264 / 622
Episode3 龍之介
70 安全地帯
しおりを挟む
修司が顔を強張らせているのに気付いて、龍之介は不安を過らせる。
朱羽はガイアと戦うために暗闇の奥へ入っていった。公園に張られた規制線が絶対安全を謳う境界線ではないように、この場所に居ればという考えは軽率だというのか。
敵は多くても三人だと思っている。ガイアとシェイラ、それに銀次──けれどそれは、彼らの他に仲間がいないのが大前提での話だ。
銀次が飲んだかもしれない薬の出所も闇に包まれたままだ。陰に何か大きなものが隠れている気がして、突然湧いた恐怖に龍之介は肩を震わせた。
「ここで戦闘が起きないとは限らないですよね?」
「そりゃあな」
「朱羽さんは一人で大丈夫なんですか?」
「俺とお前で戦うよりは、よっぽど強いと思うぜ? 俺はあの人が戦ってる所を見たことが無いけど、京子さんは朱羽さんには敵わないっていうんだ。だから、俺たちが心配することじゃねぇよ」
──『何やっても京子の方がうまくできるから、自信無くして良く泣いてたわ』
前に朱羽がそんなことを話してくれた。だから、朱羽と京子はそれぞれ相手に同じ思いを抱いているらしい。
話に集中するのは良くないと思いつつも、会話しているだけで恐怖を和らげることができた。
「二人はずっとライバルなんですね」
「そうだな、俺も見習わないと……」
逆に修司は辺りを警戒しっぱなしだ。
張り詰めた緊張が伝わってきて、龍之介もノーマルなりにもう一度辺りの気配を探る。けれど、沈黙に響く風の音が頬を撫でていくばかりだ。
「修司さんもガイアの気配を感じてるんですか?」
「まぁな。それより、お前の友達がアイツらに変な薬飲まされたかもしれないんだろ? ノーマルが力を使えるようになるって本当なのか?」
「確証はないです。ただシェイラの口ぶりだと、そう考えざるを得ないっていうか」
そんなものを作り出せるとは思えない。仮にそうだと言われて銀次が薬を飲んだとしたら、身体への悪い影響ばかりを考えてしまう。
「ふぅん。けどいいのか、友達が敵になるかもしれないんだぞ? 戦闘になったら、そのオトモダチは死ぬかもしれない。そこでお前は最後まで俺たちの仲間でいれるのかよ」
「いれます」
龍之介は強く音にして、その言葉を自分にも言い聞かせた。
「朱羽さんにも聞かれました。けど、アイツの夢を繋ぎ止めてやれるのはノーマルの俺だと思うんで」
「夢ね。怪しい薬に手を出してまで、力が欲しいのかね」
「キーダーになりたかったんですよ、アイツは」
銀次はノーマルに生まれた事に劣等感を抱いていた。キーダーになれる薬があったら飲むと言った冗談が現実になるなんて、龍之介は思ってもみなかった。
困惑する龍之介を一瞥して、修司は短く溜息をつく。
「俺はずっとバスクだったけど、キーダーになりたいなんて思ったこと一度もなかったな。家がキーダーを毛嫌いしてた話はしただろ? うちのばぁちゃんと叔父さんが産婦人科医で、出生検査で陽性が出たのを隠されたんだ」
「俺の死んだ祖父もそうでした。けど修司さんはどうしてキーダーになったんですか?」
「そりゃあ――」
言い掛けた答えを飲み込んで、修司は表情を隠すように龍之介へ半分背を向けると、少し間を置いた後、恥ずかしそうに答えをくれた。
「美弦がいたからだよ」
朱羽はガイアと戦うために暗闇の奥へ入っていった。公園に張られた規制線が絶対安全を謳う境界線ではないように、この場所に居ればという考えは軽率だというのか。
敵は多くても三人だと思っている。ガイアとシェイラ、それに銀次──けれどそれは、彼らの他に仲間がいないのが大前提での話だ。
銀次が飲んだかもしれない薬の出所も闇に包まれたままだ。陰に何か大きなものが隠れている気がして、突然湧いた恐怖に龍之介は肩を震わせた。
「ここで戦闘が起きないとは限らないですよね?」
「そりゃあな」
「朱羽さんは一人で大丈夫なんですか?」
「俺とお前で戦うよりは、よっぽど強いと思うぜ? 俺はあの人が戦ってる所を見たことが無いけど、京子さんは朱羽さんには敵わないっていうんだ。だから、俺たちが心配することじゃねぇよ」
──『何やっても京子の方がうまくできるから、自信無くして良く泣いてたわ』
前に朱羽がそんなことを話してくれた。だから、朱羽と京子はそれぞれ相手に同じ思いを抱いているらしい。
話に集中するのは良くないと思いつつも、会話しているだけで恐怖を和らげることができた。
「二人はずっとライバルなんですね」
「そうだな、俺も見習わないと……」
逆に修司は辺りを警戒しっぱなしだ。
張り詰めた緊張が伝わってきて、龍之介もノーマルなりにもう一度辺りの気配を探る。けれど、沈黙に響く風の音が頬を撫でていくばかりだ。
「修司さんもガイアの気配を感じてるんですか?」
「まぁな。それより、お前の友達がアイツらに変な薬飲まされたかもしれないんだろ? ノーマルが力を使えるようになるって本当なのか?」
「確証はないです。ただシェイラの口ぶりだと、そう考えざるを得ないっていうか」
そんなものを作り出せるとは思えない。仮にそうだと言われて銀次が薬を飲んだとしたら、身体への悪い影響ばかりを考えてしまう。
「ふぅん。けどいいのか、友達が敵になるかもしれないんだぞ? 戦闘になったら、そのオトモダチは死ぬかもしれない。そこでお前は最後まで俺たちの仲間でいれるのかよ」
「いれます」
龍之介は強く音にして、その言葉を自分にも言い聞かせた。
「朱羽さんにも聞かれました。けど、アイツの夢を繋ぎ止めてやれるのはノーマルの俺だと思うんで」
「夢ね。怪しい薬に手を出してまで、力が欲しいのかね」
「キーダーになりたかったんですよ、アイツは」
銀次はノーマルに生まれた事に劣等感を抱いていた。キーダーになれる薬があったら飲むと言った冗談が現実になるなんて、龍之介は思ってもみなかった。
困惑する龍之介を一瞥して、修司は短く溜息をつく。
「俺はずっとバスクだったけど、キーダーになりたいなんて思ったこと一度もなかったな。家がキーダーを毛嫌いしてた話はしただろ? うちのばぁちゃんと叔父さんが産婦人科医で、出生検査で陽性が出たのを隠されたんだ」
「俺の死んだ祖父もそうでした。けど修司さんはどうしてキーダーになったんですか?」
「そりゃあ――」
言い掛けた答えを飲み込んで、修司は表情を隠すように龍之介へ半分背を向けると、少し間を置いた後、恥ずかしそうに答えをくれた。
「美弦がいたからだよ」
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
AV研は今日もハレンチ
楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo?
AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて――
薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる