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Episode3 龍之介
41 目的地は、あそこ
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銃なのか剣なのか、それ以外か。
シェイラが『与える』と言った力の意味を悶々と考えながら、龍之介は後部座席の真ん中でフロントガラスの奥に広がる風景をぼんやりと見つめていた。
帰宅時間帯の国道は交通量が多い。10センチ程開いた運転席側の窓から、暑さの和らいだ空気が流れ込んでくる。
「あぁ、またつかまった」
さっきから何度も信号に閊えていて綾斗も苛立ちを隠せない。ナビで裏道を検索するが、状況は変わらなそうだ。
「朱羽さん、無事ですよね?」
「俺たちが不安がったってどうしようにもないだろ? 朱羽さんを信じなきゃ」
シェイラも朱羽は無事だろうと言っていたが、龍之介の不安が消えることはなかった。
「朱羽さんってずっとあの事務所にいるんですよね? 訓練とかしてるんですか?」
「自主トレはしてるらしいよ。結構強いと思うけど?」
修司の質問に、何故か苦笑する綾斗。
青信号で走り出すと、彼の胸でスマホが着信音を鳴らす。綾斗は発信者をチラと確認して、路肩に車を移動させた。
「はい」と応答した彼の声がどことなく楽しそうに聞こえる。相手が京子だろうと思うのは、前に朱羽が綾斗の片思いの相手を教えてくれたからだ。
「今どこですか?」
「綾斗」という声をスマホの奥から拾って、龍之介と修司は耳を傾ける。
綾斗は「はい」を繰り返して、数回目の返事で「えっ」とトーンを上げた。
「流石、京子さん! そう、俺たちもそこへ向かってます」
やはり相手は京子らしい。彼女もガイアの居場所を突き止めることができたようだ。
「じゃあ現地で。駅側でお願いします。あぁ、ですね。そこまで行ってるなら京子さんの足で走った方が速いですよ。俺たちも急ぎます」
会話が終わるのとほぼ同時に、綾斗はピッと通話をオフにした。
「行くよ」とウインカーを出してアクセルを踏む。
「修司、もっと気配抑えて」
「すみません」
ハッと肩をすくめた修司に、綾斗が注意する。
「抜かるなよ。まぁ、すぐにバレるだろうけどね」
能力者はお互いに気配を読むことができるという。
龍之介は二人を交互に見つめて何かを感じ取ろうと試みてみるが、所詮ノーマルにはさっぱり分からなかった。
「修司、ここまで来れば目的地は読めた?」
「多分、あそこじゃないのかなってのは……」
首を捻りながら、修司がフロントガラスの向こうを指差す。
赤色がうっすらと滲む夕方の空に、白銀の高い塔が映えていた。
『大晦日の白雪』の慰霊塔だ。
七年前バスクの暴走で大爆発が起きたその場所は、元々住宅地だったが今は公園になっている。
毎年大晦日には慰霊祭の様子がテレビで流れているが、龍之介はあまり見た記憶がなかった。
すぐに帰ってこない返事に修司がそろりと運転席を横目に見ると、綾斗は「よくできました」と頷いた。
シェイラが『与える』と言った力の意味を悶々と考えながら、龍之介は後部座席の真ん中でフロントガラスの奥に広がる風景をぼんやりと見つめていた。
帰宅時間帯の国道は交通量が多い。10センチ程開いた運転席側の窓から、暑さの和らいだ空気が流れ込んでくる。
「あぁ、またつかまった」
さっきから何度も信号に閊えていて綾斗も苛立ちを隠せない。ナビで裏道を検索するが、状況は変わらなそうだ。
「朱羽さん、無事ですよね?」
「俺たちが不安がったってどうしようにもないだろ? 朱羽さんを信じなきゃ」
シェイラも朱羽は無事だろうと言っていたが、龍之介の不安が消えることはなかった。
「朱羽さんってずっとあの事務所にいるんですよね? 訓練とかしてるんですか?」
「自主トレはしてるらしいよ。結構強いと思うけど?」
修司の質問に、何故か苦笑する綾斗。
青信号で走り出すと、彼の胸でスマホが着信音を鳴らす。綾斗は発信者をチラと確認して、路肩に車を移動させた。
「はい」と応答した彼の声がどことなく楽しそうに聞こえる。相手が京子だろうと思うのは、前に朱羽が綾斗の片思いの相手を教えてくれたからだ。
「今どこですか?」
「綾斗」という声をスマホの奥から拾って、龍之介と修司は耳を傾ける。
綾斗は「はい」を繰り返して、数回目の返事で「えっ」とトーンを上げた。
「流石、京子さん! そう、俺たちもそこへ向かってます」
やはり相手は京子らしい。彼女もガイアの居場所を突き止めることができたようだ。
「じゃあ現地で。駅側でお願いします。あぁ、ですね。そこまで行ってるなら京子さんの足で走った方が速いですよ。俺たちも急ぎます」
会話が終わるのとほぼ同時に、綾斗はピッと通話をオフにした。
「行くよ」とウインカーを出してアクセルを踏む。
「修司、もっと気配抑えて」
「すみません」
ハッと肩をすくめた修司に、綾斗が注意する。
「抜かるなよ。まぁ、すぐにバレるだろうけどね」
能力者はお互いに気配を読むことができるという。
龍之介は二人を交互に見つめて何かを感じ取ろうと試みてみるが、所詮ノーマルにはさっぱり分からなかった。
「修司、ここまで来れば目的地は読めた?」
「多分、あそこじゃないのかなってのは……」
首を捻りながら、修司がフロントガラスの向こうを指差す。
赤色がうっすらと滲む夕方の空に、白銀の高い塔が映えていた。
『大晦日の白雪』の慰霊塔だ。
七年前バスクの暴走で大爆発が起きたその場所は、元々住宅地だったが今は公園になっている。
毎年大晦日には慰霊祭の様子がテレビで流れているが、龍之介はあまり見た記憶がなかった。
すぐに帰ってこない返事に修司がそろりと運転席を横目に見ると、綾斗は「よくできました」と頷いた。
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