340 / 622
Episode4 京子
56 未確認の予定
しおりを挟む
三月になって急に春めいた気温上昇に戸惑いながらも、京子は厚手のコートを羽織って家を出た。
今日は一度アルガスに行って仕事の申し送りをした後、昼前に早退する予定になっている。
中学の担任がこの春に定年退職するという事で、お祝いを兼ねての同窓会に出席するためだ。
この間彰人に会った時、彼の出欠を確かめれば良かったと今も少し後悔している。けれどあの時はチョコの事で頭がいっぱいで、そんな話はすっかり頭から抜けていた。
桃也同様に監察員の彼は多忙で、極秘任務に当たっている事も多い。
「連絡しない方が良いよね」
ふと気になってスマホを取り出すが、当日に確認する事でもないような気がして、メールしかけた指を放した。
アルガスに来て共有フォルダを開くと、彼は今日北海道支部での会議に出席することになっている。そんな遠くから福島に来るのは現実的でない気がした。
折角の同窓会に会えないのは残念だが、キーダーだという事実を公表していない彼に同級生の前でどう振る舞えばいいか見当がつかない。
「今日と明日、緊急対応できなくてごめんね。すぐ駆け付けられないけど、何かあったら連絡して」
デスクルームには綾斗と美弦がいる。今日は金曜だが綾斗はもう春休みに入っていて、美弦はこの間高校を卒業したばかりだった。修司は色々な手続きとやらで、颯太と区役所に行っている。
「こっちの事は気にせず、のんびりして来て下さい」
「うん、忙しいのにごめんね。お土産買ってくるから。美弦もよろしくね」
「バッチリ任せて下さい!」
私服のまま仕事を済ませ、京子は「ありがとう」とコートを羽織る。
休暇届は前々から出していたが、この週末に限って細々とした仕事が重なっていた。二人は全く気にしていない様子だが、プライベートの休暇を申し訳なく思ってしまう。
「駅まで送りますか?」
「ううん、そこまで面倒掛けられないよ。天気良いし、のんびり行くから」
外までの見送りを遠慮して、京子は部屋を後にした。
人気のない大階段を下りた所で、「そういえば」とふと足を止める。
同窓会に行く事は伝えてあったが、綾斗に何も言われなかった。
彰人のことを話したわけではないけれど、彼はもしものことを気にするだろうか。
「考え過ぎ──か」
ぽそりと呟いて、外へ出る。
その頃、美弦が綾斗に京子との関係を問い詰められている事など露知らず──朝よりも晴れた青空を見上げて、京子は福島へと旅立った。
今日は一度アルガスに行って仕事の申し送りをした後、昼前に早退する予定になっている。
中学の担任がこの春に定年退職するという事で、お祝いを兼ねての同窓会に出席するためだ。
この間彰人に会った時、彼の出欠を確かめれば良かったと今も少し後悔している。けれどあの時はチョコの事で頭がいっぱいで、そんな話はすっかり頭から抜けていた。
桃也同様に監察員の彼は多忙で、極秘任務に当たっている事も多い。
「連絡しない方が良いよね」
ふと気になってスマホを取り出すが、当日に確認する事でもないような気がして、メールしかけた指を放した。
アルガスに来て共有フォルダを開くと、彼は今日北海道支部での会議に出席することになっている。そんな遠くから福島に来るのは現実的でない気がした。
折角の同窓会に会えないのは残念だが、キーダーだという事実を公表していない彼に同級生の前でどう振る舞えばいいか見当がつかない。
「今日と明日、緊急対応できなくてごめんね。すぐ駆け付けられないけど、何かあったら連絡して」
デスクルームには綾斗と美弦がいる。今日は金曜だが綾斗はもう春休みに入っていて、美弦はこの間高校を卒業したばかりだった。修司は色々な手続きとやらで、颯太と区役所に行っている。
「こっちの事は気にせず、のんびりして来て下さい」
「うん、忙しいのにごめんね。お土産買ってくるから。美弦もよろしくね」
「バッチリ任せて下さい!」
私服のまま仕事を済ませ、京子は「ありがとう」とコートを羽織る。
休暇届は前々から出していたが、この週末に限って細々とした仕事が重なっていた。二人は全く気にしていない様子だが、プライベートの休暇を申し訳なく思ってしまう。
「駅まで送りますか?」
「ううん、そこまで面倒掛けられないよ。天気良いし、のんびり行くから」
外までの見送りを遠慮して、京子は部屋を後にした。
人気のない大階段を下りた所で、「そういえば」とふと足を止める。
同窓会に行く事は伝えてあったが、綾斗に何も言われなかった。
彰人のことを話したわけではないけれど、彼はもしものことを気にするだろうか。
「考え過ぎ──か」
ぽそりと呟いて、外へ出る。
その頃、美弦が綾斗に京子との関係を問い詰められている事など露知らず──朝よりも晴れた青空を見上げて、京子は福島へと旅立った。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
AV研は今日もハレンチ
楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo?
AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて――
薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる