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Episode3 龍之介
16 10倍のダメージ
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オフィス街から工場地帯へ入ったところで、アルガスの特徴的な建物が少しずつ姿を見せ始めた。
外界を遮断する外壁の作りは、かつてキーダーが民衆から迫害を受けていたころの名残だと綾斗は淡々とした口調で説明する。
つい三〇年近く前まで、キーダーは禁忌として恐れられていたのだ。
出生検査で能力者を炙り出し、銀環を付けてアルガスに幽閉した。その歴史を覆してキーダーを英雄にしたのが、隕石から日本を救った大舎卿だ。
龍之介の祖父がそうであったように、過去のイメージを今も引きずっている人は少なくない。十人のうち十人がキーダーを良く言う訳でないことを、龍之介は知っているつもりだ。
「アルガスの本部には、どれくらいのキーダーが居るんですか?」
「今本部に席があるのは八人かな。朱羽さんも含めてね。常に外で仕事してる人も居るから、常駐してるのはそれより少ないよ」
「そんなにいるのはここくらいよ。全国に幾つか支部があるけど、そっちは一人か二人だもの」
綾斗の説明に加えて、朱羽が憂鬱そうに窓を覗き込む。
正面にそびえるアルガスの門に圧倒されて、龍之介は息を呑んだ。
「やっぱり近くで見ると大きい門ですね」
「敵が入ってこれないようにしてるから」
「敵って……」
「龍之介のこと怖がらせないで」
バスクですかと問い掛けようとしたところで、朱羽が運転席のシートを両手で掴んで綾斗に注意する。
「バスクの襲撃なんて滅多にあることじゃないわ。あそこに二人立ってるでしょ? あれは護兵って言って、アルガスで唯一の『兵』としてあそこを護ってくれている人なの。ノーマルだけど強いんだから」
朱羽が指差した門の横には『ALGS』というアルガスを示すアルファベットの刻まれた銅板がはめ込まれていて、手前に軍服のような制服を着た男が二人並んでいる。
前に朱羽を探しに来た龍之介は、その威圧感に引き返さざるを得なかった。その奥へ入ろうとする今の状況など、あの時には想像もできなかった。
青いスポーツカーが門の前に停止すると、運転席側に居た護兵が綾斗を覗き込んで敬礼する。門は手動で、二人掛かりでゆっくりと開かれた。
いよいよだ、と興奮を募らせながら龍之介はフロントガラスに身を乗り出した。
壁の奥は整然としていて、車両が通るコンクリートの道以外は芝生が広がり、壁伝いに青々とした木々が植えられている。
ほぼ立方体をしたメインの茶色い建物は、敷地の真ん中にどんと鎮座していた。上階の小さい窓が窮屈そうに見えたが、その話をすると「採光はできてるから」と言って綾斗は門が閉まるのを待って一度車を停める。
「先にどうぞ。俺は車停めてきますから、中で待ってて下さい」
「分かったわ、ありがとう。じゃ龍之介、一緒に行くわよ」
朱羽に続いて龍之介も車を降りる。
遠ざかるエンジン音に朱羽の重いため息が重なった。
「あぁ、私ここやっぱり苦手。色々思い出しちゃうわ」
陰った空の色に似た表情で建物を仰ぎ、朱羽は苦笑いする。
「さっき車で言ってたこと、気にしてるでしょ」
来週戻って来るという『マサさん』の話だ。龍之介は素直に「はい」と返事した。
「龍之介ずっとそんな顔してたもの。昔の事なんだけどね。キーダーとして入ったばかりの頃、好きになった人がいて……」
恋愛の話なんだろうという事は予想していたが、改めてそれを言われたダメージは、自分が思う10倍は大きかった。
外界を遮断する外壁の作りは、かつてキーダーが民衆から迫害を受けていたころの名残だと綾斗は淡々とした口調で説明する。
つい三〇年近く前まで、キーダーは禁忌として恐れられていたのだ。
出生検査で能力者を炙り出し、銀環を付けてアルガスに幽閉した。その歴史を覆してキーダーを英雄にしたのが、隕石から日本を救った大舎卿だ。
龍之介の祖父がそうであったように、過去のイメージを今も引きずっている人は少なくない。十人のうち十人がキーダーを良く言う訳でないことを、龍之介は知っているつもりだ。
「アルガスの本部には、どれくらいのキーダーが居るんですか?」
「今本部に席があるのは八人かな。朱羽さんも含めてね。常に外で仕事してる人も居るから、常駐してるのはそれより少ないよ」
「そんなにいるのはここくらいよ。全国に幾つか支部があるけど、そっちは一人か二人だもの」
綾斗の説明に加えて、朱羽が憂鬱そうに窓を覗き込む。
正面にそびえるアルガスの門に圧倒されて、龍之介は息を呑んだ。
「やっぱり近くで見ると大きい門ですね」
「敵が入ってこれないようにしてるから」
「敵って……」
「龍之介のこと怖がらせないで」
バスクですかと問い掛けようとしたところで、朱羽が運転席のシートを両手で掴んで綾斗に注意する。
「バスクの襲撃なんて滅多にあることじゃないわ。あそこに二人立ってるでしょ? あれは護兵って言って、アルガスで唯一の『兵』としてあそこを護ってくれている人なの。ノーマルだけど強いんだから」
朱羽が指差した門の横には『ALGS』というアルガスを示すアルファベットの刻まれた銅板がはめ込まれていて、手前に軍服のような制服を着た男が二人並んでいる。
前に朱羽を探しに来た龍之介は、その威圧感に引き返さざるを得なかった。その奥へ入ろうとする今の状況など、あの時には想像もできなかった。
青いスポーツカーが門の前に停止すると、運転席側に居た護兵が綾斗を覗き込んで敬礼する。門は手動で、二人掛かりでゆっくりと開かれた。
いよいよだ、と興奮を募らせながら龍之介はフロントガラスに身を乗り出した。
壁の奥は整然としていて、車両が通るコンクリートの道以外は芝生が広がり、壁伝いに青々とした木々が植えられている。
ほぼ立方体をしたメインの茶色い建物は、敷地の真ん中にどんと鎮座していた。上階の小さい窓が窮屈そうに見えたが、その話をすると「採光はできてるから」と言って綾斗は門が閉まるのを待って一度車を停める。
「先にどうぞ。俺は車停めてきますから、中で待ってて下さい」
「分かったわ、ありがとう。じゃ龍之介、一緒に行くわよ」
朱羽に続いて龍之介も車を降りる。
遠ざかるエンジン音に朱羽の重いため息が重なった。
「あぁ、私ここやっぱり苦手。色々思い出しちゃうわ」
陰った空の色に似た表情で建物を仰ぎ、朱羽は苦笑いする。
「さっき車で言ってたこと、気にしてるでしょ」
来週戻って来るという『マサさん』の話だ。龍之介は素直に「はい」と返事した。
「龍之介ずっとそんな顔してたもの。昔の事なんだけどね。キーダーとして入ったばかりの頃、好きになった人がいて……」
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