200 / 622
Episode3 龍之介
7 当たりなのかハズレなのか
しおりを挟む
「折角だし、私に答えられることなら答えてあげるわよ?」
駅まであと半分の距離を取り繕うように、美弦がそんなことを言う。
あまりにも突然の言葉は龍之介は首を捻らせた。
力を見せてくれと言っても、きっと断られてしまうだろう。どんな質問なら答えてくれるのかさっぱり分からなかったが、戸惑う龍之介を見兼ねた美弦が「それなら私が聞いてもいい?」と顔を上げた。
「貴方はキーダーの事どう思う? なりたいと思ったことある?」
それはイエスノーを咄嗟に答えられる単純なものではなかった。
銀次はキーダーに生まれたかったと言ったけれど、便乗するようにイエスと言ったら、それは単にあの人に会うための手段でしかないような気がした。
キーダーになれば銀環の彼女に会うという目標は容易に達成できるだろうが、有事になった時のキーダーの立ち位置を考えれば、軽はずみに『なりたい』と言えるものではない。
「俺は自分の命をかけるなんて想像もできないから、ノーマルで良かったと思います」
この数ヶ月キーダーの事を色々と調べたが、彼等は身体を張って戦闘をする人間だ。任務の為なら命をも厭わない──そんな生き方が自分にできるなど到底思えなかった。
「えぇ、正しいと思うわ」
何故かパッと笑顔になって、美弦が「じゃあ、そういうことで」と足を止める。ちょうど道路に面した駅の改札に着いた。
もう別れなければならないのだと思うと惜しい気がして、龍之介はダメもとで一つだけ質問をする。
「さっき恋人がいるって言ってましたけど、その人もキーダーなんですか?」
「そんなハッキリいるなんて言ってないでしょ? 大きな声出さないで!」
「す、すみません」
「けど……彼もキーダーよ」
確かに『間に合ってる』としか言ってはいなかったが、美弦は赤面した顔をペタペタと手で押さえながら、あっさりと肯定した。
思わず辺りを見回す龍之介に、美弦が「なに警戒してるのよ」と苦笑いする。
「二人でいる所を見られたら、嫌がられるかなって思って」
「貴方に嫉妬して? 怒って攻撃でもしてくると思ったの?」
「……はい」
「嫉妬はするかもしれないけど、アイツはそんなことするような奴じゃないし、仕掛けてきたら私がちゃんと盾になるから安心して。大体、貴方とやましい事してるわけじゃないんだから、余計なこと気にしなくていいのよ」
やましい気持ちはないけれど、美弦と二人になってから『勘違い』の視線が龍之介の顔に何度も何度も飛んできているのは事実だ。
その中にもし彼女の恋人が混じっていたら、何かされてもおかしくないと思った。銀環の彼女が見せたように、キーダーは超能力を使うのだ。
それにしても『アイツ』と呼ばれる彼は、本当に彼女の恋人なのだろうか。キーダー同士の恋愛というのは、想像するよりずっと激しそうだ。
美弦の話に緊張が解けたところで、龍之介は「ありがとうございます」と頭を下げた。
「私も色々教えてあげられなくてごめんなさい」
「いえ、仕方ない事なんで」
「ありがと。けど、変なトコに首突っ込んじゃダメよ? 無茶はしないで」
申し訳なさそうな美弦に「はい」と答えて、龍之介は自分の胸にそっと右手を当てた。銀環の彼女に会った時の、スカジャン男に絡まれた恐怖は痛い程ここに刻まれている。
「龍之介、貴方とはまた会えそうな気がするわ」
「また会えたら、俺も嬉しいです」
改札を潜って、それぞれのホームへ向かう。ほんの少しの時間だけれど、不思議な人だったなと龍之介は美弦と会った時間を振り返った。
前に銀次がノーマルで生まれたことを「ハズレだ」と言ったことがある。
もし美弦のようにキーダーの能力を持って生まれることが『当たり』だとしたら、自分は生まれた時に『ハズレ』が確定しているということだ。
自分が自分として生まれたことや、誰かと出会う事に運命なんて感じたことはなかったけれど、それを実感せずにはいられない出来事が起きる。
夏休みも終わりに近付いたある日の事。
町中で、銀環の彼女を見つけたのだ。
駅まであと半分の距離を取り繕うように、美弦がそんなことを言う。
あまりにも突然の言葉は龍之介は首を捻らせた。
力を見せてくれと言っても、きっと断られてしまうだろう。どんな質問なら答えてくれるのかさっぱり分からなかったが、戸惑う龍之介を見兼ねた美弦が「それなら私が聞いてもいい?」と顔を上げた。
「貴方はキーダーの事どう思う? なりたいと思ったことある?」
それはイエスノーを咄嗟に答えられる単純なものではなかった。
銀次はキーダーに生まれたかったと言ったけれど、便乗するようにイエスと言ったら、それは単にあの人に会うための手段でしかないような気がした。
キーダーになれば銀環の彼女に会うという目標は容易に達成できるだろうが、有事になった時のキーダーの立ち位置を考えれば、軽はずみに『なりたい』と言えるものではない。
「俺は自分の命をかけるなんて想像もできないから、ノーマルで良かったと思います」
この数ヶ月キーダーの事を色々と調べたが、彼等は身体を張って戦闘をする人間だ。任務の為なら命をも厭わない──そんな生き方が自分にできるなど到底思えなかった。
「えぇ、正しいと思うわ」
何故かパッと笑顔になって、美弦が「じゃあ、そういうことで」と足を止める。ちょうど道路に面した駅の改札に着いた。
もう別れなければならないのだと思うと惜しい気がして、龍之介はダメもとで一つだけ質問をする。
「さっき恋人がいるって言ってましたけど、その人もキーダーなんですか?」
「そんなハッキリいるなんて言ってないでしょ? 大きな声出さないで!」
「す、すみません」
「けど……彼もキーダーよ」
確かに『間に合ってる』としか言ってはいなかったが、美弦は赤面した顔をペタペタと手で押さえながら、あっさりと肯定した。
思わず辺りを見回す龍之介に、美弦が「なに警戒してるのよ」と苦笑いする。
「二人でいる所を見られたら、嫌がられるかなって思って」
「貴方に嫉妬して? 怒って攻撃でもしてくると思ったの?」
「……はい」
「嫉妬はするかもしれないけど、アイツはそんなことするような奴じゃないし、仕掛けてきたら私がちゃんと盾になるから安心して。大体、貴方とやましい事してるわけじゃないんだから、余計なこと気にしなくていいのよ」
やましい気持ちはないけれど、美弦と二人になってから『勘違い』の視線が龍之介の顔に何度も何度も飛んできているのは事実だ。
その中にもし彼女の恋人が混じっていたら、何かされてもおかしくないと思った。銀環の彼女が見せたように、キーダーは超能力を使うのだ。
それにしても『アイツ』と呼ばれる彼は、本当に彼女の恋人なのだろうか。キーダー同士の恋愛というのは、想像するよりずっと激しそうだ。
美弦の話に緊張が解けたところで、龍之介は「ありがとうございます」と頭を下げた。
「私も色々教えてあげられなくてごめんなさい」
「いえ、仕方ない事なんで」
「ありがと。けど、変なトコに首突っ込んじゃダメよ? 無茶はしないで」
申し訳なさそうな美弦に「はい」と答えて、龍之介は自分の胸にそっと右手を当てた。銀環の彼女に会った時の、スカジャン男に絡まれた恐怖は痛い程ここに刻まれている。
「龍之介、貴方とはまた会えそうな気がするわ」
「また会えたら、俺も嬉しいです」
改札を潜って、それぞれのホームへ向かう。ほんの少しの時間だけれど、不思議な人だったなと龍之介は美弦と会った時間を振り返った。
前に銀次がノーマルで生まれたことを「ハズレだ」と言ったことがある。
もし美弦のようにキーダーの能力を持って生まれることが『当たり』だとしたら、自分は生まれた時に『ハズレ』が確定しているということだ。
自分が自分として生まれたことや、誰かと出会う事に運命なんて感じたことはなかったけれど、それを実感せずにはいられない出来事が起きる。
夏休みも終わりに近付いたある日の事。
町中で、銀環の彼女を見つけたのだ。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
AV研は今日もハレンチ
楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo?
AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて――
薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる