貧乳世界の魔王が作った巨乳ハーレムに入ってしまった幼馴染を連れ戻すために、俺は異世界へ旅立つ!

栗栖蛍

文字の大きさ
上 下
143 / 171
13章 魔王

143 魔王

しおりを挟む
 辺りが炎に包まれるまで、時間などかからなかった。
 俺が「うわ」と口を開けたまま、その様子をアホみたいに見入っていると、

「逃げましょう」

 チェリーの強い口調で、ようやく我に返ることができた。

「けど、二人が……」

 ゼストたちは目を閉じたまま、その状況に気付いてさえいないのかもしれない。

「見捨てるって言うのか?」
「私たちが死んだら、元も子もないでしょう?」
「自分が生き残ることは最優先だよ?」

 俺の腕を掴んで、ヒルドが急かした。
 マーテル一人ならともかく、ゼストの巨体を運ぶのは現実的じゃない。
 そんなことを考えている間に、バチバチと頭上で火花が弾けて、美緒が「きゃあ」と俺の腕にしがみ付いた。

「美緒を守るんでしょ?」
「当たり前だ!」

 道が炎で塞がれる前に逃げるか、それとも温泉に飛び込もうか――俺が咄嗟とっさに美緒の手を取った時、ガサガサと葉の擦れる音がして背後の森から突然人影が現れた。
 速足ですれ違った影は二つ。俺たちのすぐ後ろで足音を止める。

「何をしているの!」

 メルの声だった。
 俺が驚いて踵を返すと、彼女とヒオルスがワイズマンと対峙たいじしていたのだ。

 俺の知っている小さなメルの姿だ。
 彼女は背中の剣を抜いて、頭上へと高く持ち上げる。
 炎に揺らぐ髪は、昨日暴走によって変化した赤色も抜けている。ただ、「伏せて!」と振り向いた彼女の目は、まだ赤みを帯びていた。

「は、はいっ」

 言われるままに腰を落として地面に顔を押し付けると、

「お待ちしていましたよ」

 クラウの声がそんなことを言った気がして、俺は向かい合ったままの三人へ目線だけを投げつけた。
 「メルーシュ様」とヒオルスが合図して、二人の手から青い光が沸き上がる。

 ヒオルスは胸の前に構えた両手の中に。
 メルは剣を握ったてのひらに生まれた光を、もう片方の手で刃の先端へと滑らせた。切っ先に大きな光の球が現れて、美緒が「すごぉい」と俺の腕に押さえつけられたまま興奮している。
 美緒は城を修復した時以外に魔法を見るのは初めてなのかもしれない。

 そして俺は、メルが魔法を使っていることに驚いてしまった。
 赤い瞳のせいだろうか。暴走時以外は使えていなかったはずだ。
 俺は彼女との距離を感じつつ、その瞬間を見守った。

「さぁ、貴女の力で消してください」

 ワイズマンは嬉々としてそんなことを言う。
 メルはその小さい身体で居丈高いたけだかに「ふざけるな!」と吐き、青く光る剣の先端を炎に向けて振り上げた。
 彼女の興奮が再び緋色の魔女を呼び起こすのかと見守るが、メルの姿は変わらない。

 二つの青い光は同時に二人を離れ、炎を突き抜けて空へと広がる。
 光は黒い雲を誘い、俺たちのすぐ上で土砂降りの雨を降らせた。

 辺り一面を焼き尽くそうとしていた炎がみるみると勢いを鎮め、やがて断末魔をこぼすように幾つもの白い煙を立ち上らせた。

 焼けた葉が地面に落ちて、すすとなった黒い木々がワイズマンの望んだように見晴らしを良くしている。

 俺たちはずぶ濡れで重くなった体を、よろりと起こして立ち上がった。
 メルとヒオルスは何事もなかったように、ワイズマンと対峙している。
 雨でべったりと貼りついた髪の隙間から、メルの赤い眼光が力強い意志を持ってワイズマンを凝視していた。

「それでこそ、私の認めた魔王だ」

 ワイズマンは濡れた前髪をかき上げて、そんなことを言った。
 その言葉の意味を俺はすぐに理解できなかったけれど、彼の手口がハイドと同じだという事は改めて理解したつもりだ。



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

貞操逆転世界の男教師

やまいし
ファンタジー
貞操逆転世界に転生した男が世界初の男性教師として働く話。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

処理中です...