いもおい~日本に異世界転生した最愛の妹を追い掛けて、お兄ちゃんは妹の親友(女)になる!?

栗栖蛍

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12章 禁忌の代償

154 取り寄せられた戦力

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 「伏せろ」と叫ばれた声に、反射的に身体が動いた。
 そうしなかったら死んでいたかもしれない。

「耳を塞いで!」

 地面にうずくまって両耳を押さえると、空気をたっぷりと含んだ激しい銃声が鳴って、目の前で派手な炎が破裂した。
 衝撃に地面が揺れ、土煙がバラバラとみさぎの頭上に石の雨を降らせる。

「ひぃぃ」

 何が起きているのか瞬時に理解できなかったが、みさぎを捕らえようと迫ったハロンの手は視界から消えていた。
 オォンという咆哮ほうこうの位置が遠いことに気付いて顔を起こす。
 白い煙を立ち上らせた巨体は、数十メートル先でバサバサと羽をはばたかせていた。

「今のって、銃……だった?」

 危機一髪の状況からみさぎを救ったのは魔法じゃない。
 さっきの声の主が誰なのかは分かっていた。相手を確信して振り向くと、おかっぱ髪を振り乱した、ターメイヤの宰相さいしょうこと、兵学校鬼教官ギャロップメイこと、担任の中條明和なかじょうめいわ硝煙しょうえんを立ち上らせた円柱形の武器を肩にかついだまま走り寄ってきた。

「怪我はしていませんか?」

 みさぎが驚愕きょうがくしたまま「はい」とうなずくと、中條は「そうですか」と薄く微笑む。

流石さすがウィザードの防御力だ。少し近いとは思ったんですが、貴女ならと思って」
「そ、そうだったんですか。生きてて良かった……」

 ビジネス用のロングコートに合わせるには、大分違和感のある装備だ。
 ロケットランチャーとか、バズーカ砲とかいうやつだろうか。戦争系のゲームで戦車に向かって打ち込む武器だ。

 ハロンも衝撃の割に大したダメージを受けた感じはしないが、それでも腹をよじらせてもがいている。

「戦争だっていうのに、大人しく静観していられるような性格じゃないんですよ。こんなの撃った所で、威嚇いかく程度にしかなりませんが」
「そんなことないです。先生が居なかったら、私は多分やられてたと思う」
「まぁ、無事で良かった。貴女が幾ら強いと言っても、油断は禁物ですよ」

 中條は口の端をそっと上げて、ハロンを見据えた。
 みさぎは「はい」と肩をすくめる。ハロンに丸薬を食べられてしまったなんてことは、口が裂けても言えない。

「けど、この武器ってどこで手に入れたんですか?」
「通販ですよ。ターメイヤに銃はありませんからね」
「えっ、通販で買えるんですか?」

 みさぎは目を丸くする。こんな武器がそう簡単に取り寄せられるなんて考えられない。
 こういうのは闇取引か何か悪いルートで仕入れるもののような気がしてならない。

勿論もちろん許可は取ってますよ。この程度のものを入手するくらい、何てことはありません。私たちがこの世界に転移して、十年間学校運営をしたことに比べればね。ターメイヤの人間として戦う事はタブーですが、この世界の武器でなら……グレーゾーンと言えるのではないですか?」
「どうなんだろう……」

 大分ポジティブな解釈のようにも聞こえるが、中條は顔色一つ変えずに再びランチャーへの弾込めをする。
 みさぎは立ち上がって、ひざについた雪を払った。

 攻撃態勢に入ろうとするハロンに向けて中條が腰を落とす。立ち膝でランチャーを肩に構えると、躊躇ちゅうちょなく二発目を放った。

 「行きますよ」の声が遅く、みさぎは再び「きゃあ」と耳を塞ぐ。
 衝撃にもがくハロンをここへ残し、一刻も早く咲の所へ行きたかった。そっと走り出そうと北に向いた視線が、土埃つちぼこりの中に智を捕らえる。

「智くん!」
「リーナ! 今の音何?」

 駆け寄って来た智が中條の姿にその状況を理解して、「えぇ?」と声を上げた。

「……って、教官は大分物騒な格好していますね」

 智の視線は中條の担ぐランチャーに釘付けだ。
 みさぎはそんな彼の腕を掴む。

「智くん、咲ちゃんは大丈夫なの?」
「リーナ……大丈夫、ヒルスは生きてるよ。俺もできることはしたけど、あとはリーナに頼んでもいい?」

 改まった彼の申し訳なさそうな笑顔で、状況が良くないことは分かった。
 智はみさぎの肩に手を乗せて、がっくりと頭を下げる。

「救ってやってくれ」

 彼の手が震えていた。悲痛な面持おももちに、みさぎは「分かったよ」と返事する。

「智くん、咲ちゃんを助けてくれてありがとうね」

 智は無言で首を横に振った。

「ここは貴方に任せますよ」

 中條がランチャーのストラップをぐるりと回して、武器を背中へ送った。続けて腰にぶら下げた袋から、またもや物騒な武器を取り出す。

「私の応戦はここまでにしておきます」

 みさぎはそれを一瞬棍棒こんぼうか何かかと思ったが、すぐにそうじゃないと分かって眉を上げた。
 先端に缶のような筒が付いた棒状の武器は、殴るものではなく投げつけるものだ。戦争映画やゲームの中で見たことがある。

「これも通販なんですか?」
「そうですよ」
「レプリカじゃないんですか……」

 冷ややかな笑みに愉悦ゆえつが混じる。中條の手を覗き込んだ智は、ギョッとして顔を引きつらせた。
 中條は柄の先にぶら下がったピンを抜くと、威嚇いかくするように羽を広げたハロンに向けて武器を放り投げる。

 手榴弾──ポテトマッシャーとかいうやつだ。れんが一時期ミリタリーにハマって、ゲームをしながら力説していたのを思い出す。
 昔の戦争映画に出てくるような武器が、今の時代に通販で買えるなんて信じられない。

 みさぎが予想した通り、棒付の手榴弾は弧を描いてハロンに命中した。火を吹く武器の衝撃に、ハロンどころかみさぎも声を上げる。

「大丈夫か、リーナ」

 咄嗟とっさに智がみさぎをかばった。「ありがとう」と伝えると、彼は薄く笑んでハロンへと身体を向ける。

「行って下さい」

 二人を北へとうながし、智は一つ、二つ、と魔法陣を宙に浮かべる。
 同時に発動させた炎が、辺り一帯を赤い光で照らしつけた。

「智くん、気を付けてね」

 ハロンと彼をここに置いて、先を急がねばならない。
 みさぎは中條に合図して、同時に地面を蹴った。



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