いもおい~日本に異世界転生した最愛の妹を追い掛けて、お兄ちゃんは妹の親友(女)になる!?

栗栖蛍

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最終章 決着

174 バトンタッチ

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 みなとがハロンの足元に地面に突き刺した剣が落雷を思わせる音と共に青黒い光を走らせ、地面に放射状の亀裂を刻んだ。
 その動きが止まるのと同時に地面がくだけ、足元が陥没かんぼつを起こす。

 みさぎたちは跳ね上がる土や石をけて後ろへ跳び退すさった。湊から大分離れたつもりだったが、えぐれた穴の端が数メートル手前にまで迫り、みさぎは「ひゃあ」と叫んで咲と手を取り合う。

 そんな女子二人に、ともが声をかけた。

「見てて」

 促されるまま湊に向くと、彼の黒く小さな影がハロンの背に跳んで二枚の羽を切り落とした。
 その瞬間を目にしたみさぎは思わず言葉を失う。
 羽を取られたハロンが引力のまま穴へ落ち、轟音を立てて流れ込んだ川の水を弾かせた。

 一瞬の間をおいて、二か所の切断面から血の雨を降らせる。まるで水道管が破裂したように、高く噴き上げて生々しい臭いを漂わせた。

 智が陥没した地面の淵へ駆け寄って、文言を唱える。彼の手から伸びた光が水面に浮かぶ二枚の羽を狙い、業火で包み込んだ。
 炎が風景を赤く照らし、黒くすす化した羽は散り散りになって舞い上がる。

 向こうから湊が走って来るのが見えて、みさぎは声を張り上げた。

「湊くん!」

 目の前に来た湊が両膝に手をついて肩を上下させる。咲は「凄いぞ」と声を弾ませて、彼の背中を勢い良く叩いた。
 湊は眉をしかめつつも、ホッと安堵あんどした顔を称賛する仲間に向けて、息を整える。

 彼の頭上で、自分を主役だと言わんばかりにピョンピョンと跳ねるチュウ助を、中條が覗き込んだ。

「本当に懐いているんですね」
「懐いてるっていうか、懐かれたっていうか。突然こんな風になっちゃって」
「これはダズ鳥ですよ。知っていましたか?」
「いや、知りませんでした。そうなんですか?」

 湊は驚いて、丸めた背を伸ばした。目の前に浮いたチュウ助と目を合わせて、「マジ?」と首を傾げる。

「あなたの御父上も、昔綺麗な成鳥を連れていましたよ」
「話に聞いたことはあります」
「その鳥を連れているのは、あなたが強いという証拠です。ハロンの羽を捕った自分に胸を張りなさい」
「はい」

 湊は胸に跳び付いたチュウ助を抱きしめて、笑顔をこぼした。
 辺りが少し明るくなったことに気付いて、みさぎは空を仰ぐ。

 ハロンは羽をがれた状態で、その痛みを逃すように大きく吠えた。前の戦いで雨を降らせた咆哮ほうこうが、今度は雨をしずめて空に月を浮かばせる。

「やったぁ」

 思わず喜ぶみさぎだが、まだ戦いは終わっていない。
 羽を落としたところでハロンの命に別条がないことは、伝わってくる気配の感じで分かる。ただ、明らかにそれは弱いものだ。 

「行けるか、みさぎ。戦える?」
「もちろん行くよ」

 少し不安な顔をする湊に、みさぎははっきりと答えた。
 百パーセントの回復には程遠いけれど、気力だけなら十分に満たされている。

 今戦わなければ、ウィザードである自分に価値なんてないだろう。

「ちょっと待て」

 そんな二人のやり取りに、咲が口を挟んだ。

「湊、みさぎが持ってる記憶の石の中身は、次元隔離の魔法だった。絶対に使うなってお前からも言ってやってくれ」
「えっ、そうなの?」

 振り向いた湊に、みさぎは小さく頷いた。

「湊くんがここまでしてくれたんだから、もう使わなくていいと思うよ」

 湊が後ろの三人を見渡して、その気持ちを代弁するようにみさぎの肩をそっと掴んだ。

「俺はもう一度みさぎと生まれ変われるならそれでもいいと思う。けど、この世界で一緒に年老いたいとも思うよ」
「うん、私もそう思う。だから、終わらせるよ」

 みさぎは笑顔を広げて、開いた右手を彼へ向けた。
 高い音を鳴らしたバトンタッチ。その音を合図にでもするように、背後でハロンが動き出す。

「いよいよだね、ハロン」

 敵に対し、意気揚々とロッドを構えるみさぎだが、ハロンはその誘いにあらがうように山側へ身体を向けた。
 羽を失った巨体は陥没した穴から勢い良く飛び出して、坂を駆け上がる。

「ちょっと待ってよ!」

 道を横切り頂上へ向けて坂を駆け上がるハロンのスピードは、今までの動きを超越するものだった。
 ヤツの目指す先はいつもの広場だ。そこには次元の歪みがある。

「まさか、自分から入ろうとしているの?」

 みさぎは不安を走らせてハロンを追い掛けた。



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