いもおい~日本に異世界転生した最愛の妹を追い掛けて、お兄ちゃんは妹の親友(女)になる!?

栗栖蛍

文字の大きさ
上 下
109 / 190
8章 あの日と同じ雨

101 アイツの視線

しおりを挟む
 最近鈴木が何か変だ。
 授業中や休み時間に視線を感じると思うと、大抵たいてい彼がこっちを見ている。
 みさぎが気付いて『どうしたの?』と首を傾げてみせると、鈴木は慌てて目を逸らすどころか、恥ずかしがっているようにさえ見えた。

 しかも、みなとが側に来ると彼は更に挙動不審きょどうふしんになって、にらまれたカエルのように逃げ出してしまう。
 放課後またそんなシチュエーションになって、そそくさと退散する鈴木に、みさぎはまばたきを繰り返した。

「鈴木くん、何かあったのかな?」
「何かあったんだろうな」

 湊がどこか楽しそうに笑顔を見せたところで、

「ちょっといいか?」

 咲がともを引きつれてやってきた。
 いつになく神妙な様子の咲に、湊が理由を求めて智へ視線を投げかけるが、彼もよく分からない様子で黙ったまま肩をすくめて見せた。

「どうしたの? 咲ちゃん」
「話があるんだ。二人とも来てくれ」

 帰り支度をしていたみさぎは、湊と顔を見合わせて「いいよ」と返事する。

 鞄を手に四人で向かったのは、校庭の端にある滑り台の所だ。
 今日は曇り空で肌寒く、近所の子供たちの姿もない。
 咲がここを選んだのは、他の生徒に聞かれては不味まずい話なのだろう。
 みさぎは何だろうと想像してみたものの、ハロンやターメイヤに関するものだろうということしか思いつかなかった。

 滑り台の前で仁王立ちになった咲は、晴れない表情のまま三人をぐるりと見渡して、

「僕がハロン戦で戦えるように、協力して欲しい」

 何だか難しい顔をする咲を、湊は不満げに睨みつけた。

「どういうこと? 物を頼む態度には見えないけど?」
「すまない。だけど僕にはどうすることもできない──逆らえないんだ」

 咲は腰に当てていた両手を下げて、拳を震わせる。
 様子のおかしい咲を心配して、みさぎは横に居る湊を見上げた。
 彼もまた話を飲み込めない様子で首を傾げる。

「逆らえないって誰に?」

 けれど咲は湊の質問には答えず、顔をブンと智へ向けた。

「智」

 急に話を振られた智が、「俺?」と自分を指差す。

「お前、昨日の夕飯カレーだったろ」
「えっ」

 ドキリという心臓の音が聞こえてきそうなくらい、智が目を見開く。
 咲は恨みでも込めるように智を見据えて、唐突に話を始めた。

「お前が昨日メラーレの所に行っていたのは分かってるんだ。僕の気配に気付かないくらい、彼女と楽しくやってたみたいだな」
「ちょっと待て。いきなり何だよ。気配って、お前──」

 そこまで言って、智は赤面しながらハッと息を呑んだ。

「まさか、隣の部屋にいたのか?」

 みさぎには二人のやり取りが全く分からなかったが、隣で湊が「あぁ」と顔を上げる。

「一華先生の部屋の隣って、この間言ってたやつか。中條先生の部屋に行ったの?」
「そうだよ」

 ぶっきらぼうに答える咲に、智が悪戯いたずらな笑顔を見せる。

「なになに? それって怪しくねぇ? 若い……いや、そうでもないけど、担任の男の部屋に女子生徒が遊びに行くってシチュエーション」

 咲が怒りを沸騰させて声を上げた。

「そんなことあるわけないだろ? 僕が緊張と恐怖で震えていた隣の部屋で、お前はメラーレときゃっきゃうふふとカレーを食べていたんだぞ? 僕の気持ちも考えろよ。大体、お前だって美人な保健室の先生の部屋に入りびたる男子生徒じゃないか」
「あぁ、確かに」

 智は咲に言われて、それを初めて自覚したらしい。「ごめんごめん」と軽く謝って、「で?」と本題をうながす。

「何話して来たの? さっき、お前がハロン戦一緒に戦うための協力しろとか言ってたよね」
「そう、これは教官の出した条件なんだよ。いいか、これは教官命令だ」

 ふくれ顔のまま再び仁王立ちのポーズをとる咲に、みさぎは緊張を走らせる。

「僕たちは今日から部活動に入部する。顧問こもんは教官で、ハロン戦までの期間限定だ」

 両手を横に広げて演説よろしく説明する咲は、再び三人を見渡した。

「俺パス」

 けれど、湊はあっさりと断ってしまう。
 みさぎも彼に同意したかったが、とりあえず様子を見た。できるなら男子だけの話にして欲しいと思う。

「兵学校のノリはちょっと……」

 湊が溜息を吐き出しながら咲から目を逸らす。湊ことラルフォンは、ターメイヤで兵学校を出てはいない。彼の戦術は傭兵ようへいをしていたパラディンの父親から教えられた技術と、実戦で得たものだ。

「何だよ湊、みさぎもいるんだぞ?」
「えっ、私も入ってるの?」

 流れが嫌な方に向いている気がしたけれど、やはりそういう話らしい。
 肩を落とすみさぎに、咲がビシリと人差し指を叩き付けた。

「当たり前だ。智を相手にあんな戦い方をしたお前が入っていないわけがないだろ」
「えぇぇ。だからあの時来ないでって言ったでしょ?」
「それは昨日謝っただろ? この部活の目的は、戦力──つまり個人の体力の底上げが目的だ。僕がそれを達成できたら、ハロン戦に加わってもいいって言われたんだ。僕だって喜んでこんな提案してるわけじゃないんだ。後二ヶ月を切った今、やらなきゃならないだろ? これはハロン戦で勝利するための部活動なんだからな。教官命令に従ってもらうぞ」
「それは、そうなんだけど……」

 重苦しくなる空気の中、智だけが一人楽しそうに声をはずませる。

「いいんじゃない? みんなでやれば。教官だって昔みたいに拷問ごうもんしようなんて思ってないだろ? いや、するかもしれないけど……まぁどうにかなるって」

 元から体力のある彼にとっては、楽しいサークル活動のような感じなのだろうか。
 みさぎは一ミリも気が乗らなかった。

 けれど嫌顔の湊が渋々「仕方ないな」と同意したのは、『みさぎが一緒だから』という理由よりも『みさぎの実力不足』のせいだろう事が分かって、みさぎは「えぇぇ」と悲痛な声を上げる。

 智と戦った後、『体力をつける』と言って始めた日課のマラソンも、大した距離を走ってはいない。日を追うにつれ体力がつくどころか、だんだん距離が短くなって疲労だけが蓄積していた。
 雨だからと都合のいいことを言って休んだのは、昨日の事だ。こんなにも雨が降って良かったと思ったことはないかもしれない。

 ギャロップを優しい人だと思っていたのは、直接彼がウィザードのリーナに関与していなかったからだ。兵学校卒の皆が口を揃えて彼を『鬼の宰相』だという理由を頭に浮かべて、みさぎは戦々恐々と背中を震わせる。
 彼が顧問の部活だなんて、不安しかない。

「みさぎもいいな?」
「う、うん」

 仕方なく返事した声は、ビュウと吹いた風に掻き消えた。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

TS転移勇者、隣国で冒険者として生きていく~召喚されて早々、ニセ勇者と罵られ王国に処分されそうになった俺。実は最強のチートスキル持ちだった~

夏芽空
ファンタジー
しがないサラリーマンをしていたユウリは、勇者として異世界に召喚された。 そんなユウリに対し、召喚元の国王はこう言ったのだ――『ニセ勇者』と。 召喚された勇者は通常、大いなる力を持つとされている。 だが、ユウリが所持していたスキルは初級魔法である【ファイアボール】、そして、【勇者覚醒】という効果の分からないスキルのみだった。 多大な準備を費やして召喚した勇者が役立たずだったことに大きく憤慨した国王は、ユウリを殺処分しようとする。 それを知ったユウリは逃亡。 しかし、追手に見つかり殺されそうになってしまう。 そのとき、【勇者覚醒】の効果が発動した。 【勇者覚醒】の効果は、全てのステータスを極限レベルまで引き上げるという、とんでもないチートスキルだった。 チートスキルによって追手を処理したユウリは、他国へ潜伏。 その地で、冒険者として生きていくことを決めたのだった。 ※TS要素があります(主人公)

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...