255 / 622
Episode3 龍之介
61 男同士
しおりを挟む
しばらくして修司だけが応接室に戻ってきた。
ソファから立ち上がろうとした龍之介に「いいよ」と手を振り、テーブルを挟んだ向かいに腰を下ろす。
「美弦先輩は大丈夫ですか?」
「とりあえず自分の部屋で休んでる。馬鹿って十回くらい言われたけどな。馬鹿はアイツの常套句みたいなもんだから、気にしなくていいぜ」
「そうなんですか」
「アイツに心配なんかさせたくないけど、俺が弱いのなんて言われなくても分かってるし、俺だってアイツのこと心配してんだ。当たり前じゃん、好きなんだから」
「……本当にすみませんでした」
申し訳ない気持ちで、龍之介はもう一度彼女の怪我のことを修司に詫びた。
「いいよ、って許すわけじゃないけど。もう言わなくていいから」
修司は自分の唇に手の甲を押し付けながら、龍之介に大きく頷いて見せる。
「俺だって俺なりにできることをしてるだけなんだけどな。お前だってアニメの主人公みたいに、突然最強になれるなんて思ってないだろ?」
「それは……もちろんです」
ただ、さすまたが発動して自分がキーダーかもと期待してしまった時、一瞬そんなことを考えてしまったのは事実だ。
修司のコンプレックスを聞いても尚、龍之介が彼を羨ましいという気持ちに変わりはない。シェイラの誘いに乗る気はないけれど、せめてこのさすまたを使いこなすことができればと思う。
「俺もキーダーだったらって思います」
「そのさすまたって、使うの難しいんだろ? ちょっと貸してみ」
マサの説明だと、使用者の意識を連動させて人工的に光を発動できるらしい。
修司は龍之介からさすまたを受け取り、「ふん」と気合を込めて見せる。沈黙を挟んだ数秒後、バチバチッと音がして先端の間を青白い光が走った。
「わぁ光った!」
「いや、これはキーダーの力だよ。やっぱり力使わないと難しいかな。お前凄くないか?」
「たまたま無意識に光っただけなんで。使いこなせたらいいんですけど……やっぱり修司さんみたいになりたいです」
修司は照れくさそうに笑いながら、光を消してさすまたを龍之介に戻した。
「一回できたなら、訓練次第でどうにでもなるんじゃねぇの? 俺だって3ヶ月でここまで来るの大変だったんだぞ?」
「訓練……か」
「何ができるかって美弦に聞くより、よっぽど堅実的だよ。アイツに聞くなんて、こじらせるの目に見えてるじゃん」
「そうなんですか」
「アイツの性格考えてみろよ。キーダーはノーマルを助けるものだってのは間違ってはいないんだけどな。アイツの話真に受けてじっとしてることないと思うぜ。お前のやりたいようにやってみたら? 朱羽さんに迷惑だって言われない程度にな」
「修司さん……」
「無責任だって怒鳴られそうだから、アイツには内緒な」
人差し指を唇に当てて「シッ」という修司に、龍之介は「分かりました」と笑う。
自分はノーマルだという劣等感が少しだけ和らいだ気がした途端に、じっとしてなんかいられなくなった。
「俺、朱羽さんの所で待っててもいいですか?」
「拷問部屋のトコで? 別に構いはしないけど」
「本当ですか? じゃあ、行ってきます!」
修司は「一緒に行くか?」と言ってくれたが、龍之介はあえて断った。
「待ってるだけなんで一人で行けます」
龍之介はさすまたを手に戸口へ立った所で、ふと足を止める。
「そうだ、修司さん。一つ聞いてもいいですか?」
緊張感のない話だけれど、好奇心のままに尋ねた。
「マサさんがさっき公園にパラシュートで下りてきたって言うんですけど、修司さんも訓練してるんですよね? 怖くないんですか?」
「怖いよ! 決まってんだろ?」
血相を変えた修司にその恐怖を垣間見て、龍之介は「ですよね」と頭を下げて部屋を後にした。
ソファから立ち上がろうとした龍之介に「いいよ」と手を振り、テーブルを挟んだ向かいに腰を下ろす。
「美弦先輩は大丈夫ですか?」
「とりあえず自分の部屋で休んでる。馬鹿って十回くらい言われたけどな。馬鹿はアイツの常套句みたいなもんだから、気にしなくていいぜ」
「そうなんですか」
「アイツに心配なんかさせたくないけど、俺が弱いのなんて言われなくても分かってるし、俺だってアイツのこと心配してんだ。当たり前じゃん、好きなんだから」
「……本当にすみませんでした」
申し訳ない気持ちで、龍之介はもう一度彼女の怪我のことを修司に詫びた。
「いいよ、って許すわけじゃないけど。もう言わなくていいから」
修司は自分の唇に手の甲を押し付けながら、龍之介に大きく頷いて見せる。
「俺だって俺なりにできることをしてるだけなんだけどな。お前だってアニメの主人公みたいに、突然最強になれるなんて思ってないだろ?」
「それは……もちろんです」
ただ、さすまたが発動して自分がキーダーかもと期待してしまった時、一瞬そんなことを考えてしまったのは事実だ。
修司のコンプレックスを聞いても尚、龍之介が彼を羨ましいという気持ちに変わりはない。シェイラの誘いに乗る気はないけれど、せめてこのさすまたを使いこなすことができればと思う。
「俺もキーダーだったらって思います」
「そのさすまたって、使うの難しいんだろ? ちょっと貸してみ」
マサの説明だと、使用者の意識を連動させて人工的に光を発動できるらしい。
修司は龍之介からさすまたを受け取り、「ふん」と気合を込めて見せる。沈黙を挟んだ数秒後、バチバチッと音がして先端の間を青白い光が走った。
「わぁ光った!」
「いや、これはキーダーの力だよ。やっぱり力使わないと難しいかな。お前凄くないか?」
「たまたま無意識に光っただけなんで。使いこなせたらいいんですけど……やっぱり修司さんみたいになりたいです」
修司は照れくさそうに笑いながら、光を消してさすまたを龍之介に戻した。
「一回できたなら、訓練次第でどうにでもなるんじゃねぇの? 俺だって3ヶ月でここまで来るの大変だったんだぞ?」
「訓練……か」
「何ができるかって美弦に聞くより、よっぽど堅実的だよ。アイツに聞くなんて、こじらせるの目に見えてるじゃん」
「そうなんですか」
「アイツの性格考えてみろよ。キーダーはノーマルを助けるものだってのは間違ってはいないんだけどな。アイツの話真に受けてじっとしてることないと思うぜ。お前のやりたいようにやってみたら? 朱羽さんに迷惑だって言われない程度にな」
「修司さん……」
「無責任だって怒鳴られそうだから、アイツには内緒な」
人差し指を唇に当てて「シッ」という修司に、龍之介は「分かりました」と笑う。
自分はノーマルだという劣等感が少しだけ和らいだ気がした途端に、じっとしてなんかいられなくなった。
「俺、朱羽さんの所で待っててもいいですか?」
「拷問部屋のトコで? 別に構いはしないけど」
「本当ですか? じゃあ、行ってきます!」
修司は「一緒に行くか?」と言ってくれたが、龍之介はあえて断った。
「待ってるだけなんで一人で行けます」
龍之介はさすまたを手に戸口へ立った所で、ふと足を止める。
「そうだ、修司さん。一つ聞いてもいいですか?」
緊張感のない話だけれど、好奇心のままに尋ねた。
「マサさんがさっき公園にパラシュートで下りてきたって言うんですけど、修司さんも訓練してるんですよね? 怖くないんですか?」
「怖いよ! 決まってんだろ?」
血相を変えた修司にその恐怖を垣間見て、龍之介は「ですよね」と頭を下げて部屋を後にした。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
AV研は今日もハレンチ
楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo?
AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて――
薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる