上 下
6 / 622
Episode1 京子

6 ペナルティを受けた彼

しおりを挟む
 朝、墓地で貰った朱羽あげはからの誕生日プレゼントは、小さな赤い石のネックレスだった。

「可愛い」

 鏡の前であてた自分を眺め、京子はネックレスを箱へ戻して制服に着替える。

 アルガスの三・四階部分に当たる訓練用のホールへ行くと、二人の先客が広いその中央でストレッチをしていた。京子に気付いた眼鏡の少年が、軽く頭を下げる。

 高い天井のホールにマサの「よぉ」という声が響き、どんな衝撃にも耐えると言う硬い床に、京子のヒールが高い音を鳴らした。
 夏はそこそこ涼しいが、冬はこの上なく寒さの厳しい場所だ。京子の息がたちまち白く濁った。

「おはよ。こんな寒いトコでやってるの? 少しくらい暖房付ければいいのに」
「何ババくせぇこと言ってんだよ。俺等はもう十分熱いぜ」
「ババアって何? まだ二十歳なんですけど?」
「言われたくなかったら、俺を見習え」

 どんと胸を張るマサの姿に、余計寒さを感じてしまう。黒のラフなハーフパンツに半そでTシャツという組み合わせは、彼の春夏秋冬定番スタイルだ。

「じゃあ、外套がいとう着てやりますか?」

 一方の少年は、制服姿でそんなことを言う。

「それはちょっと窮屈きゅうくつかな。いつ何時なんどきでも動けるように制服で訓練、って言うのは分からなくもないんだけど、せめてもっと楽なのがいいよね」

 京子は自分の姿を見下ろし、「これじゃあね」と不満を零す。
 アルガスの爺こと大舎卿だいしゃきょうと京子、それにメガネの少年・木崎綾斗きざきあやとの三人が着る濃紺の制服は、短めのテーラー襟のジャケットにシングルの銀ボタンが二つ並ぶものだ。
 セナ達が着るノーマルの施設員の制服と似ているが、キーダーを示す濃い緑のアスコットタイと左肩に縫われた銀刺繡ぎんししゅうの桜をやたら堅苦しく感じてしまう。
 しかも女子は短めのタイトスカートで、パンストとパンプスの組み合わせとくれば動き難いことこの上ないのだ。

 本部であるこの関東を中心に全国七つの支部を持つアルガスには、京子達三人を含め十二人のキーダーが在籍する。キーダーを中心に管轄かんかつ地区ごとの安全と秩序ちつじょを守るというのが表向きの仕事だ。
 しかし実際は、キーダーを英雄に仕立て上げることでその力を政治的に管理し、能力者による反乱を食い止める──つまり、能力者の絡む事件は能力者に任せるというのが根本的な狙いだ。

「ところで、爺は?」
「もうとっくに帰ったよ。夕方から移動だからな。綾斗もあがるトコだ」
「そういえば大阪戻るって言ってたもんね。最近ちょっと動き過ぎじゃない?」
「まぁ本人は楽しそうにやってるからいいんじゃねぇのか?」
「楽しんでるのかな。だったらいいけど」
「俺で良かったら残りますよ。まだ動けます」
「すごい、さすが高校生。じゃあお願いね」

 能力を覚醒させるという十七・八歳を見越して、キーダーは十五歳でアルガスに入る。
 けれど綾斗はそれよりも前に能力の兆候が表れたという。そのせいで彼はとある問題を起こし、ペナルティとして十四歳でアルガスの拘束こうそくを受けた。
 訓練施設での三年を経て先々月にこの本部に着任したばかりの彼は、京子より三つ年下の高校三年生だ。
 キーダーという肩書と成績が考慮され、転校してきたばかりだというのに持ち上がりの大学へ進学が決まっている。

「暮れだし、お前ら早くあがっていいからな。俺もこれからセナさんとデートだから」

 にんまりと嬉しそうに話すマサに、京子は思わず「はあっ?」と聞き返す。

「でえとって。アポ取れたの?」

 さっき会ったばかりの本人は、そんな事言っていなかった。ずっとフラれ続けてきたマサの激しいアタックが、ようやくむくわれたのだろうか。
 しかし京子の予想を反して自信満々の表情で返ってきたのは、

「ばぁか。今から取るんだよ」

 みなぎる自信は何処から来るのだろう。
 京子は綾斗と顔を見合わせ、困り顔を傾けた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

AV研は今日もハレンチ

楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo? AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて―― 薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

処理中です...