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2章 俺の異世界でのパートナーは、可愛いだけじゃなかった。
16 女は小さい頃からお姫様を夢見ているようだ。
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鍛冶屋を後にしたメルは、家とは反対方向へ歩き出した。
俺の服を買いに行くらしい。
できればずっと制服のままで、ラノベの主人公気取りでいたかったのだが、
「何日も同じ服で居るつもり? そんなこと私が許さないんだから!」
まぁ、汚い男と一緒には歩きたくないという事だ。
今回の討伐、仕事自体は楽だが、現地までは少し遠いようで、その日のうちには帰れないとメルが行程を説明する。
彼女の説明は毎度のように人差し指がくるくると回っているのが特徴だ。
「行きと帰りで1日ずつ移動日をとってあるから、少なくとも2回は向こうに泊まらなきゃいけないのよ」
全てが未知の俺は『焚火の横に転がって寝る』という、どこかのロールプレイングゲームにあるようなシチュエーションを思い浮かべたが、実際は観光地という事で屋根付きの場所が幾らでもあるそうだ。
俺は小さなメルの横を歩きながら、右手で何度も腰の剣の感触を確かめた。
これで戦う自分の姿なんてまだまだ実感が沸かず、模造刀にさえ思えてしまう。これを抜く時、俺は死を予感しているのだろうか――それさえもイマイチピンとこない。
それより右腰に剣を装備したことで、ズボンのポケットの中身が何度も鞘にあたるのが気になって、俺は美緒から借りた本を抜いた。
ぎゅうぎゅう詰めにしていたせいで、全体がたわんでしまっている。俺は両手で無理矢理本を逆に曲げ真っすぐに戻そうとするが、すぐに元通りにはならなかった。
ポケットにその本をしまったのは、つい今朝方の事なのに、やたら懐かしく感じてしまう。
「美緒……」
王子様とセーラー服姿の女の子が描かれた表紙に、俺は溜息を漏らした。
「メル、俺は魔王クラウザーの所に行っちまった友達を連れ戻すために、この世界に来たんだ。もちろん、お前の仕事もちゃんと手伝うつもりだけど、それと並行して城に行く方法を見つけなきゃならない。どうすればいいと思う?」
通りに並んだ建物はどれも二階建て以上のものばかりで、ここから城らしきものを見つけることはできない。
「あの城は、一般人が入れる場所じゃないわ。私だって……クラウ様や親衛隊のみんなと親しくさせてもらっているけど、中に入ったことはないの。けど、ユースケはクラウ様が呼び込んだ人だから、一般人として考えるのかどうかは別なんだけど……」
メルは自分の顎を拳でグイグイ押しながら、首を捻ってそう答えた。
「お前も入ったことないなら、前途多難だな」
「あそこは特別なのよ。けど、あそこに居るってことは、ユースケの友達って女の子なんでしょ? 胸が大きかったの?」
唐突にメルはそんなことを言って、自分の胸の前でプリッと巨乳のジェスチャーを披露した。
「や、やめろ! こんなトコで。女の子はそんなことしちゃダメだ!」
俺の方が恥ずかしくなって、両手を振って狼狽えてしまう。当のメルは「どうしたのよ?」と首を傾げた。
「やっぱり、ユースケも胸が大きい方がいいの?」
「えっ? あ、うん。まぁ……そうだろうな。どっちかっていえば、あったほうがいいかな」
俺は正直に答えた。
メルにとっては、胸が大きいだの小さいだのは全く無関心でどうでもいい事なのだろう。マーテルの反応を見ても、きっとこの世界では耳や手足が大きい方が好きだとか言ってるのと変わらない話なのかもしれない。
「そうなのね」と頷いたメルが、じっと自分の胸を見つめている。まさか胸がないことを気にしているんだろうか。
「俺の世界には色んな大きさの女が居るんだぜ。だから男がやたら気にしてるだけ。それに胸がデカいからいいって訳でもないんだぞ? むしろ無い方が好きって奴だっていっぱいいる。お前はこの世界の女の子なんだから、全然気にすることないからな?」
メルは一瞬戸惑った表情で立ち止まり、小さくはにかんで見せた。再び歩き出した彼女が俺の所に小走りで駆け寄ってくる姿を、愛おしく感じてしまう。
「ごめんなさい。でも、そうじゃないの。私とあなたは隊長と部下の関係だから、こんな気持ちはおかしいのかもしれないけど。一緒に居る男の人が、常に別の女の人の事ばかり考えているのは、ちょっと寂しいと思ったから」
「……え?」
(そっち?)
女ってのは本当、男と違ってマセてるよなぁと改めて実感する。美緒が王子様とか言い出したのだって今のメルと同じ頃だ。
俺はメルの頭をポンと叩いて、しんみりするその顔を覗き込んだ。
「俺はその友達の事だけじゃなくて、いっつも色んな人の事考えてるぜ? 今日なんて、何人もの異世界人と出会って、思い出すだけで頭パンクしそうなんだよ。けど、クラウにメルの手伝いをしてやってくれって言われた時、俺は嬉しかった。さっき初めて会った時も、可愛いって思った。ほら、俺たちまだお互いの事良く分からないしさ、しばらくは毎日一緒なんだろ? メルの事もいっぱい考えてるから……それだけじゃ、お前には足りないか?」
ニュアンスが違うところが多いけれど、嬉しそうに破顔したメルの顔を見れたから、まぁ良しということにしておく。
俺の服を買いに行くらしい。
できればずっと制服のままで、ラノベの主人公気取りでいたかったのだが、
「何日も同じ服で居るつもり? そんなこと私が許さないんだから!」
まぁ、汚い男と一緒には歩きたくないという事だ。
今回の討伐、仕事自体は楽だが、現地までは少し遠いようで、その日のうちには帰れないとメルが行程を説明する。
彼女の説明は毎度のように人差し指がくるくると回っているのが特徴だ。
「行きと帰りで1日ずつ移動日をとってあるから、少なくとも2回は向こうに泊まらなきゃいけないのよ」
全てが未知の俺は『焚火の横に転がって寝る』という、どこかのロールプレイングゲームにあるようなシチュエーションを思い浮かべたが、実際は観光地という事で屋根付きの場所が幾らでもあるそうだ。
俺は小さなメルの横を歩きながら、右手で何度も腰の剣の感触を確かめた。
これで戦う自分の姿なんてまだまだ実感が沸かず、模造刀にさえ思えてしまう。これを抜く時、俺は死を予感しているのだろうか――それさえもイマイチピンとこない。
それより右腰に剣を装備したことで、ズボンのポケットの中身が何度も鞘にあたるのが気になって、俺は美緒から借りた本を抜いた。
ぎゅうぎゅう詰めにしていたせいで、全体がたわんでしまっている。俺は両手で無理矢理本を逆に曲げ真っすぐに戻そうとするが、すぐに元通りにはならなかった。
ポケットにその本をしまったのは、つい今朝方の事なのに、やたら懐かしく感じてしまう。
「美緒……」
王子様とセーラー服姿の女の子が描かれた表紙に、俺は溜息を漏らした。
「メル、俺は魔王クラウザーの所に行っちまった友達を連れ戻すために、この世界に来たんだ。もちろん、お前の仕事もちゃんと手伝うつもりだけど、それと並行して城に行く方法を見つけなきゃならない。どうすればいいと思う?」
通りに並んだ建物はどれも二階建て以上のものばかりで、ここから城らしきものを見つけることはできない。
「あの城は、一般人が入れる場所じゃないわ。私だって……クラウ様や親衛隊のみんなと親しくさせてもらっているけど、中に入ったことはないの。けど、ユースケはクラウ様が呼び込んだ人だから、一般人として考えるのかどうかは別なんだけど……」
メルは自分の顎を拳でグイグイ押しながら、首を捻ってそう答えた。
「お前も入ったことないなら、前途多難だな」
「あそこは特別なのよ。けど、あそこに居るってことは、ユースケの友達って女の子なんでしょ? 胸が大きかったの?」
唐突にメルはそんなことを言って、自分の胸の前でプリッと巨乳のジェスチャーを披露した。
「や、やめろ! こんなトコで。女の子はそんなことしちゃダメだ!」
俺の方が恥ずかしくなって、両手を振って狼狽えてしまう。当のメルは「どうしたのよ?」と首を傾げた。
「やっぱり、ユースケも胸が大きい方がいいの?」
「えっ? あ、うん。まぁ……そうだろうな。どっちかっていえば、あったほうがいいかな」
俺は正直に答えた。
メルにとっては、胸が大きいだの小さいだのは全く無関心でどうでもいい事なのだろう。マーテルの反応を見ても、きっとこの世界では耳や手足が大きい方が好きだとか言ってるのと変わらない話なのかもしれない。
「そうなのね」と頷いたメルが、じっと自分の胸を見つめている。まさか胸がないことを気にしているんだろうか。
「俺の世界には色んな大きさの女が居るんだぜ。だから男がやたら気にしてるだけ。それに胸がデカいからいいって訳でもないんだぞ? むしろ無い方が好きって奴だっていっぱいいる。お前はこの世界の女の子なんだから、全然気にすることないからな?」
メルは一瞬戸惑った表情で立ち止まり、小さくはにかんで見せた。再び歩き出した彼女が俺の所に小走りで駆け寄ってくる姿を、愛おしく感じてしまう。
「ごめんなさい。でも、そうじゃないの。私とあなたは隊長と部下の関係だから、こんな気持ちはおかしいのかもしれないけど。一緒に居る男の人が、常に別の女の人の事ばかり考えているのは、ちょっと寂しいと思ったから」
「……え?」
(そっち?)
女ってのは本当、男と違ってマセてるよなぁと改めて実感する。美緒が王子様とか言い出したのだって今のメルと同じ頃だ。
俺はメルの頭をポンと叩いて、しんみりするその顔を覗き込んだ。
「俺はその友達の事だけじゃなくて、いっつも色んな人の事考えてるぜ? 今日なんて、何人もの異世界人と出会って、思い出すだけで頭パンクしそうなんだよ。けど、クラウにメルの手伝いをしてやってくれって言われた時、俺は嬉しかった。さっき初めて会った時も、可愛いって思った。ほら、俺たちまだお互いの事良く分からないしさ、しばらくは毎日一緒なんだろ? メルの事もいっぱい考えてるから……それだけじゃ、お前には足りないか?」
ニュアンスが違うところが多いけれど、嬉しそうに破顔したメルの顔を見れたから、まぁ良しということにしておく。
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