336 / 618
Episode4 京子
53 ささやかなチョコ
しおりを挟む
加湿器のタンクを手に、颯太はいつもの調子で「待ってたよ」と京子を迎える。
彼の机に山積みのチョコレートを見つけて、京子は思わず「すごい」と歓声を上げた。
アルガスにはこんなに女子が居ただろうかと思わせる数だ。
競い合うような豪華なラッピングはどれも義理には見えないが、一番上に乗った緑色の小さな袋に何だかホッとしてしまう。京子と同じ3粒のトリュフが入った、美弦のチョコだ。
「俺、一応独身だから」
ラッピングの一つ一つにその本気度が透けて見える。京子は大分少なくなったバスケットから、チョコの入ったピンク色の袋を颯太に渡した。
「私のチョコも混ぜてくれますか?」
「勿論。美弦ちゃんと作ったんだって? 手作りなんて凄いじゃん、ありがとうな」
アルガスに来て間もない彼には、京子のガサツなイメージがまだ付いていないらしい。
タンクを機械に入れるとゴボゴボッと水が充填される音がして、床置きの加湿器が程なくしてシューと白い蒸気を立ち昇らせた。
「いえ。それと、この間はお世話になりました」
「俺、何か世話したっけ?」
「相談の事……」
「あぁ、大したことじゃねぇよ」
前に桃也との事を彼に話した。改めて報告をする事ができず今になってしまったが、彼と別れた事はもうアルガス中に広がっている。
「正直言うと、こうなるんじゃないかと思ってた。けど京子ちゃんが出した答えなら、それが正解だ」
「ありがとうございます。また何かあったら相談させて下さい」
「俺で良かったらいつでもどうぞ。今は気になる奴いないの?」
「いない……と思います」
「ちょっと考え中?」
「どうなんだろう……」
首を捻る京子に、颯太は「そうか」と唇の端を上げた。
「京子ちゃんの周りは男が多いからな。手作りチョコなんて渡したら、逆に勘違いする奴出て来るんじゃねぇの?」
「みんなに同じの配ってるんですよ? そんなことないですって」
「そぉかぁ? 京子ちゃんの事気にしてる奴なら、大喜びだと思うぜ。京子ちゃんにその気がなくても、他と違う事されたって思ったら心臓射貫いちまうかもな」
颯太は胸を撃たれたジェスチャーをして、京子のチョコを山に乗せた。
美弦のと並んだ二つのチョコは、豪華な他のチョコと比べると大分小さく、富士山の頂上を染める雪のようだ。
「デパートの高級チョコはうまいけどさ、そうじゃないだろ? 京子ちゃんにとってはたくさん作った中の一つでも、ここに並ぶとこの二つは特別に見えねぇ?」
「そう……ですか?」
「あぁ。ありがとな」
そう言って颯太は喜んでくれるが、京子にはささやかなチョコにしか見えなかった。
彼の机に山積みのチョコレートを見つけて、京子は思わず「すごい」と歓声を上げた。
アルガスにはこんなに女子が居ただろうかと思わせる数だ。
競い合うような豪華なラッピングはどれも義理には見えないが、一番上に乗った緑色の小さな袋に何だかホッとしてしまう。京子と同じ3粒のトリュフが入った、美弦のチョコだ。
「俺、一応独身だから」
ラッピングの一つ一つにその本気度が透けて見える。京子は大分少なくなったバスケットから、チョコの入ったピンク色の袋を颯太に渡した。
「私のチョコも混ぜてくれますか?」
「勿論。美弦ちゃんと作ったんだって? 手作りなんて凄いじゃん、ありがとうな」
アルガスに来て間もない彼には、京子のガサツなイメージがまだ付いていないらしい。
タンクを機械に入れるとゴボゴボッと水が充填される音がして、床置きの加湿器が程なくしてシューと白い蒸気を立ち昇らせた。
「いえ。それと、この間はお世話になりました」
「俺、何か世話したっけ?」
「相談の事……」
「あぁ、大したことじゃねぇよ」
前に桃也との事を彼に話した。改めて報告をする事ができず今になってしまったが、彼と別れた事はもうアルガス中に広がっている。
「正直言うと、こうなるんじゃないかと思ってた。けど京子ちゃんが出した答えなら、それが正解だ」
「ありがとうございます。また何かあったら相談させて下さい」
「俺で良かったらいつでもどうぞ。今は気になる奴いないの?」
「いない……と思います」
「ちょっと考え中?」
「どうなんだろう……」
首を捻る京子に、颯太は「そうか」と唇の端を上げた。
「京子ちゃんの周りは男が多いからな。手作りチョコなんて渡したら、逆に勘違いする奴出て来るんじゃねぇの?」
「みんなに同じの配ってるんですよ? そんなことないですって」
「そぉかぁ? 京子ちゃんの事気にしてる奴なら、大喜びだと思うぜ。京子ちゃんにその気がなくても、他と違う事されたって思ったら心臓射貫いちまうかもな」
颯太は胸を撃たれたジェスチャーをして、京子のチョコを山に乗せた。
美弦のと並んだ二つのチョコは、豪華な他のチョコと比べると大分小さく、富士山の頂上を染める雪のようだ。
「デパートの高級チョコはうまいけどさ、そうじゃないだろ? 京子ちゃんにとってはたくさん作った中の一つでも、ここに並ぶとこの二つは特別に見えねぇ?」
「そう……ですか?」
「あぁ。ありがとな」
そう言って颯太は喜んでくれるが、京子にはささやかなチョコにしか見えなかった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
デリバリー・デイジー
SoftCareer
キャラ文芸
ワケ有りデリヘル嬢デイジーさんの奮闘記。
これを読むと君もデリヘルに行きたくなるかも。いや、行くんじゃなくて呼ぶんだったわ……あっ、本作品はR-15ですが、デリヘル嬢は18歳にならないと呼んじゃだめだからね。
※もちろん、内容は百%フィクションですよ!
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる