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11章 俺はその時、彼女にもう一度さよならを言いたくなった

110 そこに美少女(仮)が現れる

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 再生の儀が終わって修復師たちの姿が消えると、大勢いた見物人も波が引くように散っていった。
 美緒たちハーレムメンバーの女子を見送って、俺はふとかたわらのチェリーを見上げる。

「行かないんですか?」
「こんな姿になって、あそこには居られないわ」

 リトの治癒で見た目がすっかり男になってしまったチェリーだが、化粧っ気のない顔から艶のある雰囲気をにじませて「ね」と微笑んだ。本人が言っていたように、チェリーらしさは変わっていない。

「けど、もう少しここに居ようとは思うわ。ユースケと一緒に、この騒動を見届けるまではね」
「じゃあ、帰る時は一緒に」
「まぁた、帰るなんて話して! 僕を仲間外れにしないでよ」

 「そうね」と答えるチェリーに、ヒルドがほおを膨らませた。
 俺は再びコイツの自画像を遺影持ちにして、「いつも側に居るんだろ?」と不本意ながらも無理矢理になだめた。
 「そうだよ」と本人も納得してしまうのが、心苦しい。

範夫のりお

 突然掛けられたその声に、チェリーがピクリと眉をひそめた。
 タキシード姿のゼストが小走りにやってくる。

「ちょっと、その呼び方は止めてくれる? 不愉快だわ」
「何だよ、俺にまでチェリーって呼ばせたいのか?」
「当たり前でしょ」

 チェリーはツンとそっぽを向いてから、改めて話を続けた。

「少しコイツと居ることにしたから。行ってくるわ。夜、ユースケの部屋に行ってもいい?」
「あ、あぁ。そっか、今日は城に泊まるんだな」
「ユースケの部屋には、僕やメルも居ることを忘れないでね」
「分かってるわよ。私たち、部屋が隣同士なのよ。気付いてなかった?」

 確かに美緒たちの部屋は俺の部屋の並びだ。この間美緒の所へ行った時に一通り見た気がしたが、どうやら見落としていたらしい。
 「じゃあ、また夜に」と残してチェリーはゼストと城の方へと行ってしまった。体格の良い二人が並ぶと、バディのように思えてしまう。

「じゃあ、俺はクラウの所に行こうと思う」
「僕も一緒に行くからね」

 本当は一人で行こうと思ったけれど、ヒルドの申し出は有難く受け入れることにした。
 いつもなら「いいよ」と突っ放してしまいそうなのに、俺はここにきて自分の足が震えていることに気付いた。

「ありがとう」

 素直にそう言うと、ヒルドは嬉しそうに笑って「どういたしまして」と俺の肩を叩いた。

   ☆
 中央廟ちゅうおうびょうに被害はなかったらしい。周りの庭は目も当てられないほどに悲惨な状態になっていたが、建物はそのままだ。

「ご、ごめんください」

 ステンドグラスの窓からは中の様子が見えず、俺は緊張を走らせながらその重い扉をゆっくりと引いた。もちろん何の許可も取っていないが、儀式を終えたクラウたちは確かにこの中へと戻っていった。

 空の透けるドーム型の屋根から日光が降り注ぐエントランスは、人影もなくシンと静まり返っていた。
 石造りの床に足音をコンと響かせると、急に奥が騒がしくなってバタバタと兵士がやってきた。この間、地下への階段を塞いでいたガタイの良い男たちだ。
 遺影持ちしたヒルドの自画像を見て一瞬ギョッとした二人が、作者本人と見比べて更に困惑の表情をチラつかせる。

 俺は、ここから引き返す気はなかった。
 じろりと俺を見た兵士が、「貴方は……」と急に弱気になる。

「クラウ様の弟君か?」
「そうだよ。僕のことも知らないの?」
「ヒルド……絵師の?」

 もう一人の兵士が自信なさげに正解を口にすると、ヒルドは「今は剣師だけどね」と胸を張った。

「申し訳ありません。下へ行かれるつもりですか? 誰も通すなと言われています」
「俺はクラウに会いに来たんだ」

 交渉が一歩前進したかと思えば、すぐに後退させられる。

「用事があるなら、ここで待ってるけど」
「いえ、それは致しかねます」

 背が高く幅のある二人の兵士は、俺たちの正面を塞いだままがんとして壁を開こうとはしない。

「じゃあ、城に戻ってたらクラウが来てくれるのか?」
「私たちには答えかねます」

 強行突破しようなどとは思っていなかった。城で待てというなら、それも仕方ないと思っていた。けれど、何やら他に事情があるような態度を取られては、意地でも引き返すまいと思ってしまう。

「相手がユースケだと分かっても通せないって言うんだ。かたくなになる理由は分からないけど、ここの管理はティオナだよね? あの人が誰も通すなって言ってるの?」
「いえ……」

 右の兵士が否定すると、左の兵士が即座に「おい」と言葉を遮った。言い辛い相手となると、ハイド辺りだろうかと俺は予測するが、そうではなかった。
 ヒルドがたまに見せる大人顔で「教えて」と詰め寄ると、左の兵士が面倒そうに溜息を吐き出した。

「クラウ様です」
「そうね」

 ごくごく自然に返された返事は、俺たち以外の声だった。高く響く愛らしいその声の主を俺は知っている。
 兵士二人の背後に現れた彼女は、いつからそこに居たのだろうか。
 兵士が答えたその名前の衝撃を全て上塗りしてしまう程の卑猥ひわいな姿で、青髪の魔法師は俺たちに微笑んだのだ。


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