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7章 足りないもの

94 足りないもの

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 短い対峙たいじからの攻撃。
 智が、赤い炎を貼り付けた刃を肩上にかざして向かって来る。

 みさぎは白い炎を彼に対して放った後、ロッドを剣よろしく両手で構え攻撃を待ち構えた。
 直接ダメージを与えることのできない炎は威嚇いかくでしかない。けれどロッドで物理的に刃を押さえ込むことはできる。

 ダルニーの剣に対抗するのがダルニーのロッドでは矛盾の関係になってしまうが、折れなければ問題ない。

「湊くんの剣は折れたけど……」

 あれは劣化だからだと自分を納得させて、みさぎは智の刃を顔の前で勢いよく受け止めた。

 ジンと響いた腕が痛い。
 強い。
 圧倒的な腕力の差だ。

 目前で揺らめく炎の熱に目を細め、みさぎは魔力を上げて衝撃をこらえた。
 魔法のダメージがないと言っても剣が当たれば痛いし、戦闘時間が長引けば長引くだけ体力はり減る。

 けど、まだ大丈夫だ。
 みさぎは文言を唱えて白い炎をロッドに走らせた。

 智は余裕の顔で、一度離した刃をもう一度ロッドへ打ち付ける。
 痛みは爪先にまで響いた。
 ロッドを放しそうになる手に力を込めて、よろめいた足を踏ん張らせる。

「くうっ」

 智は得意の剣捌けんさばきで、三度四度と攻撃を繰り返してきた。

「リーナ、強いじゃん。こんなに戦うの好きだったっけ」
「魔法使いが戦うのを好きなのは本能だって、昔ルーシャが言ってたよ」

 記憶が戻る前のみさぎが聞いたら驚くだろう。以前のみさぎはゲームやアニメの戦士に憧れていたけれど、自分が戦うことになろうとは思ってもいなかった。

「本当だよね、俺も自分でそう思うよ」

 けれど力は復活したものの、今こうして彼の剣をはばむのがやっとだ。
 ここからの攻撃はどうすればいいだろうか。

 踏ん張っていられるのにも限界がある。
 彼の力にズズッと足が後ろへと地面を滑った。

「押されてる?」

 まだほんの少し戦っただけなのに、足りないものが露呈ろていした。
 物理的な力と、体力──のうのうと女子高生生活を送っていたみさぎの身体が、リーナとしての戦闘感覚についていくことができない。
 予想していなかったわけではないけれど、リーナとこんなに違うのか。

 けれど、負けなんて認めたくなかった。劣勢れっせいになっても尚、戦いをやめようとは思わない。
 湊も咲も、そこで見ている。

「私は勝ちたい!」

 ムキになって叫んで、みさぎは左手をロッドから放し、智へ向けて文言もんごんと共に光を飛ばした。
 ボールのような光の球が三つバラバラに智を襲う。

「おっと」

 直撃はしない。計算通りだ。
 光を避けた智と距離が生まれて、みさぎは「よし」と勝機を見る。

「行けっ」

 叫んだ後に唱えた言葉は、さっき地面に沈めた魔法陣を発動させる文言だった。
 智の足がちょうどその上を踏んで、草の上ににじみ出た円形の文字列が地雷のようにドンと破裂する。

 「うわぁ」と叫んだ彼の身体が大きく跳ねる。
 智はぐるりと受け身を取って草の上に転がると、すぐに態勢を整えた。
 振り向いた瞳が、黒く焦げた地面を凝視ぎょうしする。

「びっくりしたぁ」

 驚愕きょうがくに目をぎゅっと目を閉じた智に、みさぎは「やったぁ」とはしゃぐ。

 昨日の夜に読んだ、青い魔導書に載っていた魔法だ。
 補助的なものだけれど使えそうだと思って暗記してきた。
 寝不足の甲斐があるというものだ。
 もちろん模擬戦の今は彼にダメージを与えることはできないが、「すごいよリーナ」と笑顔を見せる智に、嬉しくなってしまう。

 しかし、これで勝てそうな気がすると思ったのは一瞬だけだった。体力の減り方が尋常じんじょうじゃない。

「つ、疲れた……」

 気が緩んで、つい本音を零す。彼の耳には届いていないようだ。
 最後まで立っていられるかどうかと、みさぎが不安に駆られたところで、智が再び剣を構えた。





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