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11章 空を開いた脅威
139 冬合宿初日の朝に
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スマホの時計が七時に変わる瞬間を狙って、咲は蓮に電話した。
朝の挨拶はメールの事が多かったけれど、今日は電話したいと伝えてある。
今日は十一月三十日。ルーシャが『ハロンが来る』と予測した前日で、『運動する部』の冬合宿初日だ。
朝早く目が覚めて、肌寒い部屋の温度に蓮のパーカーを羽織る。咲は彼と今までしたメールのログを読み返しながら、七時になるのを待っていた。
『おはよう、咲』
おはようと挨拶して、「今日は今日は寒いな」と他愛のない話をする。
海に行った時、蓮はハロン戦まであと二回会おうと言ってくれたが、結局あれから五回も会う事が出来た。それでもまだ足りないと思ってしまうけれど。
前の時もそうだったけれど、この次に彼と話すのは戦いが終わった後だと決めている。だから彼の声にどっぷりと浸って、咲は「大好きだよ」と伝えた。
『俺も好きだよ。咲の事待ってるから、気をつけてな』
「ありがとう、蓮。そうだ、この間借りた服、着てってもいいか?」
『えっ、あのパーカーのこと? 構わないけど、大分くたびれてるでしょ?』
「気にしないから」
『だったらいいけど』
咲は「やった」と袖口を握り締めて、ベッドサイドに掲げてある旗を見上げた。
数日前に完成した、ハロン戦用に作った旗だ。
咲は蓮の声の余韻に目を細め、「行ってくるよ」と立ち上がった。
☆
朝早く目が覚めて、みさぎはハリオスこと田中校長から預かっている本を読んでいた。
ウィザードとしての魔法が書かれた魔導書だ。寝不足は良くないと思ったけれど、夜何度も目が覚めて、半ば諦めモードで机に向かった。
焦っているのが自分でもよく分かる。
結局、今日になっても青い魔導書の破られた三ページ分の記憶は戻ってこなかった。
今日は学校の授業を終えた後、合宿という流れだ。
ハロンは明日出るだろうという話だが、前回が予定より前に出たせいで予断を許さない状況だと思っている。こうしている間にも出ないとは言い切れないのだ。
マナーモードのままベッドに放り投げていたスマホを確認すると、湊から『おはよう』のメールが届いていた。それ以外の緊急なものはなくホッとして、みさぎは彼へいつも通り『おはよう』と返す。
寝不足気味の目を擦りながら、いつもの支度に合宿用の着替えなどを合わせ、大荷物を抱えて階段を下りる。
中條から預かった記憶の石も、ちゃんとポケットに入れた。
リビングにいる両親に「行ってきます」と挨拶して玄関へ向かうと、不安顔の蓮に呼び止められた。
蓮には大体話してあると咲から聞いている。
「俺にできることがあればいつでも呼んで。夜中でもいいから」
みさぎは部活用のスニーカーに足を入れ、少し返事を考えた。沈黙に待つ兄を振り向いて立ち上がり、「分かったよ」と頷く。
「心配?」
「当たり前だろ。一応、お前のことだって心配してるんだからな?」
「ありがとう、お兄ちゃん。何かあったら連絡するから、それまでは咲ちゃんを待ってあげて」
「あぁ。いつものプリン買っとくから、ちゃんと帰って来いよ」
「楽しみにしてる。じゃあ、行ってきます」
みさぎは「じゃあな」と手を上げた蓮の掌にタッチして家を出た。
朝寒いと思ったけれど、灰色の空の下、町には雪が舞っていた。
「どおりで」と白い息を吐き出す。
雨は苦手だけれど、雪は平気だ。
電車で湊と合流し、いつも通り白樺台で下りる。広井町で舞っていた雪はどんどん勢いを増し、駅に着いた時には地面をうっすらと白く染めていた。
「おはよう」
智と咲が二人を迎える。前日だというのに、今日はハロンの臭気も薄い気がした。
タイムリミットがあと何時間かは分からないけれど、ついにこの日を迎える。
みさぎにとっての屈辱戦が、いよいよ始まろうとしていた。
朝の挨拶はメールの事が多かったけれど、今日は電話したいと伝えてある。
今日は十一月三十日。ルーシャが『ハロンが来る』と予測した前日で、『運動する部』の冬合宿初日だ。
朝早く目が覚めて、肌寒い部屋の温度に蓮のパーカーを羽織る。咲は彼と今までしたメールのログを読み返しながら、七時になるのを待っていた。
『おはよう、咲』
おはようと挨拶して、「今日は今日は寒いな」と他愛のない話をする。
海に行った時、蓮はハロン戦まであと二回会おうと言ってくれたが、結局あれから五回も会う事が出来た。それでもまだ足りないと思ってしまうけれど。
前の時もそうだったけれど、この次に彼と話すのは戦いが終わった後だと決めている。だから彼の声にどっぷりと浸って、咲は「大好きだよ」と伝えた。
『俺も好きだよ。咲の事待ってるから、気をつけてな』
「ありがとう、蓮。そうだ、この間借りた服、着てってもいいか?」
『えっ、あのパーカーのこと? 構わないけど、大分くたびれてるでしょ?』
「気にしないから」
『だったらいいけど』
咲は「やった」と袖口を握り締めて、ベッドサイドに掲げてある旗を見上げた。
数日前に完成した、ハロン戦用に作った旗だ。
咲は蓮の声の余韻に目を細め、「行ってくるよ」と立ち上がった。
☆
朝早く目が覚めて、みさぎはハリオスこと田中校長から預かっている本を読んでいた。
ウィザードとしての魔法が書かれた魔導書だ。寝不足は良くないと思ったけれど、夜何度も目が覚めて、半ば諦めモードで机に向かった。
焦っているのが自分でもよく分かる。
結局、今日になっても青い魔導書の破られた三ページ分の記憶は戻ってこなかった。
今日は学校の授業を終えた後、合宿という流れだ。
ハロンは明日出るだろうという話だが、前回が予定より前に出たせいで予断を許さない状況だと思っている。こうしている間にも出ないとは言い切れないのだ。
マナーモードのままベッドに放り投げていたスマホを確認すると、湊から『おはよう』のメールが届いていた。それ以外の緊急なものはなくホッとして、みさぎは彼へいつも通り『おはよう』と返す。
寝不足気味の目を擦りながら、いつもの支度に合宿用の着替えなどを合わせ、大荷物を抱えて階段を下りる。
中條から預かった記憶の石も、ちゃんとポケットに入れた。
リビングにいる両親に「行ってきます」と挨拶して玄関へ向かうと、不安顔の蓮に呼び止められた。
蓮には大体話してあると咲から聞いている。
「俺にできることがあればいつでも呼んで。夜中でもいいから」
みさぎは部活用のスニーカーに足を入れ、少し返事を考えた。沈黙に待つ兄を振り向いて立ち上がり、「分かったよ」と頷く。
「心配?」
「当たり前だろ。一応、お前のことだって心配してるんだからな?」
「ありがとう、お兄ちゃん。何かあったら連絡するから、それまでは咲ちゃんを待ってあげて」
「あぁ。いつものプリン買っとくから、ちゃんと帰って来いよ」
「楽しみにしてる。じゃあ、行ってきます」
みさぎは「じゃあな」と手を上げた蓮の掌にタッチして家を出た。
朝寒いと思ったけれど、灰色の空の下、町には雪が舞っていた。
「どおりで」と白い息を吐き出す。
雨は苦手だけれど、雪は平気だ。
電車で湊と合流し、いつも通り白樺台で下りる。広井町で舞っていた雪はどんどん勢いを増し、駅に着いた時には地面をうっすらと白く染めていた。
「おはよう」
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