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Episode3 龍之介
74 リュウ
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海側の風景へ緞帳を下ろすように、立ち上った炎が闇を遮った。
視界が一瞬で緋色に染まり、建物の影を黒く滲ませる。
正面からの熱風に煽られて、龍之介は炎を逃れて後ろへとたたらを踏んだ。
公園で見た光景を彷彿とさせる炎だ。これも幾度となく仕掛けを発動させてきたシェイラの仕業だろうか。
「気を付けろ龍之介。無理だと思うなら逃げてもいいぞ?」
「俺は大丈夫です。居させてください!」
修司はキーダーだ。ただついてきただけの龍之介とは違って、彼にはここにいる理由がある。
何かしなければと、龍之介は正面を塞ぐ炎に目を凝らした。
炎の向こう側に居る朱羽が今どんな状況かは全く分からない。向こうとこちらを断絶するような炎の壁が、周囲の音さえも飲み込んでやたら静かに燻ぶっている。
じわじわと上がる温度に吹き出す汗を拭い、龍之介は彼女の無事を確かめたい一心でその名前を叫んだ。
「朱羽さん!!」
しかし返事はない。
修司が同じ方向を見張りながら、「そうだな」と唸る。
「気配はしてる。多分、まだ戦闘状態なんだと思う」
「朱羽さんとガイアのですか? 銀次は──」
「分からねぇよ。力の気配は二つしかない。ガイア……なんだよな?」
確信を持てず、修司が唇を噛んだ。
何もできずに立ち尽くす二人の前で、炎はジリジリと状況を悪化させていく。
風がひゅうと吹いて、炎が横の倉庫に引火した。
「ちょっ!」
緋色の壁が急に広がって、龍之介は修司と驚愕の表情を見合わせる。
「これマズイんじゃねぇの?」
「ですよね? ど、どうすれば」
119をコールすべきかとスマホを掴んだ龍之介に、修司が「待て」と手を伸ばした。
「キーダーの戦闘中は、アルガスからの指示がないと消防やら警察は動かないらしい。キーダーの、って意味じゃねぇぜ? アルガスの偉い人はこの炎に気付いてる筈だ。俺たちは自分たちの力で最善を尽くさなきゃならねぇんだよ。ちょっとくらい壊しても問題ない」
「ちょっと……? これは『ちょっと』なんですか?」
そんな規模はとうに超えている気がするが、縦に首を振る彼に従って龍之介はスマホをしまった。
修司は横に広がる炎の両端に目を走らせて、「よし」と頷く。
「やっぱり俺は朱羽さんのトコに行こうと思う」
「修司さん?」
「お前はどうする? ここで待ってるか?」
状況が良くないのは、修司の顔を見ればわかる。
さっき花を持たせてやると彼に言われたが、今はそんな悠長なことを言っていられる余裕はないだろう。
自分に何ができるかなんて分からないが、龍之介はじっとなどしていられなかった。
「俺も行かせて下さい!!」
自分がこれ以上進めない理由なんて、幾らでもあるのだ。それに抗わなければ、もう逃げるしか道はない。
「駄目だと思ったらすぐ離れろよ? お前は逃げてもいいんだからな」
「俺は逃げません!」
「死ぬなって言ってんだ。お前を守る余裕なんかないって言っただろ? 自分の身は自分で守れ」
「は、はいっ!」
「よし」と頷き合って、勢いのままに駈け出そうとしたその時だ。
「威勢がいいな、リュウ」
気配もなく背後から掛けられた声に、龍之介はぞっと背筋を震わせた。
相手が誰だかすぐに分かったけれど、彼がそこに居ると認めたくなかった。
悄然とする龍之介に、修司が先に相手を振り返る。
相手と修司は初対面だ。けれど、修司は納得したように相手に向けて武器を構える。
「龍之介、コイツがお前の友達なのか?」
「リュウ」ともう一度呼ばれて沸いた気持ちは、諦めたという感情に近いのかもしれない。
「何で居るんだよ」
怒りさえ込めて、龍之介は銀次へと踵を返した。
視界が一瞬で緋色に染まり、建物の影を黒く滲ませる。
正面からの熱風に煽られて、龍之介は炎を逃れて後ろへとたたらを踏んだ。
公園で見た光景を彷彿とさせる炎だ。これも幾度となく仕掛けを発動させてきたシェイラの仕業だろうか。
「気を付けろ龍之介。無理だと思うなら逃げてもいいぞ?」
「俺は大丈夫です。居させてください!」
修司はキーダーだ。ただついてきただけの龍之介とは違って、彼にはここにいる理由がある。
何かしなければと、龍之介は正面を塞ぐ炎に目を凝らした。
炎の向こう側に居る朱羽が今どんな状況かは全く分からない。向こうとこちらを断絶するような炎の壁が、周囲の音さえも飲み込んでやたら静かに燻ぶっている。
じわじわと上がる温度に吹き出す汗を拭い、龍之介は彼女の無事を確かめたい一心でその名前を叫んだ。
「朱羽さん!!」
しかし返事はない。
修司が同じ方向を見張りながら、「そうだな」と唸る。
「気配はしてる。多分、まだ戦闘状態なんだと思う」
「朱羽さんとガイアのですか? 銀次は──」
「分からねぇよ。力の気配は二つしかない。ガイア……なんだよな?」
確信を持てず、修司が唇を噛んだ。
何もできずに立ち尽くす二人の前で、炎はジリジリと状況を悪化させていく。
風がひゅうと吹いて、炎が横の倉庫に引火した。
「ちょっ!」
緋色の壁が急に広がって、龍之介は修司と驚愕の表情を見合わせる。
「これマズイんじゃねぇの?」
「ですよね? ど、どうすれば」
119をコールすべきかとスマホを掴んだ龍之介に、修司が「待て」と手を伸ばした。
「キーダーの戦闘中は、アルガスからの指示がないと消防やら警察は動かないらしい。キーダーの、って意味じゃねぇぜ? アルガスの偉い人はこの炎に気付いてる筈だ。俺たちは自分たちの力で最善を尽くさなきゃならねぇんだよ。ちょっとくらい壊しても問題ない」
「ちょっと……? これは『ちょっと』なんですか?」
そんな規模はとうに超えている気がするが、縦に首を振る彼に従って龍之介はスマホをしまった。
修司は横に広がる炎の両端に目を走らせて、「よし」と頷く。
「やっぱり俺は朱羽さんのトコに行こうと思う」
「修司さん?」
「お前はどうする? ここで待ってるか?」
状況が良くないのは、修司の顔を見ればわかる。
さっき花を持たせてやると彼に言われたが、今はそんな悠長なことを言っていられる余裕はないだろう。
自分に何ができるかなんて分からないが、龍之介はじっとなどしていられなかった。
「俺も行かせて下さい!!」
自分がこれ以上進めない理由なんて、幾らでもあるのだ。それに抗わなければ、もう逃げるしか道はない。
「駄目だと思ったらすぐ離れろよ? お前は逃げてもいいんだからな」
「俺は逃げません!」
「死ぬなって言ってんだ。お前を守る余裕なんかないって言っただろ? 自分の身は自分で守れ」
「は、はいっ!」
「よし」と頷き合って、勢いのままに駈け出そうとしたその時だ。
「威勢がいいな、リュウ」
気配もなく背後から掛けられた声に、龍之介はぞっと背筋を震わせた。
相手が誰だかすぐに分かったけれど、彼がそこに居ると認めたくなかった。
悄然とする龍之介に、修司が先に相手を振り返る。
相手と修司は初対面だ。けれど、修司は納得したように相手に向けて武器を構える。
「龍之介、コイツがお前の友達なのか?」
「リュウ」ともう一度呼ばれて沸いた気持ちは、諦めたという感情に近いのかもしれない。
「何で居るんだよ」
怒りさえ込めて、龍之介は銀次へと踵を返した。
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