上 下
16 / 171
2章 俺の異世界でのパートナーは、可愛いだけじゃなかった。

16 女は小さい頃からお姫様を夢見ているようだ。

しおりを挟む
 鍛冶屋を後にしたメルは、家とは反対方向へ歩き出した。
 俺の服を買いに行くらしい。
 できればずっと制服のままで、ラノベの主人公気取りでいたかったのだが、

「何日も同じ服で居るつもり? そんなこと私が許さないんだから!」

 まぁ、汚い男と一緒には歩きたくないという事だ。
 今回の討伐、仕事自体は楽だが、現地までは少し遠いようで、その日のうちには帰れないとメルが行程を説明する。
 彼女の説明は毎度のように人差し指がくるくると回っているのが特徴だ。

「行きと帰りで1日ずつ移動日をとってあるから、少なくとも2回は向こうに泊まらなきゃいけないのよ」

 全てが未知の俺は『焚火たきびの横に転がって寝る』という、どこかのロールプレイングゲームにあるようなシチュエーションを思い浮かべたが、実際は観光地という事で屋根付きの場所が幾らでもあるそうだ。

 俺は小さなメルの横を歩きながら、右手で何度も腰の剣の感触を確かめた。
 これで戦う自分の姿なんてまだまだ実感が沸かず、模造刀にさえ思えてしまう。これを抜く時、俺は死を予感しているのだろうか――それさえもイマイチピンとこない。

 それより右腰に剣を装備したことで、ズボンのポケットの中身が何度もさやにあたるのが気になって、俺は美緒から借りた本を抜いた。
 ぎゅうぎゅう詰めにしていたせいで、全体がたわんでしまっている。俺は両手で無理矢理本を逆に曲げ真っすぐに戻そうとするが、すぐに元通りにはならなかった。
 ポケットにその本をしまったのは、つい今朝方の事なのに、やたら懐かしく感じてしまう。

「美緒……」

 王子様とセーラー服姿の女の子が描かれた表紙に、俺は溜息を漏らした。

「メル、俺は魔王クラウザーの所に行っちまった友達を連れ戻すために、この世界に来たんだ。もちろん、お前の仕事もちゃんと手伝うつもりだけど、それと並行して城に行く方法を見つけなきゃならない。どうすればいいと思う?」

 通りに並んだ建物はどれも二階建て以上のものばかりで、ここから城らしきものを見つけることはできない。

「あの城は、一般人が入れる場所じゃないわ。私だって……クラウ様や親衛隊のみんなと親しくさせてもらっているけど、中に入ったことはないの。けど、ユースケはクラウ様が呼び込んだ人だから、一般人として考えるのかどうかは別なんだけど……」

 メルは自分のあごを拳でグイグイ押しながら、首をひねってそう答えた。

「お前も入ったことないなら、前途多難だな」
「あそこは特別なのよ。けど、あそこに居るってことは、ユースケの友達って女の子なんでしょ? 胸が大きかったの?」

 唐突にメルはそんなことを言って、自分の胸の前でプリッと巨乳のジェスチャーを披露した。

「や、やめろ! こんなトコで。女の子はそんなことしちゃダメだ!」

 俺の方が恥ずかしくなって、両手を振って狼狽うろたえてしまう。当のメルは「どうしたのよ?」と首を傾げた。

「やっぱり、ユースケも胸が大きい方がいいの?」
「えっ? あ、うん。まぁ……そうだろうな。どっちかっていえば、あったほうがいいかな」

 俺は正直に答えた。
 メルにとっては、胸が大きいだの小さいだのは全く無関心でどうでもいい事なのだろう。マーテルの反応を見ても、きっとこの世界では耳や手足が大きい方が好きだとか言ってるのと変わらない話なのかもしれない。

 「そうなのね」と頷いたメルが、じっと自分の胸を見つめている。まさか胸がないことを気にしているんだろうか。

「俺の世界には色んな大きさの女が居るんだぜ。だから男がやたら気にしてるだけ。それに胸がデカいからいいって訳でもないんだぞ? むしろ無い方が好きって奴だっていっぱいいる。お前はこの世界の女の子なんだから、全然気にすることないからな?」

 メルは一瞬戸惑った表情で立ち止まり、小さくはにかんで見せた。再び歩き出した彼女が俺の所に小走りで駆け寄ってくる姿を、愛おしく感じてしまう。

「ごめんなさい。でも、そうじゃないの。私とあなたは隊長と部下の関係だから、こんな気持ちはおかしいのかもしれないけど。一緒に居る男の人が、常に別の女の人の事ばかり考えているのは、ちょっと寂しいと思ったから」

「……え?」

 (そっち?)

 女ってのは本当、男と違ってマセてるよなぁと改めて実感する。美緒が王子様とか言い出したのだって今のメルと同じ頃だ。
 俺はメルの頭をポンと叩いて、しんみりするその顔を覗き込んだ。

「俺はその友達の事だけじゃなくて、いっつも色んな人の事考えてるぜ? 今日なんて、何人もの異世界人と出会って、思い出すだけで頭パンクしそうなんだよ。けど、クラウにメルの手伝いをしてやってくれって言われた時、俺は嬉しかった。さっき初めて会った時も、可愛いって思った。ほら、俺たちまだお互いの事良く分からないしさ、しばらくは毎日一緒なんだろ? メルの事もいっぱい考えてるから……それだけじゃ、お前には足りないか?」

 ニュアンスが違うところが多いけれど、嬉しそうに破顔したメルの顔を見れたから、まぁ良しということにしておく。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

男女比世界は大変らしい。(ただしイケメンに限る)

@aozora
ファンタジー
ひろし君は狂喜した。「俺ってこの世界の主役じゃね?」 このお話は、男女比が狂った世界で女性に優しくハーレムを目指して邁進する男の物語…ではなく、そんな彼を端から見ながら「頑張れ~」と気のない声援を送る男の物語である。 「第一章 男女比世界へようこそ」完結しました。 男女比世界での脇役少年の日常が描かれています。 「第二章 中二病には罹りませんー中学校編ー」完結しました。 青年になって行く佐々木君、いろんな人との交流が彼を成長させていきます。 ここから何故かあやかし現代ファンタジーに・・・。どうしてこうなった。 「カクヨム」さんが先行投稿になります。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

男女比がおかしい世界に来たのでVtuberになろうかと思う

月乃糸
大衆娯楽
男女比が1:720という世界に転生主人公、都道幸一改め天野大知。 男に生まれたという事で悠々自適な生活を送ろうとしていたが、ふとVtuberを思い出しVtuberになろうと考えだす。 ブラコンの姉妹に囲まれながら楽しく活動!

処理中です...