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1章 彼女が異世界に行ったのは、どうやらその胸に理由があるらしい。
7 今度は弱そうな優男が出てきた
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「あ、アンタは……」
再び、不審者紛いの格好をしたヤツが俺のすぐ後ろに居たのだ。
彼が俺を異世界犬から助けてくれたらしい。
男は20代半ば位だろうか。
白いシャツに細身の黒パンツ姿。
今時、三次元の世界には流行らない黒いロン毛を後ろに細く縛り上げ、華奢な輪郭を際立たせている。
女子が一瞬で惚れてしまいそうな整った顔が俺ににっこりと笑い掛けるが、もちろん俺がそいつに心をときめかせることはない。
「あの、助けてくれてありがとうございます」
「気にしなくていいよ。コレはカーボっていうモンスターだよ。今朝から門が開いたままだったから、逃げ出しちゃったんだね」
門から逃げ出した、って。
それが貧乳女の言っていた異世界へ通じる門だとしたら、そんなサラッと言ってしまえることなんだろうか。
管理がずさん過ぎる……。
まるで家から逃げ出したペットや家畜みたいな口調で言うなんて。
(俺は死ぬとこだったんだぞ)
「びっくりさせちゃってごめんね」
と頭を下げて、男は右手をその絶命したカーボにかざした。手中から闇のような黒いモヤがモワモワモワっと現れて、その体を包んでいく。
これが魔法か、という驚きと憧れと少しの恐怖を感じるのも一瞬で、男はアッと言う間に闇ごとカーボを消し去ったのだ。
「す、すごいですね。貴方も異世界から来たんですか?」
美緒を連れ去った異世界の男に怒りはあるが、命の恩人に対しての敬意を払おうと丁寧に話してみるが、「普通に話してくれて構わないよ」と俺のぎこちなさにニコリと笑いながらそう言ってくれたので、「じゃあ、遠慮なく」と甘えさせてもらう。
「アンタはあのハイレグ女の知り合いなのか?」
「ハイレグ?」
この男が異世界人だという確証が俺にはあった。
この世界の人間は雷でモンスターをやっつけることなんてできないし、公園でマントなんかしていないから。
モデル並みの容姿と、マントと、背後のジャングルジムの組み合わせが実にちぐはぐだ。
ひらりと揺れる黒いマントに、俺は貧乳美女に会った時と同じ直感を感じた。
「ハイレグがどういうものかを僕は知らないけど、マーテルに会ったのは君だね?」
「マーテル?」
男の言葉を聞いて、逆に俺の頭にも疑問符が飛び出た。話の流れからして恐らくそうなんだろうとは思うが、俺はハイレグ女の名前を聞いてはいなかった。
「いや、名前は知らないんだ。ただ、お前たちが胸が大きくて可愛いっていう理由で美緒をそっちの世界に連れて行ったんだろう? だから、俺はそっちの世界に彼女を連れ戻しに行きたいんだ」
「ふむ」
男は腕を組んで、短く頷いた。
「僕もマーテルから詳しくは聞いてないけど、そういうことか。君は彼女の『保管者』なんだろう?」
「あの女はそう言ってたぞ。そっか、あいつマーテルっていうのか。それにしても、アンタんとこの魔王は、ハーレムを作りたいからって部下に女を探せって命令してるのか? 異性の好みなんて他の奴が分かるもんじゃないだろ? 胸の大きい子がいっぱい居れば満足なのかよ」
自分で言っておいてなんだが、そりゃ巨乳でかわいい子がいっぱい居りゃ申し分ないだろうし、美緒を選んだマーテルさんの目は正しいとは思うけれど。
相槌を打っていた男は、「そうだね」と目を細める。その余裕な表情も、モテない俺にはいちいち鼻につく。
「君もそう思うのか。確かに、胸が大きくて可愛ければ申し分ないけど、それぞれに好みはあるからね。さっきマーテルにも、面倒な奴に絡まれたから今度は自分で行けって言われてさ」
あはは、と声を出して笑う優男の目が俺をまっすぐに見ている。
「でもほんと、大きい胸が近くにあるだけで幸せな気分になれるんだ」
女に不自由してなさそうな顔で、凄いこと言っている。
やっぱり巨乳は偉大だ。平野の言う普乳も捨て難いが、やっぱり巨乳ハーレムは憧れだ。俺だって味わってみたい。
それを欲望のままに実現させようっていう魔王の企みに、俺は少なからず嫉妬している。
ところで、そのマーテルの言ってた面倒な奴というのは俺の事だろうか? 絡んだなんて俺の方が悪いような言い方は不本意だけれど。
それで、「自分で行け」と言われただと?
「あれ?」
そういえば似たようなセリフを、俺もマーテルに言われた。
――「自分で本人に直接頼んでみてよ」
その言葉の意図するものは――。
「アンタは……」
頭の中でよじれた思考が、ゆっくりと一つの答えを導き出す。
そして、男はモデル並みの笑顔をさらして自己紹介を始めたのだ。
「初めまして。僕は、アルドュリヒ=ジル=クラウザー。クラウって呼ばれることが多いかな。あと、魔王様とか」
「――は?」
俺は耳を疑うどころか、意識がぶっ飛びそうになった。
再び、不審者紛いの格好をしたヤツが俺のすぐ後ろに居たのだ。
彼が俺を異世界犬から助けてくれたらしい。
男は20代半ば位だろうか。
白いシャツに細身の黒パンツ姿。
今時、三次元の世界には流行らない黒いロン毛を後ろに細く縛り上げ、華奢な輪郭を際立たせている。
女子が一瞬で惚れてしまいそうな整った顔が俺ににっこりと笑い掛けるが、もちろん俺がそいつに心をときめかせることはない。
「あの、助けてくれてありがとうございます」
「気にしなくていいよ。コレはカーボっていうモンスターだよ。今朝から門が開いたままだったから、逃げ出しちゃったんだね」
門から逃げ出した、って。
それが貧乳女の言っていた異世界へ通じる門だとしたら、そんなサラッと言ってしまえることなんだろうか。
管理がずさん過ぎる……。
まるで家から逃げ出したペットや家畜みたいな口調で言うなんて。
(俺は死ぬとこだったんだぞ)
「びっくりさせちゃってごめんね」
と頭を下げて、男は右手をその絶命したカーボにかざした。手中から闇のような黒いモヤがモワモワモワっと現れて、その体を包んでいく。
これが魔法か、という驚きと憧れと少しの恐怖を感じるのも一瞬で、男はアッと言う間に闇ごとカーボを消し去ったのだ。
「す、すごいですね。貴方も異世界から来たんですか?」
美緒を連れ去った異世界の男に怒りはあるが、命の恩人に対しての敬意を払おうと丁寧に話してみるが、「普通に話してくれて構わないよ」と俺のぎこちなさにニコリと笑いながらそう言ってくれたので、「じゃあ、遠慮なく」と甘えさせてもらう。
「アンタはあのハイレグ女の知り合いなのか?」
「ハイレグ?」
この男が異世界人だという確証が俺にはあった。
この世界の人間は雷でモンスターをやっつけることなんてできないし、公園でマントなんかしていないから。
モデル並みの容姿と、マントと、背後のジャングルジムの組み合わせが実にちぐはぐだ。
ひらりと揺れる黒いマントに、俺は貧乳美女に会った時と同じ直感を感じた。
「ハイレグがどういうものかを僕は知らないけど、マーテルに会ったのは君だね?」
「マーテル?」
男の言葉を聞いて、逆に俺の頭にも疑問符が飛び出た。話の流れからして恐らくそうなんだろうとは思うが、俺はハイレグ女の名前を聞いてはいなかった。
「いや、名前は知らないんだ。ただ、お前たちが胸が大きくて可愛いっていう理由で美緒をそっちの世界に連れて行ったんだろう? だから、俺はそっちの世界に彼女を連れ戻しに行きたいんだ」
「ふむ」
男は腕を組んで、短く頷いた。
「僕もマーテルから詳しくは聞いてないけど、そういうことか。君は彼女の『保管者』なんだろう?」
「あの女はそう言ってたぞ。そっか、あいつマーテルっていうのか。それにしても、アンタんとこの魔王は、ハーレムを作りたいからって部下に女を探せって命令してるのか? 異性の好みなんて他の奴が分かるもんじゃないだろ? 胸の大きい子がいっぱい居れば満足なのかよ」
自分で言っておいてなんだが、そりゃ巨乳でかわいい子がいっぱい居りゃ申し分ないだろうし、美緒を選んだマーテルさんの目は正しいとは思うけれど。
相槌を打っていた男は、「そうだね」と目を細める。その余裕な表情も、モテない俺にはいちいち鼻につく。
「君もそう思うのか。確かに、胸が大きくて可愛ければ申し分ないけど、それぞれに好みはあるからね。さっきマーテルにも、面倒な奴に絡まれたから今度は自分で行けって言われてさ」
あはは、と声を出して笑う優男の目が俺をまっすぐに見ている。
「でもほんと、大きい胸が近くにあるだけで幸せな気分になれるんだ」
女に不自由してなさそうな顔で、凄いこと言っている。
やっぱり巨乳は偉大だ。平野の言う普乳も捨て難いが、やっぱり巨乳ハーレムは憧れだ。俺だって味わってみたい。
それを欲望のままに実現させようっていう魔王の企みに、俺は少なからず嫉妬している。
ところで、そのマーテルの言ってた面倒な奴というのは俺の事だろうか? 絡んだなんて俺の方が悪いような言い方は不本意だけれど。
それで、「自分で行け」と言われただと?
「あれ?」
そういえば似たようなセリフを、俺もマーテルに言われた。
――「自分で本人に直接頼んでみてよ」
その言葉の意図するものは――。
「アンタは……」
頭の中でよじれた思考が、ゆっくりと一つの答えを導き出す。
そして、男はモデル並みの笑顔をさらして自己紹介を始めたのだ。
「初めまして。僕は、アルドュリヒ=ジル=クラウザー。クラウって呼ばれることが多いかな。あと、魔王様とか」
「――は?」
俺は耳を疑うどころか、意識がぶっ飛びそうになった。
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