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Episode4 京子
20 隠せない心境
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土日や祝日は交代勤務で、翌日京子は朝から三階のホールでトレーニングをしていた。
昼過ぎにアルガスへやって来た佳祐は、上官たちと打ち合わせをした後、昨日と同じように施設員の運転で空港へ向かう。
彼の乗った車が門の奥へ消えていくのを見計らって、一緒に見送った綾斗が京子に声を掛けた。
「佳祐さんと何かあったんですか?」
「そう見える?」
「朝からぼんやりしてる事が多いなって。俺の攻撃まともに喰らいそうになってたじゃないですか」
「あれは綾斗が強いからだよ。ちょっと油断すると全然ダメ。ヒヤッとしちゃった」
「あれくらいでですか?」
ムッとする綾斗に京子は「ごめん」と謝った。
午前中の訓練は彼の言う通りずっと上の空だった気がする。いつもなら余裕にかわせる攻撃でさえ、何度も当たりそうになっていた。
「何かあった、っていうのかな」
「佳祐さんの前で、ずっとソワソワしてたじゃないですか」
「自覚はないけど……」
ハッキリしない返事に苦笑する綾斗。
今日は佳祐が居たせいで、昨日の気まずさを引きずっていたのは事実だ。
綾斗には敵わないなと思う。
「俺も昨日行きたかったんですよ?」
「誘えなくてごめん」
「事情があるなら仕方ないですけど」
「ねぇ綾斗、この後暇ならちょっと上で話しない?」
首を上げて、アルガスを仰ぐ。
徐々に暗くなっていく空には、ぽつりぽつりと星が見えだしていた。
「上でいいんですか? どっか行っても構いませんよ?」
「ううん。今日暖かいし、風に当たったら気持ち良いかなと思って」
「分かりました」
「ありがと、綾斗」
門を一瞥した京子に「じゃあ」と残して、綾斗が建物の中へ入った。
☆
屋上に上がると、先に来ていた綾斗が京子を迎える。
もうすっすり夜の風景が広がっていて、小さな照明が所々をぼんやりと照らしていた。
コージのヘリもなく静まり返った屋上は、寒いと感じる一歩手前の温い空気が漂っている。
フェンスの所に佇んで風景を眺める綾斗の横に並んで、京子は両手に持ってきたチューハイの缶を彼に差し出した。自室の小さな冷蔵庫に入れてあるストックだ。
「飲む?」
「いただきます」
安定の500ミリリットルは、レモンとグレープフルーツ。彼はグレープフルーツを選んだ。
昔の綾斗なら『そんなに飲むんですか』と指摘してくる所だが、最近は一緒に飲んでくれることが多い。
「付き合ってくれるんだ」
「もう終業時刻ですから。それに明日は休みですよ。俺が飲まなかったら、京子さんがどっちも飲むつもりなんでしょう?」
「確かに」
妙に納得して、京子は頷いた。むしろそうなったら一本目を一気飲みしてしまいそうな気がする。
綾斗が胸元のタイを緩めて、同時に栓を抜く。鈍い音で乾杯をして、京子は一口目を豪快に流し込んだ。
「あぁ、美味しい!」
昨日からの緊張が、キンと冷えたチューハイに解けていく。
京子は泣きたくなる気持ちを抑えて、唇に缶を押し付けた。
昼過ぎにアルガスへやって来た佳祐は、上官たちと打ち合わせをした後、昨日と同じように施設員の運転で空港へ向かう。
彼の乗った車が門の奥へ消えていくのを見計らって、一緒に見送った綾斗が京子に声を掛けた。
「佳祐さんと何かあったんですか?」
「そう見える?」
「朝からぼんやりしてる事が多いなって。俺の攻撃まともに喰らいそうになってたじゃないですか」
「あれは綾斗が強いからだよ。ちょっと油断すると全然ダメ。ヒヤッとしちゃった」
「あれくらいでですか?」
ムッとする綾斗に京子は「ごめん」と謝った。
午前中の訓練は彼の言う通りずっと上の空だった気がする。いつもなら余裕にかわせる攻撃でさえ、何度も当たりそうになっていた。
「何かあった、っていうのかな」
「佳祐さんの前で、ずっとソワソワしてたじゃないですか」
「自覚はないけど……」
ハッキリしない返事に苦笑する綾斗。
今日は佳祐が居たせいで、昨日の気まずさを引きずっていたのは事実だ。
綾斗には敵わないなと思う。
「俺も昨日行きたかったんですよ?」
「誘えなくてごめん」
「事情があるなら仕方ないですけど」
「ねぇ綾斗、この後暇ならちょっと上で話しない?」
首を上げて、アルガスを仰ぐ。
徐々に暗くなっていく空には、ぽつりぽつりと星が見えだしていた。
「上でいいんですか? どっか行っても構いませんよ?」
「ううん。今日暖かいし、風に当たったら気持ち良いかなと思って」
「分かりました」
「ありがと、綾斗」
門を一瞥した京子に「じゃあ」と残して、綾斗が建物の中へ入った。
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屋上に上がると、先に来ていた綾斗が京子を迎える。
もうすっすり夜の風景が広がっていて、小さな照明が所々をぼんやりと照らしていた。
コージのヘリもなく静まり返った屋上は、寒いと感じる一歩手前の温い空気が漂っている。
フェンスの所に佇んで風景を眺める綾斗の横に並んで、京子は両手に持ってきたチューハイの缶を彼に差し出した。自室の小さな冷蔵庫に入れてあるストックだ。
「飲む?」
「いただきます」
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「付き合ってくれるんだ」
「もう終業時刻ですから。それに明日は休みですよ。俺が飲まなかったら、京子さんがどっちも飲むつもりなんでしょう?」
「確かに」
妙に納得して、京子は頷いた。むしろそうなったら一本目を一気飲みしてしまいそうな気がする。
綾斗が胸元のタイを緩めて、同時に栓を抜く。鈍い音で乾杯をして、京子は一口目を豪快に流し込んだ。
「あぁ、美味しい!」
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京子は泣きたくなる気持ちを抑えて、唇に缶を押し付けた。
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