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12章 禁忌の代償
153 ゲージ回復
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北の空に打ち上げられた火球に気付いて、みさぎは眉を顰めた。
正面から飛び掛かってきた鷲型のモンスターに指一本で火を放つと、敵は呆気なく息絶えて地面に落ちる。
炎の垂直発射は、そこに怪我人が居る合図だ。打ち上げたのは智だろうが、位置が咲の初期値な気がした途端、鳥肌が立った。
そんな不安に付け込んで、モンスターは攻撃の勢いを強める。
狼のような体に羽をつけた敵が、十匹ほどみさぎを囲んだ。一匹の鳴き声を合図に一斉に飛び掛かって来て、みさぎはロッドとは逆の手を地面に向け光を放つ。
地面から突き上がった円柱の光がみさぎの周りを覆う盾となり、体当たりを防いだ。
光の盾は迎撃をもこなし、敵は次々と倒れて霧散する。
「もぉ」
休みなく湧く敵の数にスネると、スマホが音を鳴らした。絢だ。
「ちょっとルーシャ、このモンスターたちは何なの? ハロン以外が出るなんて聞いてないよ」
『いいから、そういうのは適当にやっつけて。それよりヒルスが怪我したから、そっちへ向かってくれる?』
急を要する話に、みさぎは「えっ」と声を詰まらせる。
「咲ちゃん……が?」
あの火球は、やはりそういう事だったらしい。
『ハロンが北へ向かったでしょう? あそこに置いた空間隔離の魔法陣に不具合が出て、隔離壁に溝ができていたみたいなの。アッシュが壁の応急処置をしてくれたんだけど、それよりもヒルスの怪我が酷いらしいのよ。私もそっちに行くから、貴女も向かってくれる? 貴女の力が必要よ』
「ちょっと待って。治癒魔法を使うって事? そんなに悪いの?」
治癒魔法は魔法使いの体力を奪う。だからこそ、前世でルーシャは最前線で戦うリーナにその方法を教えてはくれなかった。
智の怪我を治した時、みさぎは意識を保っていられずその場に倒れた。ハロン戦真っ只中の今、そのリスクを負ってまでやらなければならない程、咲の状態は良くないのだろうか。
『それは行ってみないと分からないわ。今更だけど、貴女に治癒を教えておいて良かったと思う。大丈夫、ヒルスには防御魔法を掛けてあるから、即死はしてない。助けられるわよ』
「即死って……そんな言葉使わないで。けど、この場所は? 歪みから出てくるモンスターが止まらないんだよ」
『そっちにはアッシュを向かわせたわ。今はハロンも行き場を失って彷徨ってるから、戦闘にならないように気を付けてね』
「分かったよ、すぐに行く」
みさぎの手は震えていた。気持ちが急いて、通話を切る時にはもうみさぎは坂を駆け下りていた。
全力で走った足が傾斜に縺れて、土の混じった地面に転がる。
痛いと思って、けれどすぐに立ち上がった。ハードルを跳んでいた時に何度も転んで、転ぶのには慣れていた。
それにしても、北へ向かったハロンは智と戦っているものだと思っていた。まさかこの短時間で咲の所へ行って、そんなことになっているなんて想定外──いや、想定なんて幾らでもできた筈なのに、最悪を頭の中で受け入れようとしなかっただけだ。
学校の手前まで来て息が切れた。みさぎは一旦立ち止まり補給する。
一口だけ水を飲んでポケットから一華に貰った袋を取り出した。回復用の丸薬だ。
これを食べた方がいいと頭が判断したが、プンとたつ臭いにその意思が半減してしまう。
そんな躊躇する気持ちが悪い結果を引き起こした。
嫌顔で一粒取り出すと、黒い玉はつるりとみさぎの指を離れて地面へ転がった。
足元のすぐ側に畑へ下りる坂があって、ころころと先へ行ってしまう。
「ちょっと待って」
まずいと思って追い掛けたところで、みさぎの頭上に影が差した。
突然の気配に後悔が募る。
どこからか飛んできたハロンが突然目の前に舞い降りて、その衝撃に跳び上がった丸薬を大ぶりな爪で器用にキャッチしたのだ。
ハロンの巨体からしたら、人間が蟻を掴むようなサイズだ。
「何で……」
それを狙って降りてきたとは思いたくないけれど、ハロンは丸薬を持ち上げ自分の口へ放り投げた。
これが何でどんな効果を及ぼすものなのか、ハロンは分かっているのだろうか。
それは、体力を回復させる薬だ。
ハロンの巨体に効くかどうかは分からないが、ある程度の効果はあるのかもしれない。
牙だらけの口の中でカリカリと音が鳴る。
みさぎが頭の中に描いていたハロンの体力ゲージが、マックスに戻った。
迂闊だ──けれど、後悔している暇なんてなかった。
ハロンの行動に動揺して、みさぎは攻撃を仕掛けるのが一瞬遅れる。
「駄目!」
跳躍したハロンの手がみさぎの前に伸びて、湾曲した爪がみさぎを捕らえようと大きく開いた。
正面から飛び掛かってきた鷲型のモンスターに指一本で火を放つと、敵は呆気なく息絶えて地面に落ちる。
炎の垂直発射は、そこに怪我人が居る合図だ。打ち上げたのは智だろうが、位置が咲の初期値な気がした途端、鳥肌が立った。
そんな不安に付け込んで、モンスターは攻撃の勢いを強める。
狼のような体に羽をつけた敵が、十匹ほどみさぎを囲んだ。一匹の鳴き声を合図に一斉に飛び掛かって来て、みさぎはロッドとは逆の手を地面に向け光を放つ。
地面から突き上がった円柱の光がみさぎの周りを覆う盾となり、体当たりを防いだ。
光の盾は迎撃をもこなし、敵は次々と倒れて霧散する。
「もぉ」
休みなく湧く敵の数にスネると、スマホが音を鳴らした。絢だ。
「ちょっとルーシャ、このモンスターたちは何なの? ハロン以外が出るなんて聞いてないよ」
『いいから、そういうのは適当にやっつけて。それよりヒルスが怪我したから、そっちへ向かってくれる?』
急を要する話に、みさぎは「えっ」と声を詰まらせる。
「咲ちゃん……が?」
あの火球は、やはりそういう事だったらしい。
『ハロンが北へ向かったでしょう? あそこに置いた空間隔離の魔法陣に不具合が出て、隔離壁に溝ができていたみたいなの。アッシュが壁の応急処置をしてくれたんだけど、それよりもヒルスの怪我が酷いらしいのよ。私もそっちに行くから、貴女も向かってくれる? 貴女の力が必要よ』
「ちょっと待って。治癒魔法を使うって事? そんなに悪いの?」
治癒魔法は魔法使いの体力を奪う。だからこそ、前世でルーシャは最前線で戦うリーナにその方法を教えてはくれなかった。
智の怪我を治した時、みさぎは意識を保っていられずその場に倒れた。ハロン戦真っ只中の今、そのリスクを負ってまでやらなければならない程、咲の状態は良くないのだろうか。
『それは行ってみないと分からないわ。今更だけど、貴女に治癒を教えておいて良かったと思う。大丈夫、ヒルスには防御魔法を掛けてあるから、即死はしてない。助けられるわよ』
「即死って……そんな言葉使わないで。けど、この場所は? 歪みから出てくるモンスターが止まらないんだよ」
『そっちにはアッシュを向かわせたわ。今はハロンも行き場を失って彷徨ってるから、戦闘にならないように気を付けてね』
「分かったよ、すぐに行く」
みさぎの手は震えていた。気持ちが急いて、通話を切る時にはもうみさぎは坂を駆け下りていた。
全力で走った足が傾斜に縺れて、土の混じった地面に転がる。
痛いと思って、けれどすぐに立ち上がった。ハードルを跳んでいた時に何度も転んで、転ぶのには慣れていた。
それにしても、北へ向かったハロンは智と戦っているものだと思っていた。まさかこの短時間で咲の所へ行って、そんなことになっているなんて想定外──いや、想定なんて幾らでもできた筈なのに、最悪を頭の中で受け入れようとしなかっただけだ。
学校の手前まで来て息が切れた。みさぎは一旦立ち止まり補給する。
一口だけ水を飲んでポケットから一華に貰った袋を取り出した。回復用の丸薬だ。
これを食べた方がいいと頭が判断したが、プンとたつ臭いにその意思が半減してしまう。
そんな躊躇する気持ちが悪い結果を引き起こした。
嫌顔で一粒取り出すと、黒い玉はつるりとみさぎの指を離れて地面へ転がった。
足元のすぐ側に畑へ下りる坂があって、ころころと先へ行ってしまう。
「ちょっと待って」
まずいと思って追い掛けたところで、みさぎの頭上に影が差した。
突然の気配に後悔が募る。
どこからか飛んできたハロンが突然目の前に舞い降りて、その衝撃に跳び上がった丸薬を大ぶりな爪で器用にキャッチしたのだ。
ハロンの巨体からしたら、人間が蟻を掴むようなサイズだ。
「何で……」
それを狙って降りてきたとは思いたくないけれど、ハロンは丸薬を持ち上げ自分の口へ放り投げた。
これが何でどんな効果を及ぼすものなのか、ハロンは分かっているのだろうか。
それは、体力を回復させる薬だ。
ハロンの巨体に効くかどうかは分からないが、ある程度の効果はあるのかもしれない。
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みさぎが頭の中に描いていたハロンの体力ゲージが、マックスに戻った。
迂闊だ──けれど、後悔している暇なんてなかった。
ハロンの行動に動揺して、みさぎは攻撃を仕掛けるのが一瞬遅れる。
「駄目!」
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