いもおい~日本に異世界転生した最愛の妹を追い掛けて、お兄ちゃんは妹の親友(女)になる!?

栗栖蛍

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10章 戦いの準備を

133 魔法使いの弱点

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 朝、駅に着いた時に感じた眩暈めまいは、ここのところずっと漂っているハロンの臭気のせいだ。魔法使いだけが感じられる特有の匂いで、みなとたち剣士組は普段と変わりない。

 十二月一日に、ターメイヤで次元隔離じげんかくりした最強のハロンがこの白樺台しらかばだいに現れるという。
 九月の末に起きた最初の戦いが終わった辺りからずっとその気配を感じていたが、臭気を感じるようになったのはここ二週間ほどだ。
 出口を求めて次元を彷徨さまようハロンが、ひずみに生じたわずかな隙間から臭気だけをらしている。確実に近付いてきているという事だ。

 この間出たハロンの臭気は甘かったけれど、今回は直接胃にまとわりつくような吐き気をもよおすものだ。
 こちらから戦いを仕掛けることはできず、ただひたすら我慢の日々が続いている。

 今日はいつもより臭いが強い。軽い車酔いをした気分のまま部活を終えて、みさぎは田中商店の前でみなとさきと別れた。
 魔法組と剣士組がそれぞれに別れて大人たちに呼ばれているが、具合が悪いという智は不在だ。彼はこの臭気に当てられてしまったのだろうか。

 水分を摂ると少しだけ楽になる事を知って、朝に封を切ったペットボトルのスポーツドリンクを少しずつ飲んでいたが、もうほぼ空の状態だった。
 みさぎはひたいにじんだ汗を拭い、最後の一口を飲み干して店の中に入る。

「あれっ」

 思いがけない光景が飛び込んできて、みさぎは声を上げた。
 休日の開店休業状態の店内に、ともが居たのだ。
 テーブルにした智はみさぎに気付いてのっそりと身体を起こすが、顔色が良くない。

「智くん大丈夫? 具合悪いのにここまで来たの?」
「いや、駅に下りるまでは平気だったんだ。そこからもう全然ダメ。リーナは平気なの?」

 智は朝いつもの時間に駅に下りていたらしい。そこで吐き気に見舞われ、ここにずっといたのだと説明した。
 智は花柄のビニールクロスに右のほおを落として、うつろな目を辛そうに細める。

「私はそこまでひどくないけど、やっぱり気持ち悪いよ」
「そっか。部活してきたんでしょ? 流石リーナだ」

 同じ臭気に対して、感じ方はそれぞれのようだ。
 智は側にあった空の紙コップをつかんで、みさぎへ伸ばした。

「ごめん、リーナ。んでもらっていい?」
「うん。水だけで足りる? 大分辛そうだよ。メラーレ呼ぼうか?」

 みさぎはセルフの水を自分の分も合わせて汲んで、彼の向かいに腰を下ろした。
 智は「ありがと」と身体を起こし、水を少しだけ飲んで再び伏せる。

一華いちかも今日は忙しいみたいだから、遠慮しとく」
「湊くん達は向こうで何してるの?」
「ヒルスに剣をやるんだってさ。湊の剣もメンテしてるって言ってたからその事なんじゃないかな」
「咲ちゃんに剣? そっか、いよいよなんだね」

 みさぎはパチリと手を鳴らした。彼女にとって待望の武器だと思うと、自分の事のように嬉しい。突発的に始まった部活も、元々は咲が剣を手にするための条件だった。

「だから咲ちゃんが嬉しそうだったって、お兄ちゃんが言ってたのか」

 そういえば部活の時もやたら機嫌が良かった気がする。

「嬉しそう、か。俺たちがこんなに苦しんでるのにな。魔法が使えるってだけでこんなに体調左右されるとナーバスにもなるよね」

 智は胸を押さえながら、「あぁ」と悲痛な声を漏らす。

「そんなに具合悪いなら、来なくても良かったのよ」

 奥からあやが出てきて、片手に持ったカセットコンロを智の前に置いた。今日は先日の猫コスプレとは違い、シャツにエプロンという驚く程普通の格好をしている。

「ルーシャも魔法使いなのに平気なんですか?」
「平気なわけじゃないけど、貴方よりはマシね。今日は後で外に行きたかったんだけど、リーナと二人で行くから奥で寝てると良いわ。これも慣れるしかないのよ」

 絢は「使い物にならないんだから」と愚痴ぐちって腕を組む。

「勘弁してくださいよ。これって慣れるもんなんですか? ターメイヤに現れた時もこんな感じでしたっけ?」
「貴方、私の前で盛大せいだいに吐いた事覚えていないの?」
「……えっ?」

 急に怒りをにじませた絢に、智は眉をひそめる。
 みさぎはうらみさえ感じさせる冷たい視線にルーシャの過去を重ねて、「あった!」と声を上げた。

 あの時は次元の穴が突然破られたせいで、今回のような予告はなかった。
 一気になだれ込んだ臭気にリーナも最初あてられていたが、あの時もアッシュが一番辛そうで、介抱しようとしたルーシャの胸にしゃ物をぶちまけたのだ。

「あ……すみません」

 本人も遅れてそれを思い出し、頭を下げるように目を閉じる。

「いいわよ、もう。それより折角鍋パーティしようと思ったのに、それじゃ食べられないじゃない」
「鍋パーティ? その為に私たちを呼んだの?」
「外に行きたいって言ったでしょ? そっちが本来の予定よ。ハロン戦の準備を手伝ってもらおうと思ってね。けどその前にお腹減ってるんじゃない? アッシュの事はほっといて、三人でいただきましょう」
「三人?」

 みさぎが首を傾げると、今度は奥から土鍋を持った賢者ワイズマンハリオスこと田中校長が現れる。
 その昼ご飯を作ったのが彼だと知って、みさぎは「やったぁ」と顔をほころばせた。




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