの?』
「あ、ごめん。綾斗が居るけどマズかった?」
『仲良くて結構なことね。彼なら問題ないわ。それで、結局支部の側にやよいさんのポインタは光ってたから早とちりだとは思うんだけど、ちょっと気になったから』
「そうなんだ。何かあったら連絡するよ」
『お願い』
思い悩む様子のまま、朱羽は通話を切った。
「やよいさんが居なくなったんですか」
「早とちりだろうっては言うんだけど。今から修司が向こうに行くのに……心配だね」
京子はマグカップを受け取って、少し温くなった珈琲を息をつくように飲み込んだ。
普段陽気な久志からの連絡に不安がるとは、余程の事だったのだろう。
そして、その不自然な状況に答えが出るまで時間は掛からなかった。
デスクルームに入ると、スマホで通話中のマサがいきなり怒鳴り声を上げたのだ。
「ふざけるな!」
見開いた眼が、ずっと虚空を睨んでいる。
感情的になるマサに肩を震わせた京子に、綾斗が「大丈夫」と小さく声を掛け前へ出た。
そんな二人にも気付かない様子で、マサはどんどんヒートアップさせていく。
「冗談も体外にしろよ。久志、言って良い事と悪い事があるんだぞ?」
相手は、またもや久志らしい。マサの声が途切れる毎に、受話器の向こうでも彼が何かを叫んでいるような音が聞こえる。
暫くそれが繰り返された後、マサは数秒の沈黙を置いて通話を切った。
京子と綾斗には何が起きたのか分からない。
マサは崩れ落ちるように机の端を掴んで、力の抜けた身体を支えた。
朱羽の電話からのこの状況に、京子は胸騒ぎを覚える。
悪い知らせというのはマサを見れば明確だ。彼は落胆の色を顔いっぱいに広げて、その事実を口にした。
「やよいが、死んだ」
やがて起きる戦いへの始まりだった。
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