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Episode4 京子
58 長い夜が始まる
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同窓会の会場は、前に綾斗を連れて来た居酒屋の二階だ。
広い座敷の中央にテーブルが縦に並んでいて、大きな一卓を全員で囲う仕様になっている。
幼馴染の陽菜と駅前で待ち合わせて、二人で店に入った。
席は八割ほど埋まっていたが彰人の姿はなく、京子はホッと胸を押さえる。
今日は中学を卒業して初めての同窓会だ。あれからもう9年経っている。
メンバーは皆大人の顔になっていたが、名前はほぼ一致させることができた。
──『見つけた』
浩一郎の呪縛が解けた後も、いまだにあの時の夢を見ることがある。そのせいで小、中学校のメンバーは高校時代の同級生よりも身近に感じる事ができた。
「京子、年下の彼と別れたんだって?」
先生が到着して挨拶からの乾杯が済んだところで、陽菜が『待ってました』と言わんばかりのテンションでその話を始めた。
今回の帰省に併せて報告をした時は素っ気ない返事が返って来ただけだったのに、この温度差はアルコールのせいなのか。京子は対抗するようにジョッキのレモンサワーを半分まで流し込んだ。
素面のままでは到底相手にできそうにない。
「そうなんだよぉ。仕事忙しくてすれ違いって言うのかな」
「京子って、好きな人が側に居ないと駄目なタイプだもんね」
「そう見える?」
「見えるよ」
はっきりと陽菜は言い切った。
桃也が居なくて寂しいと思う事は多かったが、そういう体質だと言われると首を傾げてしまう。そんな納得のいかない顔をする京子に、陽菜は「分かってないんだから」と人差し指を突き付ける。
「彰人の事も卒業してからあんまり騒がなくなったし、案外そういう理由なんじゃないの?」
「うっ……」
何も言い返せなかった。
「それで、前に連れて来た彼とはどうなの? 綾斗くんだっけ?」
「何でそこで綾斗の名前が出てくるの?」
前に来た時は確かに綾斗が一緒だったが、本部に来て間もない彼とは今のような関係ではなかった筈だ。ふと思い返しても、酔っぱらって怒られた記憶しかない。
「好きって感情があったかどうかは分からないけど、満更でもないと思ったんだよね。結構カッコ良かったし?」
「顔は……関係ないよ」
「そりゃそうだけど。普通、異性の先輩の実家に泊まろうなんて思わないって」
ぐいと顔を近付けて、陽菜が京子に迫る。
動揺を悟られたくないのに、アルコールのせいで平常心など保てなかった。
「──そういうものなのかな」
あの時から綾斗はそういう気持ちだったのだろうか。
初出張で現地集合を提案した事は悪いと思っている。だから一緒に来ると言った彼に、それ以上の特別な意味など考えたこともなかった。
色々あったが、翌日ホテルのベッドで目覚めた時が綾斗とのターニングポイントだった気がする。
「綾斗か……」
告白されたことやバレンタイン──そんな彼の事を考えながら、再びジョッキに口を付ける。
けれど酔いのテンションがマックスになり掛けたところで、状況は一転した。
「やっと来たぁ」
入口を振り向いた陽菜のその言葉が、この長い夜のスタートを切る。
彰人が来たのだ。
広い座敷の中央にテーブルが縦に並んでいて、大きな一卓を全員で囲う仕様になっている。
幼馴染の陽菜と駅前で待ち合わせて、二人で店に入った。
席は八割ほど埋まっていたが彰人の姿はなく、京子はホッと胸を押さえる。
今日は中学を卒業して初めての同窓会だ。あれからもう9年経っている。
メンバーは皆大人の顔になっていたが、名前はほぼ一致させることができた。
──『見つけた』
浩一郎の呪縛が解けた後も、いまだにあの時の夢を見ることがある。そのせいで小、中学校のメンバーは高校時代の同級生よりも身近に感じる事ができた。
「京子、年下の彼と別れたんだって?」
先生が到着して挨拶からの乾杯が済んだところで、陽菜が『待ってました』と言わんばかりのテンションでその話を始めた。
今回の帰省に併せて報告をした時は素っ気ない返事が返って来ただけだったのに、この温度差はアルコールのせいなのか。京子は対抗するようにジョッキのレモンサワーを半分まで流し込んだ。
素面のままでは到底相手にできそうにない。
「そうなんだよぉ。仕事忙しくてすれ違いって言うのかな」
「京子って、好きな人が側に居ないと駄目なタイプだもんね」
「そう見える?」
「見えるよ」
はっきりと陽菜は言い切った。
桃也が居なくて寂しいと思う事は多かったが、そういう体質だと言われると首を傾げてしまう。そんな納得のいかない顔をする京子に、陽菜は「分かってないんだから」と人差し指を突き付ける。
「彰人の事も卒業してからあんまり騒がなくなったし、案外そういう理由なんじゃないの?」
「うっ……」
何も言い返せなかった。
「それで、前に連れて来た彼とはどうなの? 綾斗くんだっけ?」
「何でそこで綾斗の名前が出てくるの?」
前に来た時は確かに綾斗が一緒だったが、本部に来て間もない彼とは今のような関係ではなかった筈だ。ふと思い返しても、酔っぱらって怒られた記憶しかない。
「好きって感情があったかどうかは分からないけど、満更でもないと思ったんだよね。結構カッコ良かったし?」
「顔は……関係ないよ」
「そりゃそうだけど。普通、異性の先輩の実家に泊まろうなんて思わないって」
ぐいと顔を近付けて、陽菜が京子に迫る。
動揺を悟られたくないのに、アルコールのせいで平常心など保てなかった。
「──そういうものなのかな」
あの時から綾斗はそういう気持ちだったのだろうか。
初出張で現地集合を提案した事は悪いと思っている。だから一緒に来ると言った彼に、それ以上の特別な意味など考えたこともなかった。
色々あったが、翌日ホテルのベッドで目覚めた時が綾斗とのターニングポイントだった気がする。
「綾斗か……」
告白されたことやバレンタイン──そんな彼の事を考えながら、再びジョッキに口を付ける。
けれど酔いのテンションがマックスになり掛けたところで、状況は一転した。
「やっと来たぁ」
入口を振り向いた陽菜のその言葉が、この長い夜のスタートを切る。
彰人が来たのだ。
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