いもおい~日本に異世界転生した最愛の妹を追い掛けて、お兄ちゃんは妹の親友(女)になる!?

栗栖蛍

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9章 旗

119 貢がれる妹

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 夕食後、女子が交代でお風呂に入っている間に、みなとれんが布団の用意をしてくれた。
 客間に寝るのが湊で、みさぎの部屋にはさきが泊まることになっている。

「じゃあ、荷物こっちに置いとくから」

 バスタオルをこんもりと頭に巻いた風呂上がりの咲は、持ってきたバッグを布団の横に置いた。

「分かった。咲ちゃんのパジャマ、可愛いね」
「これはアネキに持たされたやつだからな?」

 咲はみさぎに念を押して、自分の格好を見下ろす。
 今日のパジャマは前回のお泊り会の時よりも、更に可愛さが増している気がした。咲に有無を言わせないりんの作戦か、渡されたのは家を出る直前だ。

 蓮と付き合ってることを知っている彼女に、『みさぎの家に泊りに行く』なんて言わなければよかったと思うけれど、他で口実にできる様な友人も思い浮かばなかった。

 ──『咲ちゃんを彼女にしてくれてありがとうって言う、私から彼への感謝の気持ちよ』

 そんな理解しがたい姉のこだわりのせいで、咲は貢物みつぎものにでもなった気分でヒラヒラを着ている。けれどこんな乙女アピールをする服など着なくたって、咲は自分がまぁまぁ可愛いと思っていた。

「むしろ、これが僕だってのが疑問だ」

 頭のバスタオルをむしり取って姿見の前に立ったところで、咲は苦虫を噛んだような顔をした。
 すぐ後ろで膝の絆創膏を貼り替えていたみさぎと、鏡越しに目が合ってしまったからだ。

 赤いチェックのパジャマ姿で「似合ってるよ」と褒める彼女に「まぁな」とクールに気取って、咲は半乾はんがわきの髪をブラシで整える。
 机の上にある目覚まし時計を確認すると、まだ八時前だった。

「じゃあ、十一時になったら湊と交代な」

 その時間になったら、自分の布団がある部屋に行くという約束だ。

「わかった。じゃあ後でね」

 咲は「おぅ」と返事して廊下に出る。

 階下からシャワーの音が聞こえた。
 男子はどっちが先に風呂に入ったのだろうと考えながら、咲は自分のひたいに手を当てる。熱い感じはしなかったけれど、少しだけ喉が痛かった。

 浴室から出る時、夜用として持ってきた風邪薬を飲んだお陰か、気分はまぁまぁ良い。

 ここで熱を出したら折角せっかくの時間が即終了になってしまいそうで、咲は「大丈夫」と胸を押さえた。
 この世界には『病は気から』という言葉があるし、熱くらいそんなものだと思う。

 蓮の部屋の扉を叩くと「はぁい」と声がして、中から彼が現れる。
 裸だった。
 もちろん下ははいていたけれど、上半身は何もつけていない。
 予想外の姿に驚いて一瞬呆然ぼうぜんとしてしまう咲を、蓮はクスリと笑って「早かったね」と迎え入れた。

「咲は可愛いな」

 凛チョイスのエプロンもパジャマも、蓮には好評だ。

「僕は男だし、これはアネキの趣味だけどな」
「その男だって言うの、久しぶりに聞いた。それよりこの間咲が見たいって言ってたアニメ、借りといたから一緒に見ようよ。そこ座って」

 蓮は椅子に掛けてあった白いTシャツを着ると、机に並んだモニターの中からタブレット型のものを外して、テーブルに立てた。

 タイトルを見て咲が「えっ」と息を呑む。
 この間観に行ったゾンビ映画のテレビ版だ。確かに見たいと言った記憶はあるけれど、それは映画を観る前の事で、あんなに怖いとは思っていなかったのだ。

「何か出てきたら叫ぶぞ?」

 声を震わせる咲。

「あれ、そんなに怖かった? やめとく?」
「いや、一応見てみる」
「分かった。じゃあ、辛くなったら言って」

 「うん」とうなずく咲の頭に軽く手を乗せて、蓮が横に腰を下ろした。
 彼から風呂上がりの匂いがして、何だかドキドキしてしまう。
 けれど、ボーッとしてしまうようなフワフワした感覚は、彼が原因なだけではないような気がする。
 咲はクッションに座ったまま、少しだけ後ろに移動してベッドのふちに身体を預けた。







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