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13章 魔王

136 ラノベのヒロイン

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「美緒も連れて行くの?」

 チェリーに聞かれて、俺は「はい」と即答した。

「せっかく連れ戻したんだから、危険な場所にわざわざ連れていくこともないのよ?」

 それはもっともだとは思うけれど、離れていることが安全だとも思うことができない。
 「ついていけます」と主張する美緒は読書好きのイメージが強いが、実は俺よりも足が速い。
 チェリーはそんな美緒の白いロングワンピース姿を下からゆっくりと顔へと見上げて、「そうね」と唇に手を当てて呟いた。

「とりあえず、着替えましょうか。あの赤いチャイナもダメよ? あんな短いの。ユースケの気が散っちゃうから」
「ちょっ、俺ですか?」
「だってアレ、貴方がデザインした服だって言うじゃない。全く、発情期の男子は……」
「チーガーイーマース!」

 両手を振って否定するが、実は殆ど間違ってはいない。
 美緒は困り顔を見せつつも笑っていた。流石、俺の幼馴染だ。

「けど、他に何かある……?」
「向こうから持ってきた服があるんで、準備してきます」

 美緒は何か思い出したように「あっ」と声を上げて、「急ぎます」と俺の腕を掴んだ。

「じゃあ、僕は何か移動手段を探しておくよ」
「ありがとな、ヒルド。じゃあ、準備したら入口んトコ行くから」

 エルドラへ行く、ということが簡単じゃないという事は重々承知だ。
 彼の申し出に甘えて、俺は絶望に暮れる人々の間をすり抜けるように城へと向かった。

   ☆
「俺が来るまで、絶対に扉を開けるなよ?」

 子供に言い聞かせるように、俺は二回も同じことを言ってから自分の部屋へ駆け込んだ。
 ビショ濡れのジャケットを渋々脱いだが、ラッキーなことにズボンは殆ど乾いていた。
 この国の服ならば他にも替えがあったが、ここはあえて学校の制服で行きたいと思ってしまう。

 後から部屋に駆け込んできたヒルドが、やたら慌てた様子で、

「やっぱりトード車で行くのが良いみたい。城で手配してくれるって言うから、先に行ってるね」

 と颯爽と着替えを済ませ、あっという間に部屋を出て行ってしまった。
 俺は再び腰にベルトを巻いて、剣をげる。
 俺はまだ戦うためにこの剣を抜いたことが無い。この世界に来てから2本目の剣は、最初長めのつかが邪魔だと思っていたのに、もう体の一部として馴染んでしまった。
 ジャケットに入れてあったカーボの髪飾りをシャツの胸ポケットを入れて準備完了だ。

 ふと目に入ったヒルドの自画像に「行ってきます」と声を掛けて、美緒を迎えに行く。
 そして、扉の影から恥ずかしそうに出てきた彼女の姿に驚愕したのだ。

「み、美緒?」

 彼女が向こうの世界から持ってきたという服を見た瞬間、俺は思わず「ええっ」と声を上げてしまった。
 濃紺に白のラインが入った、見覚えのありすぎるセーラー服。

「それ着てこっちに来たのか?」
「う、うん」

 予想の斜め上を行く展開。美緒が着ているのは、俺たちが通っていた中学の夏服だった。
 チラリと俺を見上げる瞳に緊張が走る。

「変かな?」
「そんなことないよ。か、かわいいよ。けど、それって本の……」
「言わないで!」

 それを見透かされたことに強く反応を示す美緒。図星らしい。
 異世界に来る前に、美緒が俺に貸してくれた本こそ『異世界の魔王とセーラー服の女王様』なのだ。異世界行きと魔王を掛けて、それなりに意識していたようだ。

「わ、分かった。久しぶりすぎて新鮮だと思うし、いいんじゃねぇの? 俺だって制服だし」

 この世界で再会してからの美緒はずっとハーレムメンバーと揃いの服を着ていたから、まさかこんな服を持ってきているなんて思っても居なかったのだ。けど、考えることは俺も美緒も一緒らしい。

 当時の教師たちがうるさかったスカートの長さが校則の膝丈より少し短いのは、美緒の背が伸びたせいだろうか。
 ツッコミどころは多すぎるけれど、俺はそれ以上言わずに「行こう」と美緒の手を引いて待ち合わせ場所へ急いだ。

 城の出口で待ち構えるトード車は、いつもの荷馬車タイプだった。屋根のない浅い箱がついたもので、簡素な椅子が内側にめぐらされている。雨が止んでくれたのが救いだ。

「有難うな、ヒルド」
「屋根付きのは借りれなかったけどね。親衛隊はもうエルドラへ向かったらしいよ」

 魔法師は本人だけなら、瞬間移動的な能力で遠くへ移動することができるのだ。

「後れを取ったって、これが一番の方法だからね」

 そう言うヒルドの視線がキョロキョロと何度も正門の方へ向いている。
 「どうしたの?」と首を傾げるチェリーに、「この間さ」と答え掛けて、ヒルドはパッと眉を上げた。

「来たぁ。間に合って良かったよ」

 正門の兵にぺこりと頭を下げた少女が、大きく手を振るヒルドに気付いてやってくる。
 その姿に、俺は再び驚愕したのだ。
 
 猫耳の付いたフワフワの金髪を揺らしながら、しっぽの付いたミニのワンピース姿でこっちに駆け寄ってくる彼女は、俺たちも良く知っている人物だった。

「シーラ!」

 俺は思わず彼女の名前を口にして、黙って口を閉じた美緒の視線を振り返った。



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