いもおい~日本に異世界転生した最愛の妹を追い掛けて、お兄ちゃんは妹の親友(女)になる!?

栗栖蛍

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9章 旗

124 おかゆの味

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 気付くとカーテンの奥が明るくなっていた。雨の音も止んでいる。
 さきれんの部屋のベッドで目を覚ました。

 すぐそこに、床に座り込んだまま枕元に伏せる蓮の顔がある。まさか一晩中そこに居たのだろうか。
 咲が彼の方へそっと寝返りを打つと、蓮はパチリと目を覚ました。

「おはよう、咲」
「おはよう、蓮。ずっとここに居てくれたのか?」
「いや、布団でも寝てたよ。さっきあの二人が出て行ったから、見送りして少しここで休んでただけ」
「えっ、もうそんな時間? みさぎたち部活に行ったのか?」

 まだ朝だと思っていたが、壁掛けのデジタル時計は九時二十分を示していた。

「ゆっくり休めて良かったよ。咲は今日部活休めってさ。具合はどう?」

 蓮は「取るよ」と言って、咲のひたいから温くなった冷却シートをがした。

「気分は……悪くないかな。寝起きでまだボーッとしてるけど」
「うん、熱も下がったみたいだ」

 蓮は咲の額に手を当て「良かった」と笑顔を零すと、「ちょっと行って来る」と部屋から出て行った。
 階段を下りる足音が遠ざかる。

 咲は起き上がると、ベッドサイドに分厚い本を見つけて手に取った。
 昨日蓮が横に掲げられた旗を『コーリア国騎兵団の団旗』だと言ったけれど、この本のサブタイトルにも『コーリア国』の名前が入っている。表紙の隅に描かれているのは、蓮が好きらしいフィギュアの少女だ。

 パラパラとページをめくった所で、蓮が朝食の乗ったトレイを手に戻ってきた。
 大きめの器から湯気が立っている。
 彼が咲の手元に気付いて、テーブルにトレイを放した。

「読んだ?」
「いや、まだだけど。勝手にごめんな」
「いいよ、もし良かったら持って行って。返さなくていいからさ」

 蓮は腰を下ろして、咲を横のクッションへ促す。

「えっ、何で?」
「いや、布教用にもう一冊あるから」
「布教用?」
「興味持ってもらえたら嬉しいってことだよ」
「そういうことか。なら読んでみようかな」

 咲は「ありがとう」と閉じた本を枕の上に乗せると、ベッドから下りて彼の横に並んだ。
 トレイに乗っているのは、少しだけ具の入ったおかゆだった。うっすらと香る出汁の匂いに空腹を覚えて、鳴き出しそうな腹に手を当てる。

「美味しそう」
「温めてきたけど、食べれそう?」
「あぁ。けど、これって蓮が作ってくれたのか?」
「いや、ネットでレシピ拾おうとしたんだけど、やってくれるって言うからお願いしたよ」
「じゃあ──」

 みさぎか? と言おうとしたところで蓮が「誰だと思う?」と逆に聞いてきて、すぐに答えをくれた。

「眼鏡くんだよ」
「はぁ? アイツが?」

 予想外どころか、何か企んでいるんじゃないかと疑ってしまう。
 このおかゆを、湊が自分の為に作ったというのか。

「何でそんなに警戒するんだよ。嫌なら何か他のもの食べに行く? 今日は送ってこうと思ってるし」
「ありがとう。けど、これは僕が食べるよ。残したら勿体ないし」
「うん、そうだね」

 蓮は満足そうにうなずいて、木のスプーンをおかゆに刺した。

「俺が食べさせてもいい?」
「──恥ずかしいんだけど」
「いいじゃん、一回やってみたかったんだよ」

 咲は押し黙って目を逸らした後に、そっと口を開いた。

「やっぱり咲は可愛いな」

 蓮は一口分のおかゆに「ふぅ」と息を吹き付けて、咲の口へと運んでいく。

「咲って、ほんと眼鏡くんの事好きじゃないよね」
「まぁな。犬猿の仲ってやつだと思う」
「けど、咲が眼鏡くんの話する時、悪口なんて言ったことないよ。嫌だって言いつつも、ちゃんと認めてるだろ?」
「そうかな」

 背中がゾワゾワっとして、咲は顔をしかめる。

「うん。だから、眼鏡くんはそういう奴なんだろうって俺は思うし、俺は嫌いじゃないよ」
「蓮は男が好きなのか?」
「そういうのじゃないって分かってるだろ?」

 咲は「うん」とあごを引いて、唇をとがらせた。

「アイツにみさぎを任せていいかもなんて思ったの、最近なんだ」

 自分でも気の迷いかと疑ってしまうような感情だ。

「そっか。まぁ、今日は咲がそのおかゆを美味しいと思えるなら、俺はそれでいいと思うよ」

 蓮の差し出したスプーンから最後の一口をパクリと食べて、咲は「ごちそうさま」と手を合わせた。

「美味しかった」

 湊が作ったとは思いたくないけれど、おかゆは優しい味がした。





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