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4章 謎多き男たちと平凡な俺の、ふかーい関係。
33 ウエディングベルは鳴っていないぜ
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それは、クラウに自分は魔王だと言われた時の衝撃に似ていた。
けれど俺はまだその事実を受け止めることが出来ない。忘れかけていた魔王の言葉を無理矢理引っ張り出して、急いで記憶を整理していく。
昔タブーを犯したクラウが先代の王に気に入られて、魔王の地位と力を受け継いだという話だ。
「先代の魔王ってのが、メルなのか?」
メルはこくりと頷いて、側の長椅子へと俺の手を引いた。
「座って」と言われるままに腰掛けた俺の膝に、メルはぴょんと飛び乗って背中を預けて来る。
もふもふの髪が顔に当たって、優しい匂いが鼻をくすぐった。
「重い?」
「重くねぇよ」
「そう」と笑って、メルは浮いた足をぶらぶらと動かし、
「ユースケの顔を見ながらだと、うまく話せそうにないから」
そんなことを言ってくる。
俺は「わかった」と受け止めて、彼女の太股を両手でそっと支えた。
そういえば、いつの間にか彼女の背からはトレードマークの剣がなくなっていた。俺が目を覚ました時には持っていた筈だが。
因みに俺のなまくらは、戦闘で手放したままだ。
「昔のことは、全然覚えていないの。何があったのかクラウ様に聞いたことはあったけど、どれも他人の話みたいに聞こえちゃって。前王だった私がクラウ様に魔法を継承させた時、力を失った私は今の姿になったらしいわ」
だから小さなメルは魔法が使えないのだと、人差し指を立てて説明する。
「赤ちゃんになった、ってことよ? だから私は、そこからの自分しか知らないの。両親は死んだって言ったけど、それも前王の親って事よ。変な話でしょ? けど、27歳までのメルーシュの力が私の中にほんの少し残っていて、何か危機を感じた時に本能で暴走してしまうの。昔の姿に戻って、その時だけ魔法を使うことが出来るのよ。ユースケもそうだったでしょう?」
俺は頷いて「あぁ」と答えた。
「戦ってる時、俺は頭の中はそのままだった。身体だけ勝手に動いてたんだ」
「それは多分、ユースケの力が一時的なものだったから、思考が離れてしまったんだと思うわ。逆に私は思考をメルーシュに全部持っていかれてしまうから、何があったか全然覚えていないのよ。ただ、気付いた時に目の前でユースケが崖の下に……」
メルは声を詰まらせる。そこからチェリーの「泣き声に気付いた」という話に繋がるらしい。
「本当に、無事でよかった。胸の傷は私が付けたものなんでしょ? クラウ様の力がなかったら、私……」
「俺は生き返れたんだから、そこまで自分を追い込むなよ」
「この世界には魔法使いが何人も居るけど、私やクラウ様の力は稀なのよ。誰よりも強いけれど、リスクもそれなりに伴ってる。こうなる可能性を知りながら、黙って巻き込んじゃって本当にごめんなさい」
異世界に居るのだから仕方のない事だけど、あまりにも非現実的だ。
「メルが先代の王だったってことは、この国ではみんなが知っている事なのか?」
「知らないわ。クラウ様と、城でも数人だと思う。この国でも年齢が高い人なら気付いてるのかもしれないけど。どうなのかしら。親衛隊のみんなとはそんな話したことなくて」
緋色の魔女に気を付けろと言った服屋のヤシムさんは、この事実をきっと知っていた筈だ。平和に見えるこの国の闇を垣間見た気分になって、俺は唇を噛み締める。
「昔ね、一度今日みたいに討伐の途中に暴走してしまったことがあったの。怪我人は出なかったけど、たくさん居たメンバーがみんな逃げちゃって。それから誰も来てくれなくなったの。だから、ユースケが来てくれて嬉しかったって言ったでしょう?」
「そういう事だったんだ」
ちょうど胸の位置にあるメルの頭を後ろから抱き締めて、俺はフワフワの髪に顔を半分埋めた。
彼女が今朝言った言葉が、俺の頭でチラついている。
前王がクラウに地位を継承したきっかけを、メルは「クーデター」だと言ったのだ。
昨日、山頂で慰霊碑を見て、彼女は何を思っていたんだろう。
『弔いの場所』であるエルドラの地で起きた悲劇を想像して殺気立つ俺に、彼女はくるりと顔を向けて、小さな少女の顔で微笑んだ。
「メル、これからもよろしくな」
俺にできる事なんて何もないかもしれないが、この出会いはきっと運命なんだと思うから。
メルは「ありがとう」と大人みたいに涙だけ流して泣いている。
「メルは小さいんだから、大声で泣いてもいいんだぞ?」
別に彼女を泣かせたかったわけでも、抱き締める口実を作りたかったわけでもない。
俺の言葉でしゃくりあげたメルを正面から抱き締める。
俺はただ自分の不安から逃れるように、彼女の温もりに没頭していたかったんだ。
☆
このシチュエーションは二度目だ。
朝、目を覚ました俺の視界に入って来たのは、ベッドの横にしゃがみこんで、俺を見つめるチェリーの顔だった。
「うわぁぁああ!」
目覚めに誰かが側に居る事に慣れていないどころか、相手が化粧バッチリの男ときては、寿命がすり減っていく実感を受け止めずにはいられない。
メルの時は平気だったのに、このギャップは何だろう。
「ななな、何ですか? いつから居たんですか!」
「今来たところよ。10分くらい?」
「それ、今って言わないじゃないですか!」
「そう? ねぇユースケ。今日はみんなで温泉に行くことにしたわよ。昨日入れなかったから」
「温泉?」
起き抜けの唐突な提案に、俺は欠伸を含ませながら「分かりました」と答える。
また半日かけてトードの車に揺られるのかと思ったが、
「貴方たちがカーボを倒したお陰で、ゴンドラが再開されるらしいわ。今日は試運転を兼ねてって施設のオーナーがメルに声を掛けてくれたのよ」
「それは嬉しいですね」
「けど、ゴンドラの所まで距離があるから、ゼストがお城のトードを連れてきてくれるらしいわ」
メルと行った時は屋根がない荷馬車タイプだったが、俺がこの町で初日に見掛けたのは屋根が付いた箱型のものだった。
そして、あそこの温泉と言えば気になることがある。
「あの、メルに一緒に入ろうって言われてたんですけど、こっちの温泉ってもしかして混浴なんですか?」
聞き辛い質問ながらも真面目に聞いた俺が馬鹿だった。
チェリーの顔がこれでもかと言わんばかりの笑顔になって、「うふふふ」と奇妙な笑い声をあげた。
「なぁにユースケ。そんなこと気にしてたの? 当たり前じゃない、天然の温泉だもの」
「湯船は一つだけ」と真っすぐに立てた人差し指で、チェリーは俺の肩をつついた。
「私のナイスバディに鼻血出す覚悟しときなさい」
その言葉に余韻をたっぷりと含ませて、チェリーは部屋を出て行ってしまった。
好きか嫌いかとか、好みか好みじゃないかは別として、チェリーの胸に興味があるかないかといえば「ある」と宣言できる。
けど。俺は「メルと風呂に入りたい」んだと、心の中でそっと繰り返した。
☆
朝食を終えた俺たちは、玄関の外に出てゼストを待っていた。
手ぶらでいいからという事だが、もっと早起きしてメルの家から服を取ってくれば良かったと後悔している。
例によってチェリーの服を借りているのだが、彼の背が高いせいでズボンの裾が幼児のように何度も折り返してあるのが何だか恥ずかしい。
今日はいよいよゼストに会えるのだ。
鍛冶屋の店主で、魔王親衛隊の彼をあれこれ想像して、
「ゼストって、お父さんみたいなんだっけ?」
メルとそんな話をしていたことを思い出した。
「うん」と答えるメルの丸い瞳はまだ赤い。少し薄くなった気もするが、元の澄んだ青色には程遠い濃さだ。
横から入って来たチェリーは「あれがお父さんに見えるの?」と笑った。
彼はもはや山頂の天然温泉に行くとは思えないようなヒラヒラのブラウスにスカート姿だ。
「アイツはそんな落ち着いた男じゃないわよ。私に言わせれば相棒ってトコね」
女子が表現しないだろう言葉を使って、チェリーは一人納得しながら、遠くから聞こえてきたトードの足音に顔を上げた。
「来たぁ。ゼスト!」
メルの無邪気な声に、俺は二人の視線を追った。
期待通りの豪華なトード車の先頭で、一人の男が鞭をしならせている。
その顔を確認して俺は――。
クラウが自分を魔王と言った時よりも。
メルが自分を先代の魔王だと言った時よりも。
俺は驚愕を通り越して凍り付いた。
疑問符だらけになった頭をリセットしようと、一度彼から視線を逸らすが、再び目にしたその顔は幻影でも見間違いでもなく、俺の知っているヤツだったのだ。
俺たちの前でピタリと止まったトード車。
ゼストだというその男はこちらへ身体を捻り、側で迎えたチェリーに声を掛ける。
「よぉ、範夫」
「ちょっとアンタ、その変な名前で呼ばないでって言ってるでしょ?」
(……はぁ?)
「よぉ、チェリー。今日も化粧が厚いな」
えっと……。
サラッと笑顔で言い直したけど、ゼストが変な名前でチェリーを呼ばなかっただろうか。
(っていうか、アンタがゼストなのか?)
何なんだよ、その話。
そして何だよ、その服は。
「ゼスト―!」
何の疑問も抱かず、満面の笑みで駆け寄っていくメル。
(お前たち知り合いだったのか?)
呆然とそのやり取りを見つめていると、ゼストはようやく俺に向いて運転席を軽快に飛び降りたのだ。
「よぉユースケ。びっくりしただろ?」
「びっくりしただろじゃないですよ……」
俺を振り返ったチェリーの笑みは、絶対に知ってたって顔だ。
何なんだよこの展開は。
「何でそんな服着てるんですか」
「制服だからな。カッコいいだろ?」
親衛隊の女子の制服がハイレグなら、男子はそれだっていうのか。
藍色のタキシード服って。
結婚式にでも行くつもりか?
「平野先生……」
俺の高校のクラス担任で、普乳好きの彼がまさかゼストだったなんて。
俺にはもうキャパオーバー以外の何物でもなかった。
けれど俺はまだその事実を受け止めることが出来ない。忘れかけていた魔王の言葉を無理矢理引っ張り出して、急いで記憶を整理していく。
昔タブーを犯したクラウが先代の王に気に入られて、魔王の地位と力を受け継いだという話だ。
「先代の魔王ってのが、メルなのか?」
メルはこくりと頷いて、側の長椅子へと俺の手を引いた。
「座って」と言われるままに腰掛けた俺の膝に、メルはぴょんと飛び乗って背中を預けて来る。
もふもふの髪が顔に当たって、優しい匂いが鼻をくすぐった。
「重い?」
「重くねぇよ」
「そう」と笑って、メルは浮いた足をぶらぶらと動かし、
「ユースケの顔を見ながらだと、うまく話せそうにないから」
そんなことを言ってくる。
俺は「わかった」と受け止めて、彼女の太股を両手でそっと支えた。
そういえば、いつの間にか彼女の背からはトレードマークの剣がなくなっていた。俺が目を覚ました時には持っていた筈だが。
因みに俺のなまくらは、戦闘で手放したままだ。
「昔のことは、全然覚えていないの。何があったのかクラウ様に聞いたことはあったけど、どれも他人の話みたいに聞こえちゃって。前王だった私がクラウ様に魔法を継承させた時、力を失った私は今の姿になったらしいわ」
だから小さなメルは魔法が使えないのだと、人差し指を立てて説明する。
「赤ちゃんになった、ってことよ? だから私は、そこからの自分しか知らないの。両親は死んだって言ったけど、それも前王の親って事よ。変な話でしょ? けど、27歳までのメルーシュの力が私の中にほんの少し残っていて、何か危機を感じた時に本能で暴走してしまうの。昔の姿に戻って、その時だけ魔法を使うことが出来るのよ。ユースケもそうだったでしょう?」
俺は頷いて「あぁ」と答えた。
「戦ってる時、俺は頭の中はそのままだった。身体だけ勝手に動いてたんだ」
「それは多分、ユースケの力が一時的なものだったから、思考が離れてしまったんだと思うわ。逆に私は思考をメルーシュに全部持っていかれてしまうから、何があったか全然覚えていないのよ。ただ、気付いた時に目の前でユースケが崖の下に……」
メルは声を詰まらせる。そこからチェリーの「泣き声に気付いた」という話に繋がるらしい。
「本当に、無事でよかった。胸の傷は私が付けたものなんでしょ? クラウ様の力がなかったら、私……」
「俺は生き返れたんだから、そこまで自分を追い込むなよ」
「この世界には魔法使いが何人も居るけど、私やクラウ様の力は稀なのよ。誰よりも強いけれど、リスクもそれなりに伴ってる。こうなる可能性を知りながら、黙って巻き込んじゃって本当にごめんなさい」
異世界に居るのだから仕方のない事だけど、あまりにも非現実的だ。
「メルが先代の王だったってことは、この国ではみんなが知っている事なのか?」
「知らないわ。クラウ様と、城でも数人だと思う。この国でも年齢が高い人なら気付いてるのかもしれないけど。どうなのかしら。親衛隊のみんなとはそんな話したことなくて」
緋色の魔女に気を付けろと言った服屋のヤシムさんは、この事実をきっと知っていた筈だ。平和に見えるこの国の闇を垣間見た気分になって、俺は唇を噛み締める。
「昔ね、一度今日みたいに討伐の途中に暴走してしまったことがあったの。怪我人は出なかったけど、たくさん居たメンバーがみんな逃げちゃって。それから誰も来てくれなくなったの。だから、ユースケが来てくれて嬉しかったって言ったでしょう?」
「そういう事だったんだ」
ちょうど胸の位置にあるメルの頭を後ろから抱き締めて、俺はフワフワの髪に顔を半分埋めた。
彼女が今朝言った言葉が、俺の頭でチラついている。
前王がクラウに地位を継承したきっかけを、メルは「クーデター」だと言ったのだ。
昨日、山頂で慰霊碑を見て、彼女は何を思っていたんだろう。
『弔いの場所』であるエルドラの地で起きた悲劇を想像して殺気立つ俺に、彼女はくるりと顔を向けて、小さな少女の顔で微笑んだ。
「メル、これからもよろしくな」
俺にできる事なんて何もないかもしれないが、この出会いはきっと運命なんだと思うから。
メルは「ありがとう」と大人みたいに涙だけ流して泣いている。
「メルは小さいんだから、大声で泣いてもいいんだぞ?」
別に彼女を泣かせたかったわけでも、抱き締める口実を作りたかったわけでもない。
俺の言葉でしゃくりあげたメルを正面から抱き締める。
俺はただ自分の不安から逃れるように、彼女の温もりに没頭していたかったんだ。
☆
このシチュエーションは二度目だ。
朝、目を覚ました俺の視界に入って来たのは、ベッドの横にしゃがみこんで、俺を見つめるチェリーの顔だった。
「うわぁぁああ!」
目覚めに誰かが側に居る事に慣れていないどころか、相手が化粧バッチリの男ときては、寿命がすり減っていく実感を受け止めずにはいられない。
メルの時は平気だったのに、このギャップは何だろう。
「ななな、何ですか? いつから居たんですか!」
「今来たところよ。10分くらい?」
「それ、今って言わないじゃないですか!」
「そう? ねぇユースケ。今日はみんなで温泉に行くことにしたわよ。昨日入れなかったから」
「温泉?」
起き抜けの唐突な提案に、俺は欠伸を含ませながら「分かりました」と答える。
また半日かけてトードの車に揺られるのかと思ったが、
「貴方たちがカーボを倒したお陰で、ゴンドラが再開されるらしいわ。今日は試運転を兼ねてって施設のオーナーがメルに声を掛けてくれたのよ」
「それは嬉しいですね」
「けど、ゴンドラの所まで距離があるから、ゼストがお城のトードを連れてきてくれるらしいわ」
メルと行った時は屋根がない荷馬車タイプだったが、俺がこの町で初日に見掛けたのは屋根が付いた箱型のものだった。
そして、あそこの温泉と言えば気になることがある。
「あの、メルに一緒に入ろうって言われてたんですけど、こっちの温泉ってもしかして混浴なんですか?」
聞き辛い質問ながらも真面目に聞いた俺が馬鹿だった。
チェリーの顔がこれでもかと言わんばかりの笑顔になって、「うふふふ」と奇妙な笑い声をあげた。
「なぁにユースケ。そんなこと気にしてたの? 当たり前じゃない、天然の温泉だもの」
「湯船は一つだけ」と真っすぐに立てた人差し指で、チェリーは俺の肩をつついた。
「私のナイスバディに鼻血出す覚悟しときなさい」
その言葉に余韻をたっぷりと含ませて、チェリーは部屋を出て行ってしまった。
好きか嫌いかとか、好みか好みじゃないかは別として、チェリーの胸に興味があるかないかといえば「ある」と宣言できる。
けど。俺は「メルと風呂に入りたい」んだと、心の中でそっと繰り返した。
☆
朝食を終えた俺たちは、玄関の外に出てゼストを待っていた。
手ぶらでいいからという事だが、もっと早起きしてメルの家から服を取ってくれば良かったと後悔している。
例によってチェリーの服を借りているのだが、彼の背が高いせいでズボンの裾が幼児のように何度も折り返してあるのが何だか恥ずかしい。
今日はいよいよゼストに会えるのだ。
鍛冶屋の店主で、魔王親衛隊の彼をあれこれ想像して、
「ゼストって、お父さんみたいなんだっけ?」
メルとそんな話をしていたことを思い出した。
「うん」と答えるメルの丸い瞳はまだ赤い。少し薄くなった気もするが、元の澄んだ青色には程遠い濃さだ。
横から入って来たチェリーは「あれがお父さんに見えるの?」と笑った。
彼はもはや山頂の天然温泉に行くとは思えないようなヒラヒラのブラウスにスカート姿だ。
「アイツはそんな落ち着いた男じゃないわよ。私に言わせれば相棒ってトコね」
女子が表現しないだろう言葉を使って、チェリーは一人納得しながら、遠くから聞こえてきたトードの足音に顔を上げた。
「来たぁ。ゼスト!」
メルの無邪気な声に、俺は二人の視線を追った。
期待通りの豪華なトード車の先頭で、一人の男が鞭をしならせている。
その顔を確認して俺は――。
クラウが自分を魔王と言った時よりも。
メルが自分を先代の魔王だと言った時よりも。
俺は驚愕を通り越して凍り付いた。
疑問符だらけになった頭をリセットしようと、一度彼から視線を逸らすが、再び目にしたその顔は幻影でも見間違いでもなく、俺の知っているヤツだったのだ。
俺たちの前でピタリと止まったトード車。
ゼストだというその男はこちらへ身体を捻り、側で迎えたチェリーに声を掛ける。
「よぉ、範夫」
「ちょっとアンタ、その変な名前で呼ばないでって言ってるでしょ?」
(……はぁ?)
「よぉ、チェリー。今日も化粧が厚いな」
えっと……。
サラッと笑顔で言い直したけど、ゼストが変な名前でチェリーを呼ばなかっただろうか。
(っていうか、アンタがゼストなのか?)
何なんだよ、その話。
そして何だよ、その服は。
「ゼスト―!」
何の疑問も抱かず、満面の笑みで駆け寄っていくメル。
(お前たち知り合いだったのか?)
呆然とそのやり取りを見つめていると、ゼストはようやく俺に向いて運転席を軽快に飛び降りたのだ。
「よぉユースケ。びっくりしただろ?」
「びっくりしただろじゃないですよ……」
俺を振り返ったチェリーの笑みは、絶対に知ってたって顔だ。
何なんだよこの展開は。
「何でそんな服着てるんですか」
「制服だからな。カッコいいだろ?」
親衛隊の女子の制服がハイレグなら、男子はそれだっていうのか。
藍色のタキシード服って。
結婚式にでも行くつもりか?
「平野先生……」
俺の高校のクラス担任で、普乳好きの彼がまさかゼストだったなんて。
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