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Episode2 修司
65 聞き覚えのある場所
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「だから俺は、キーダーになります」
涙が出そうになったのは、今まで自覚のなかった思いが連なったからだ。
吐き出すように訴えた修司の肩を、桃也は少し強い音で叩いた。
「いいのか?」
「銀環を付けているのに。他のみんなは今戦っているかもしれないのに。俺だけ何も知らずに、アホみたいに待ってるだけなんて耐えられません」
「けど全部知ってキーダーになるってことは、命を懸ける仕事をするってことだぞ? 明日お前が生きてる保証なんてないんだからな?」
もう覚悟はできている。律と決別し、キーダーとしてここで美弦の側にいると決めた。
「分かってます。それでも俺を桃也さん達の方に行かせて下さい」
「安藤律と戦えるのか?」
「戦えます!」
動揺する気持ちを断ち切るように言い切った。
そしてやはり律が今日のターゲットであることを知って、「迷うなよ」と自分に言い聞かせる。
「お前、彰人がココ襲撃した時の俺みたいだな」
「そうなんですか?」
「あぁ。行かせてくれって頼んで、ヘリ飛ばして貰ったから」
懐かしそうに桃也は目を細める。
二年前に起きた彰人親子の襲撃が、桃也にとっての初陣だったらしい。
自分の発言は無謀なことのようにも思えたが、そう言われるとホッとする。
「今、アルガスに何が起きてるんですか?」
「ホルスと接触するんだよ。近藤武雄が話を持ち込んできた。ホルスは組織的に財政難で、そこに奴が付け込んだんた」
「えぇ?」
「近藤武雄は知ってるか?」
「はい」と修司は頷く。
修司が初めてアルガスに来た夜、綾斗と京子が彼の話をしていた。
近藤武雄は、有名な音楽プロデューサーだ。
「近藤とホルスが落ちあう場所で、キーダーが張ってる。そこを狙う」
「それって、アルガスが近藤と組んでるってことですか?」
「そんな友好的なものじゃねぇけどな。アルガスはホルスに対してあと一歩踏み込むタイミングを狙ってる。それが旨いこと近藤の欲望と合致したってだけさ」
「欲望? って……何か汚い大人の事情みたいな話なんですね」
「まぁそういう事だな」
「アイドルのコたちは何も悪くないのに……」
「だから大人は汚ぇんだよ」
ジャスティの曲は近藤が作っている。修司が何度も励まされたその詞をどんな気持ちで書いたのかと想像すると、哀しくなった。
「近藤は前々からホルスの力に目を付けてたんだろうな。金策を持ち掛けてたらしいけど、ホルスの奴等だってホイホイ頷くようなバカじゃない。色々あったみたいだが、直近の要求を蹴ったことで、近藤は何を思ったか今度はアルガスに向こうの情報を売ってきたんだ。上官たちが乗り気なんだよ」
「アルガスの偉い人ってことですか?」
「うちも相当汚ぇ大人が揃ってるって事だ。けど、キーダーにとっては仕事だ。失敗はできないからな」
ホルスが敵だと言いながら、この件での一番の悪人が近藤に思えてくる。
「いいか、こんな説明じゃ頭が混乱しちまうだろうけど、俺たちの敵はホルスだ。近藤を裁くとしたら、それは警察の仕事だから間違えるなよ?」
戦う相手は律なのだと頭で復唱して、修司は「はい」と返事する。
「それで、近藤は今どこに居るんですか?」
「横浜のコンサートホールだ。近藤がそこにホルスを呼びつけたらしい」
「ホルスは近藤の誘いを断ってるのに、それでも行くっておかしくないですか?」
「まぁ俺たちも売られてるんだろうよ。キーダーが来るってな」
つまり、仕組まれたどころか戦場を故意に与えられたという話だ。
修司は緊張を走らせる。状況を整理しようと桃也の言葉を振り返って、「あれ」と首を傾げた。
「横浜のコンサートホール? その場所って……」
涙が出そうになったのは、今まで自覚のなかった思いが連なったからだ。
吐き出すように訴えた修司の肩を、桃也は少し強い音で叩いた。
「いいのか?」
「銀環を付けているのに。他のみんなは今戦っているかもしれないのに。俺だけ何も知らずに、アホみたいに待ってるだけなんて耐えられません」
「けど全部知ってキーダーになるってことは、命を懸ける仕事をするってことだぞ? 明日お前が生きてる保証なんてないんだからな?」
もう覚悟はできている。律と決別し、キーダーとしてここで美弦の側にいると決めた。
「分かってます。それでも俺を桃也さん達の方に行かせて下さい」
「安藤律と戦えるのか?」
「戦えます!」
動揺する気持ちを断ち切るように言い切った。
そしてやはり律が今日のターゲットであることを知って、「迷うなよ」と自分に言い聞かせる。
「お前、彰人がココ襲撃した時の俺みたいだな」
「そうなんですか?」
「あぁ。行かせてくれって頼んで、ヘリ飛ばして貰ったから」
懐かしそうに桃也は目を細める。
二年前に起きた彰人親子の襲撃が、桃也にとっての初陣だったらしい。
自分の発言は無謀なことのようにも思えたが、そう言われるとホッとする。
「今、アルガスに何が起きてるんですか?」
「ホルスと接触するんだよ。近藤武雄が話を持ち込んできた。ホルスは組織的に財政難で、そこに奴が付け込んだんた」
「えぇ?」
「近藤武雄は知ってるか?」
「はい」と修司は頷く。
修司が初めてアルガスに来た夜、綾斗と京子が彼の話をしていた。
近藤武雄は、有名な音楽プロデューサーだ。
「近藤とホルスが落ちあう場所で、キーダーが張ってる。そこを狙う」
「それって、アルガスが近藤と組んでるってことですか?」
「そんな友好的なものじゃねぇけどな。アルガスはホルスに対してあと一歩踏み込むタイミングを狙ってる。それが旨いこと近藤の欲望と合致したってだけさ」
「欲望? って……何か汚い大人の事情みたいな話なんですね」
「まぁそういう事だな」
「アイドルのコたちは何も悪くないのに……」
「だから大人は汚ぇんだよ」
ジャスティの曲は近藤が作っている。修司が何度も励まされたその詞をどんな気持ちで書いたのかと想像すると、哀しくなった。
「近藤は前々からホルスの力に目を付けてたんだろうな。金策を持ち掛けてたらしいけど、ホルスの奴等だってホイホイ頷くようなバカじゃない。色々あったみたいだが、直近の要求を蹴ったことで、近藤は何を思ったか今度はアルガスに向こうの情報を売ってきたんだ。上官たちが乗り気なんだよ」
「アルガスの偉い人ってことですか?」
「うちも相当汚ぇ大人が揃ってるって事だ。けど、キーダーにとっては仕事だ。失敗はできないからな」
ホルスが敵だと言いながら、この件での一番の悪人が近藤に思えてくる。
「いいか、こんな説明じゃ頭が混乱しちまうだろうけど、俺たちの敵はホルスだ。近藤を裁くとしたら、それは警察の仕事だから間違えるなよ?」
戦う相手は律なのだと頭で復唱して、修司は「はい」と返事する。
「それで、近藤は今どこに居るんですか?」
「横浜のコンサートホールだ。近藤がそこにホルスを呼びつけたらしい」
「ホルスは近藤の誘いを断ってるのに、それでも行くっておかしくないですか?」
「まぁ俺たちも売られてるんだろうよ。キーダーが来るってな」
つまり、仕組まれたどころか戦場を故意に与えられたという話だ。
修司は緊張を走らせる。状況を整理しようと桃也の言葉を振り返って、「あれ」と首を傾げた。
「横浜のコンサートホール? その場所って……」
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