貧乳世界の魔王が作った巨乳ハーレムに入ってしまった幼馴染を連れ戻すために、俺は異世界へ旅立つ!

栗栖蛍

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13章 魔王

135 その空は地獄に似ている

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 急な雨に、俺たちは一度中央廟ちゅうおうびょうへ戻った。
 入口から突き出た軒下のきしたには他にもたくさんの人がいたが、どうにか入り込むことができた。
 前にここへ来た時も、同じように雨宿りしたから、この軒下には縁があるのかもしれない。

 真夏の夕立のように真っ黒な雲が空をびっしりと覆っている。ゴロゴロと雷鳴が鳴っているというのに、雨の中ずぶ濡れで空を見上げたままの人も少なくはなかった。
 魔王が聖剣を抜いて戻って来るのを待ち望んだ彼らは、その空を見て何を思っているのだろうか。

「ゆうくん、私はどうしてあそこに居たのかな?」

 美緒がしっとりと濡れた前髪を払って、不安げな顔で俺を見上げる。
 ミーシャの魔法で心を失っていた彼女が正気に戻ったのは、激震に見舞われた地下空間だった。訳の分からないままドラゴンが現れ、今は民衆の絶望を目の当たりにしている。
 そりゃあ、頭の中が疑問符だらけになるだろう。

「お前がボーッとしてるから、アイツらに利用されるとこだったんだぞ」

 うまく誤魔化したところでバレるのは分かっているから、とりあえず俺はそう返事した。それは100%正しい答えではないけれど、美緒は自分自身の立場を俺よりもちゃんと理解しているらしい。

「私が瑛助えいすけさんの保管者だからなんだよね」
「お前は何でも分かってるんだな。けど、帰る時は一緒だからな」

 「うん」と答えて、美緒が俺の手にそっと触れた。雨で冷えた体温を強く握り返すと、どこからかヒルドの声が「ユースケ!」と俺を呼んだ。

 雨の中をチェリーと並んで走ってくるのが見えて、俺は手を上げて二人を迎える。

「良かった、ここに居たんだね」
「あぁ、無事でよかったわ。地震かと思ったら、周りが急にドラゴンが出るとか言い出すから、何事かと思ったわよ」

 チェリーもヒルドも全身ずぶ濡れだが、元気そうだ。
 互いの無事に安堵し合うが、のほほんと落ち着いていられる状況でもない。

「昨日言ってたドラゴンの話が、まさか本当だったとはな」
「僕だって信じてたわけじゃないんだよ? けど、出て来たってことは怒りに触れたんでしょ? 意思に背いて聖剣を抜いたってことだよね? クラウが無茶なことしたの?」

 伝説と言われながらも、ドラゴンが現れた理由は周知のことらしい。
 俺が地下でのことをつまみながら二人に説明すると、ヒルドが話を引き継いでドラゴン噴出を興奮気味に話してくれた。

「金のたてがみをまとった青いドラゴンが、中央廟の天井を突き破って空に立ち上った姿は、もう思い出しただけで心臓が飛び出そうになるよ。僕は感動したんだ」

 周囲に漂う絶望感とは真逆の反応だ。ヒルドは「はぁぁ」と恋焦がれるように胸元に手を組み合わせる。

「お前は怖くないのか? ドラゴンが出てきたのは、禁忌タブーを犯したからなんだろう?」
「そうしたのはクラウだからね。僕じゃないもの。僕にとっちゃ緋色の魔女の方がよっぽど怖い存在だよ」

 一度殺されかけたヒルドは、自分を両腕でぎゅっと抱きしめて重い溜息を漏らした。
 緋色の魔女には、俺も殺されかけるどころか殺されたことがあるから、その気持ちはよく分かる。

「で、ドラゴンはどこ行ったんだ?」

 それを聞くと、ヒルドは顔を上げて遠くの山を見やった。
 西の方角。「すぐ見えなくなっちゃったんだけど」と目を凝らす方向には、俺にも思い当たる場所がある。

「エルドラか」

 それ以外に知らないのというのもある。俺がこの世界に来て、メルと巨大カーボを倒しに行った、山の上の自然公園――マーテルの祖母が眠る、前のクーデターの慰霊碑や温泉がある場所だ。
 「当たり」とヒルドは笑顔を見せる。

「あそこは神聖な場所だからね。ドラゴンがどうしてそこに行ったのかは分からないけど。ユースケは行くって言うんでしょ? だったら僕たちもついて行くからね」
「え……」

 まだそこまで考えてはいなかったけれど、そうしたいと思える。
 俺が一度死んだあの場所で、何が起きるのかは想像もつかない。
 恐怖を予測してしまうと、この暗い空に覆われた世界が地獄のようにさえ見えてしまう。

「こりゃあ地獄だな」
「ジゴク? って何?」

 神より魔王の立ち位置の方が上だというこの世界では、地獄など想像つかないのかもしれない。

「そりゃあ、悪人が死んだ後に行く場所だよ」
「ユースケの世界じゃ、死んだ後にどこかに行くことができるの?」
「作り話だとは思うけど」

 もちろん、地獄が本当にあるとは思っていない。

「へぇ。けど、そう言われると、確かにそんな雰囲気かもしれないね。僕には縁のない世界だ」

 ヒルドは恐怖なんて吹っ飛ばすようなポジティブさで、俺たちに笑顔をくれた。
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