上 下
175 / 618
Episode2 修司

78 五色を纏った彼女たちとの出会い

しおりを挟む
 夜景の見える会議室に彰人あきひとと二人取り残されて、修司は戸口を見やった。
 まだ生々しい血の色が、絨毯敷きの床を汚している。

「律さん、無事ですかね?」
「ここで彼女の心配するの? 律は敵なんだよ?」

 それは重々じゅうじゅうに理解しているつもりだが、心配してしまう気持ちを彰人あきひとにならこぼしてもいいのかなと思ってしまう。

「律を自分の敵だと判断したなら、つらぬかなきゃ。曖昧あいまいな気持ちは君自身の命取りになるよ」
「貫く……」
「君が情を持ったところで、彼女は本気で殺しに来るだろうって事」

 彰人からの忠告だ。
 山へ行った時に感じた仲間意識を引きずっているのは自分一人だと感じて、修司は「すみません」と謝る。

「僕だって、そんなに薄情はくじょうな人間じゃないつもりだけど。今はそれ以上の事を考えちゃダメだよ」
「彰人さんも心配だって思いますか?」
「まぁ、死なないで欲しいとは思うよ。キーダーは人殺しじゃないんだから。ただ、お互い必至だからね」

 彰人は少しだけ感情をにじませて、「ところで」と足元を一瞥いちべつした。

「さっき下で気配が乱れてたけど、京子ちゃんも怪我けがした? まぁ桃也が一緒なら心配はいらないんだろうけど」

 気配だけでそこまでわかるのか。圧倒的な能力は、時計型の銀環の効果などお呼びではないらしい。
 修司が「はい」と頷くと、彰人は顔を上げて耳に手を当てる。イヤホン型の通信機に連絡が入ったらしい。

 「はい、わかりました」と応答した後、明るい口調でこちらの報告をする。

「ごめんね、二人とも逃がしちゃったんだ。律は大分だいぶ怪我けがしてるから、そんなに動けないとは思うけど。うん、こっちは無事だよ。綾斗あやとくんも? うん、そうだね――」

 相手の名前を聞いて、修司は彰人をのぞき込んだ。綾斗の所には美弦みつるがいる。

「美弦は無事ですか? そこに居るんですか?」

 ジェスチャー付きで大振りにアピールすると、彰人はふふっと笑って自分の耳からイヤホンを外した。「自分で聞いてみれば?」と修司の掌に差し出す。

 恐縮しつつも修司はそれを受け取って耳にあてがった。
 気持ちがいて、一方的にたずねる。

「綾斗さん無事ですか? 美弦はそこにいるんですか? 怪我してませんか?」

『あれ、その声は修司くん?』

 突然の交代に戸惑う綾斗の声に重ねて、

『ちょっ、通信で変なこと言わないでよ! 馬鹿じゃないの、アンタ!』

 キンと響いた美弦の怒号どごうに、修司は慌ててイヤホンを遠ざけた。けれど、彼女の元気な声に「良かった」と安堵あんどして耳に戻すと、横で彰人が目を細めるように笑む。

「それ付けてる人全員に繋がってるからね。アルガスにも筒抜つつぬけだから」
「ええっ。そりゃないですよ」

『俺も美弦も無事だから安心して』

 肩を落とす修司に掛けられたのは、綾斗のフォローだ。

『こっちもな。お前も気ぃ抜くなよ』

 別の声は桃也だった。大丈夫、みんな無事らしい。
 ホッと息を吐いて修司は通信機を彰人に返した。悪びれる様子もない上司をとがめることもできず、修司は改めて彰人に向き合う。

「俺の事アルガスに呼んでくれたのは彰人さんだったって聞きました。ありがとうございます」
「仕事だからね」

 毎度のセリフだ。確かにそれは本心かもしれないが、修司には妙に温かく感じられた。


   ☆
 彰人に連れられて会議室を出た修司は、二階の控室ひかえしつへと向かった。ジャスティの五人を屋上へと誘導し、ヘリへ乗せるというミッションだ。
 一般客の入れない裏側の階段を下り、大きくなっていくざわめきをよそに彼女たちの元へ走った。

 彰人がドアをノックすると、そろりと扉が半分だけ開く。中から顔をのぞかせた中年男に、彰人は「キーダーの遠山です」と身分証を示した。
 「お待ちしていました」と全開になった扉の向こうに異世界を疑う空気を感じて、修司は緊張に息を詰まらせる。

 中年男の背後に、華やかな五つの顔が並んでいたのだ。
 五色バラバラの衣装を着る彼女達を一人一人把握できていないが、黄色の服と頭のリボンで、えりぴょんだけは分かった。
 動画や写真で見るよりも、生で見るジャスティの五人がはるかにまぶしく感じ、目の前に立っているだけで圧倒させられてしまう。
 五人は彰人の顔を見るなり一瞬ざわめきを起こしたが、何故か修司に視線を移したところで元通りの彼女たちに戻った。

 中年男は五人のマネージャーということだ。小さなタオルハンカチでつるりと汗ばむ額を拭いながら、「この子たちをお願いします」とぺこぺこ頭を下げる。

「お任せ下さい。貴方はどうされます? 一緒に行きますか?」
「いえ、僕は誘導ゆうどうに回りますよ」
「分かりました。では、頼みます」

 彰人は「行くよ」と五人に声を掛けると、早々に部屋を後にした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

デリバリー・デイジー

SoftCareer
キャラ文芸
ワケ有りデリヘル嬢デイジーさんの奮闘記。 これを読むと君もデリヘルに行きたくなるかも。いや、行くんじゃなくて呼ぶんだったわ……あっ、本作品はR-15ですが、デリヘル嬢は18歳にならないと呼んじゃだめだからね。 ※もちろん、内容は百%フィクションですよ!

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

処理中です...