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Episode3 龍之介
34 言いつけ
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「ガイア!」
脅迫状に添えられたアルファベッドが犯人を示すなら、その男以外に思い当たる人物は浮かばなかった。
桜の夜、龍之介からバイト代を奪おうとしたチンピラ男だ。
京子をおびき寄せる為に朱羽がさらわれてしまったというのか。
ガイアが京子を狙う理由は、去年起きた街中での衝突だろう。彼等の仲間でバスクのウィルを、京子が地下牢送りにしたのだ。
けれど、能力を使うキーダーにノーマルのガイアが敵うわけないと龍之介は思っている。
「朱羽さんがアイツに連れて行かれるなんて、ありえないだろ?」
確信を持って呟いて、龍之介はスマホの画面をオンにした。
「何かあったら連絡して」と京子から番号を聞いている。発信履歴には先に朱羽の番号が出たけれど、今繋がったところで彼女を救う事にはならない気がして、そのまま田母神京子の名前までスクロールさせた。
手が震えてスマホを取り落としそうになる。呼び出しのコール二回目で彼女が出た。
『龍之介くん? どうし……』
「朱羽さんがさらわれたんです!」
じっとしてなどいられなかった。
京子の声を遮って、龍之介が叫ぶ。
『どういうこと? 朱羽がさらわれるなんて事ある?』
「本当なんです!」
『龍之介くん……何があったか教えて』
緊迫した空気が流れて、龍之介は今起きている状況を彼女に説明した。
「Gって文字は、ガイアってことでしょうか。アイツが朱羽さんを!」
憶測だけれどそれを伝えると、京子は『落ち着いて』と龍之介を宥めた。
『龍之介くん、ガイアの事知ってるの?』
「やっぱり、俺が朱羽さんに助けられた時のチンピラと刺青女が、ガイアとシェイラなんですね? 俺、事件の資料を見て、そうじゃないかって思って」
『あぁ、そういうことか。そうだよ。奴らにはもう一人仲間がいて、私が捕まえてトールにしたの。名前は――』
「ウィル、ですね」
龍之介は先にその名を口にした。『トールにする』ということは、本人以外の能力者の力で、故意に力を消失させることだ。
龍之介が予想した通りに、京子は『うん』と答える。
『龍之介くんは、そこから一度アルガスに来てもらっていい? 近くに美弦が居るから向かわせる。くれぐれもそこから離れないで』
「朱羽さんがどこにいるか分かるんですか?」
訴えるように問うと、京子は焦燥を滲ませて『駄目だよ』と龍之介をたしなめる。
『変なこと考えちゃ駄目。銀環にはGPS機能が備わってるの。あんまり精密ではないけど、あとは気配で分かるから』
「気配……?」
『能力者はね、お互いの匂いを感じ取ることができるから。朱羽をどうするつもりか知らないけど、ガイアは私を挑発してくるはず』
「ちょっと待って下さい。京子さんを挑発、って。ガイアはノーマルなんですよね?」
能力者同士が相手を感じ取ることができるというのは分かった。
けれどそれではガイアがバスクだという前提の話になってしまう。それなのに彼女は一瞬黙ってから、おかしなことを口にした。
『確証ではないけど、可能性はあるってことだよ』
「それってガイアがバスクかも、ってことですか? 刺青女も?」
『シェイラは違うんじゃないかな。ガイアのことは朱羽が一番わかってると思うから、簡単にやられたりはしないよ。だから貴方はアルガスに来て』
「そんな……分かりました」
資料に書かれていることが全てではないというのか。
龍之介は早口に答えて、一方的に通話を切る。落ち着いて話をしてなどいられなかった。
突然の不通に京子からのコールが鳴ったが、龍之介はそれを無視する。
「何だよ、それ……」
いくらチンピラでも、朱羽がノーマルに誘拐されたならそこまで心配はしなかった。けれど、相手がキーダーに恨みのあるバスクならば話は別だ。
指示通り美弦を待つか、このまま闇雲に町へ走り出すか心が決まらないまま、龍之介はさすまたを抱えて事務所を飛び出した。
脅迫状に添えられたアルファベッドが犯人を示すなら、その男以外に思い当たる人物は浮かばなかった。
桜の夜、龍之介からバイト代を奪おうとしたチンピラ男だ。
京子をおびき寄せる為に朱羽がさらわれてしまったというのか。
ガイアが京子を狙う理由は、去年起きた街中での衝突だろう。彼等の仲間でバスクのウィルを、京子が地下牢送りにしたのだ。
けれど、能力を使うキーダーにノーマルのガイアが敵うわけないと龍之介は思っている。
「朱羽さんがアイツに連れて行かれるなんて、ありえないだろ?」
確信を持って呟いて、龍之介はスマホの画面をオンにした。
「何かあったら連絡して」と京子から番号を聞いている。発信履歴には先に朱羽の番号が出たけれど、今繋がったところで彼女を救う事にはならない気がして、そのまま田母神京子の名前までスクロールさせた。
手が震えてスマホを取り落としそうになる。呼び出しのコール二回目で彼女が出た。
『龍之介くん? どうし……』
「朱羽さんがさらわれたんです!」
じっとしてなどいられなかった。
京子の声を遮って、龍之介が叫ぶ。
『どういうこと? 朱羽がさらわれるなんて事ある?』
「本当なんです!」
『龍之介くん……何があったか教えて』
緊迫した空気が流れて、龍之介は今起きている状況を彼女に説明した。
「Gって文字は、ガイアってことでしょうか。アイツが朱羽さんを!」
憶測だけれどそれを伝えると、京子は『落ち着いて』と龍之介を宥めた。
『龍之介くん、ガイアの事知ってるの?』
「やっぱり、俺が朱羽さんに助けられた時のチンピラと刺青女が、ガイアとシェイラなんですね? 俺、事件の資料を見て、そうじゃないかって思って」
『あぁ、そういうことか。そうだよ。奴らにはもう一人仲間がいて、私が捕まえてトールにしたの。名前は――』
「ウィル、ですね」
龍之介は先にその名を口にした。『トールにする』ということは、本人以外の能力者の力で、故意に力を消失させることだ。
龍之介が予想した通りに、京子は『うん』と答える。
『龍之介くんは、そこから一度アルガスに来てもらっていい? 近くに美弦が居るから向かわせる。くれぐれもそこから離れないで』
「朱羽さんがどこにいるか分かるんですか?」
訴えるように問うと、京子は焦燥を滲ませて『駄目だよ』と龍之介をたしなめる。
『変なこと考えちゃ駄目。銀環にはGPS機能が備わってるの。あんまり精密ではないけど、あとは気配で分かるから』
「気配……?」
『能力者はね、お互いの匂いを感じ取ることができるから。朱羽をどうするつもりか知らないけど、ガイアは私を挑発してくるはず』
「ちょっと待って下さい。京子さんを挑発、って。ガイアはノーマルなんですよね?」
能力者同士が相手を感じ取ることができるというのは分かった。
けれどそれではガイアがバスクだという前提の話になってしまう。それなのに彼女は一瞬黙ってから、おかしなことを口にした。
『確証ではないけど、可能性はあるってことだよ』
「それってガイアがバスクかも、ってことですか? 刺青女も?」
『シェイラは違うんじゃないかな。ガイアのことは朱羽が一番わかってると思うから、簡単にやられたりはしないよ。だから貴方はアルガスに来て』
「そんな……分かりました」
資料に書かれていることが全てではないというのか。
龍之介は早口に答えて、一方的に通話を切る。落ち着いて話をしてなどいられなかった。
突然の不通に京子からのコールが鳴ったが、龍之介はそれを無視する。
「何だよ、それ……」
いくらチンピラでも、朱羽がノーマルに誘拐されたならそこまで心配はしなかった。けれど、相手がキーダーに恨みのあるバスクならば話は別だ。
指示通り美弦を待つか、このまま闇雲に町へ走り出すか心が決まらないまま、龍之介はさすまたを抱えて事務所を飛び出した。
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