253 / 618
Episode3 龍之介
59 底へ
しおりを挟む
上官への報告を手短に済ませ、朱羽は階段を下りていく。
今回の件でアルガスへ戻されるだろうと少し覚悟していたが、その話が出ることはなかった。ウィルを捕まえた時に京子へ手柄をなすり付けた事も、まだバレてはいないらしい。
「あぁけど、知ってたからって事もあり得るわね」
会話を整理して、ふとそんな考えに行き着く。
どちらにせよ、上にとってはあまり関心のない話題なのかもしれない。『誰が』ではなく、『キーダーがウィルを捕まえた』だけで満足なのだろう。朱羽にとっては好都合だが、実際上の人間が何を考えているかなんて、下の人間は分からないのだ。
──『君が思うように動いて構わないからね』
帰り際に言われたその言葉が妙に引っ掛かって、朱羽は地下へ降りた。
そこへ踏み込むのは久しぶりだ。半地下にある資料庫の前を通り、先にある階段をさらに深く下りた所に入口があって、奥に扉が三つ並んでいる。
朱羽の侵入を捕らえた監視カメラが、ジリと動く。
物々しい雰囲気は、地下という理由だけではない。照明の色や壁紙は他と大差ないが、かつての閉鎖されていた時代の名残か、どことなく染み付いた気配が漂っている。
一番奥の扉を塞ぐ護兵に「ご苦労様」と挨拶して、朱羽は覗き窓を一瞥した。
大柄な男だ。他に何人かいる護兵の中でも、戦闘力の高いメンバーがここを任されることが多い。
「少し外してもらえる?」
「分かりました」
青い制服の胸元に拳を叩くのは、彼にとって『了解』の合図らしい。男は素直に従って、その場を離れた。
改めて扉の奥を覗くと、仄暗い部屋に男の影が見える。食事中らしく、簡易な机でスープをすすっている所だった。
朱羽に気付いた影がぐらりと揺れて、その容姿が照明に映える。
男の髪は記憶のそれよりも短く刈られ、逆に無精髭が伸びていた。一瞬別人を思わせるが、振り向いた切れ長の目が、脳裏に張り付いた表情と重なる。
「ちょっといい?」
「はぁ?」
男はスプーンを皿に打ちつけて立ち上がる。
「誰だ」と凄む態度は、収監中の罪人とは思えない程だ。
「私を覚えているかしら?」
男はのっそりと近付いて扉のすぐ手前で足を止めると「あぁ」と唸るように声を零した。
「忘れられない顔だな」
ニヤリと細めた目に生気を光らせて、ウィルは「久しぶりだな」と笑った。
今回の件でアルガスへ戻されるだろうと少し覚悟していたが、その話が出ることはなかった。ウィルを捕まえた時に京子へ手柄をなすり付けた事も、まだバレてはいないらしい。
「あぁけど、知ってたからって事もあり得るわね」
会話を整理して、ふとそんな考えに行き着く。
どちらにせよ、上にとってはあまり関心のない話題なのかもしれない。『誰が』ではなく、『キーダーがウィルを捕まえた』だけで満足なのだろう。朱羽にとっては好都合だが、実際上の人間が何を考えているかなんて、下の人間は分からないのだ。
──『君が思うように動いて構わないからね』
帰り際に言われたその言葉が妙に引っ掛かって、朱羽は地下へ降りた。
そこへ踏み込むのは久しぶりだ。半地下にある資料庫の前を通り、先にある階段をさらに深く下りた所に入口があって、奥に扉が三つ並んでいる。
朱羽の侵入を捕らえた監視カメラが、ジリと動く。
物々しい雰囲気は、地下という理由だけではない。照明の色や壁紙は他と大差ないが、かつての閉鎖されていた時代の名残か、どことなく染み付いた気配が漂っている。
一番奥の扉を塞ぐ護兵に「ご苦労様」と挨拶して、朱羽は覗き窓を一瞥した。
大柄な男だ。他に何人かいる護兵の中でも、戦闘力の高いメンバーがここを任されることが多い。
「少し外してもらえる?」
「分かりました」
青い制服の胸元に拳を叩くのは、彼にとって『了解』の合図らしい。男は素直に従って、その場を離れた。
改めて扉の奥を覗くと、仄暗い部屋に男の影が見える。食事中らしく、簡易な机でスープをすすっている所だった。
朱羽に気付いた影がぐらりと揺れて、その容姿が照明に映える。
男の髪は記憶のそれよりも短く刈られ、逆に無精髭が伸びていた。一瞬別人を思わせるが、振り向いた切れ長の目が、脳裏に張り付いた表情と重なる。
「ちょっといい?」
「はぁ?」
男はスプーンを皿に打ちつけて立ち上がる。
「誰だ」と凄む態度は、収監中の罪人とは思えない程だ。
「私を覚えているかしら?」
男はのっそりと近付いて扉のすぐ手前で足を止めると「あぁ」と唸るように声を零した。
「忘れられない顔だな」
ニヤリと細めた目に生気を光らせて、ウィルは「久しぶりだな」と笑った。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
デリバリー・デイジー
SoftCareer
キャラ文芸
ワケ有りデリヘル嬢デイジーさんの奮闘記。
これを読むと君もデリヘルに行きたくなるかも。いや、行くんじゃなくて呼ぶんだったわ……あっ、本作品はR-15ですが、デリヘル嬢は18歳にならないと呼んじゃだめだからね。
※もちろん、内容は百%フィクションですよ!
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる