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Episode3 龍之介
50 電話
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「京子さん、朱羽さん、無事でいて下さい……」
片手にさすまたを、もう片方の手には逃げ遅れた少年の手を握り締めて、龍之介は戦闘中の広場を離れた。
薄暗くなった道の奥で、駅の煌々とした明かりが道しるべの様に映える。
出入口に張られた規制線が見えたところで、脇から「そこの二人!」と男の声に呼び止められた。紺色の制服を着たアルガスの施設員だ。
「まだ残ってたの?」と慰霊塔の方を振り返って、男は訝し気に目を細める。
「小さい子連れてかくれんぼでもしてた? とにかく無事で良かったよ。オジサンと一緒に外まで行こうか」
「あの、この子だけお願いしてもいいですか?」
「はぁ?」
少年の保護を託して朱羽の所へ戻ろうとするが、男はヘルメットを被った龍之介を頭から足の先までじろりと見やった。どうやら、龍之介のことも逃げ遅れた一般人だと思っているようだ。
「君も一緒に逃げるんだよ。さすまたなんか持って、警察官の真似でもしてるつもり?」
「俺は矢代さんの助手の、相葉龍之介です。事務所の手伝いをしています」
そう呼ぶことは少ないが、矢代は朱羽の苗字だ。
「朱羽さんの? 彼女に助手なんかいたっけ?」
「最近入ったので……」
龍之介はポケットからIDカードを取り出す。男は写真と龍之介を見比べて「ホントに?」と疑いの眼差しを向けながら、渋々と少年だけを引き取ってくれた。
龍之介が「気を付けてね」と少年に手を振る。
避難した一般人は駅へ流れたように思えたが、黄色いテープのすぐ奥は報道陣と野次馬でごった返していた。
『大晦日の白雪』の事を考えれば、規制線の向こうが絶対安全とは限らないだろう。けれど龍之介にはその状況をどうすることもできず、広場へ戻ることを優先させた。
踵を返したところで、スマホが着信音を鳴らす。
相手は銀次だ。
もしやと思いながら通話ボタンを押すと、案の定興奮気味の声が「おい」と弾む。
『お前今どこにいる? 慰霊塔の所で何があったんだよ』
彼の情報網には毎度驚かされる。龍之介がここに来てまだ一時間と経っていない。
「ごめん銀次。ちょっと今立て込んでてさ、とにかく危ないから絶対に近付くなよ?」
詳細を言おうとしたが、龍之介は言葉を飲み込んだ。言ったら奴は絶対にここへ飛んでくると思ったからだ。
自分の曖昧な返事が事件を肯定していることは自覚しているけれど、幾らキーダーに憧れているとはいえ、危険のリスクは背負って欲しくない。
『近付くなよ、って。リュウはそこに居るんだろう?』
「俺は仕事だから。いいか、絶対に来ちゃ駄目だぞ?」
早口に念を押して、龍之介は一方的に通話を切った。
「俺、嫌な奴だ……」
モヤモヤとした気持ちが後を引いて、龍之介はスマホをポケットに押し込む。
けれど間違ってはいないんだと自分に言い聞かせて、広場へと折り返した。
規制線の向こうに居る銀次にも、気付くことはできなかった。
片手にさすまたを、もう片方の手には逃げ遅れた少年の手を握り締めて、龍之介は戦闘中の広場を離れた。
薄暗くなった道の奥で、駅の煌々とした明かりが道しるべの様に映える。
出入口に張られた規制線が見えたところで、脇から「そこの二人!」と男の声に呼び止められた。紺色の制服を着たアルガスの施設員だ。
「まだ残ってたの?」と慰霊塔の方を振り返って、男は訝し気に目を細める。
「小さい子連れてかくれんぼでもしてた? とにかく無事で良かったよ。オジサンと一緒に外まで行こうか」
「あの、この子だけお願いしてもいいですか?」
「はぁ?」
少年の保護を託して朱羽の所へ戻ろうとするが、男はヘルメットを被った龍之介を頭から足の先までじろりと見やった。どうやら、龍之介のことも逃げ遅れた一般人だと思っているようだ。
「君も一緒に逃げるんだよ。さすまたなんか持って、警察官の真似でもしてるつもり?」
「俺は矢代さんの助手の、相葉龍之介です。事務所の手伝いをしています」
そう呼ぶことは少ないが、矢代は朱羽の苗字だ。
「朱羽さんの? 彼女に助手なんかいたっけ?」
「最近入ったので……」
龍之介はポケットからIDカードを取り出す。男は写真と龍之介を見比べて「ホントに?」と疑いの眼差しを向けながら、渋々と少年だけを引き取ってくれた。
龍之介が「気を付けてね」と少年に手を振る。
避難した一般人は駅へ流れたように思えたが、黄色いテープのすぐ奥は報道陣と野次馬でごった返していた。
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踵を返したところで、スマホが着信音を鳴らす。
相手は銀次だ。
もしやと思いながら通話ボタンを押すと、案の定興奮気味の声が「おい」と弾む。
『お前今どこにいる? 慰霊塔の所で何があったんだよ』
彼の情報網には毎度驚かされる。龍之介がここに来てまだ一時間と経っていない。
「ごめん銀次。ちょっと今立て込んでてさ、とにかく危ないから絶対に近付くなよ?」
詳細を言おうとしたが、龍之介は言葉を飲み込んだ。言ったら奴は絶対にここへ飛んでくると思ったからだ。
自分の曖昧な返事が事件を肯定していることは自覚しているけれど、幾らキーダーに憧れているとはいえ、危険のリスクは背負って欲しくない。
『近付くなよ、って。リュウはそこに居るんだろう?』
「俺は仕事だから。いいか、絶対に来ちゃ駄目だぞ?」
早口に念を押して、龍之介は一方的に通話を切った。
「俺、嫌な奴だ……」
モヤモヤとした気持ちが後を引いて、龍之介はスマホをポケットに押し込む。
けれど間違ってはいないんだと自分に言い聞かせて、広場へと折り返した。
規制線の向こうに居る銀次にも、気付くことはできなかった。
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