いもおい~日本に異世界転生した最愛の妹を追い掛けて、お兄ちゃんは妹の親友(女)になる!?

栗栖蛍

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6章 隠し扉の向こう側

82 お兄ちゃんといっしょ

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 ともが復帰した水曜日の昼休み、廊下に貼り出された紙を見て、みさぎは愕然がくぜんと肩を落とした。

「何で……」

 理由は、予告なしで中條なかじょうが貼った、中間テストの順位表だ。
 鬼の宰相さいしょう・ギャロップメイこと一年担任・中條明和めいわの方針で、クラス全員が順位付けされている。

 各学年一クラスしかないのにそんなものが廊下に貼り出されては、下位の生徒からすれば公開処刑ものだ。
 みんながそろそろだろうと待ち構えた矢先、最初に紙を見つけた鈴木が大声で騒ぎ、クラスメイトが一斉に廊下へ飛び出る。

 一位は勿論もちろんみなとだ。咲もハロン戦の疲れなどものともせず、真ん中より上の七位をキープしている。
 予想はしていたけれど、みさぎは数学八十五点の甲斐かいもなく十六人中十一位。ハロン戦を言い訳にして後悔はない数字だが、

「何で智くんがそんなに上なのよ」

 入院していた智があやの監視の元、病室でテストを受けたのは知っていた。
 けれど本人が不意打ちだったと言っていたから、みさぎは勝手に自分と同じくらいだろうという仲間意識でいたのだ。
 それなのに彼の名前は三位という、みさぎよりも遥か上の順位を付けている。

「お前、頭いいんだな」

 「へぇ」と感心する湊に続いて、咲も「カンニングしたんだろ」と茶々を入れる始末だ。

 復帰初日の彼は痛みも大分引いたという事で、いつも通りの笑顔を見せている。ただ入院中からしている胸の包帯のせいでネクタイはせず、シャツの上のボタンが開いたままだ。

「カンニングなんてしてねぇよ。たまたま知ってるとこが出ただけ。前の学校じゃ真ん中くらいだったし」
「じゃあ、たまたま運が良かったんだね」

 二学期から転入してきた智の事を、そういえばあまり知らないことに気付いて、みさぎは「そうなんだ」と彼を見上げた。なのにこのホッとした気持ちを、一分も経たぬうちに後悔することとなる。

「お前、ここ来る前は学校どこだったんだ?」
東桃とうおうだよ、東桃学園。広井町まで行ってたんだぜ」

 何気なく聞いたその答えに、質問した湊が「はぁ?」と声を上げる。

「東桃やめて、わざわざここ来たの?」
「頭いいんだね、智くん……」

 智の三位は運じゃない。
 高校のレベルなんてあまり興味のないみさぎでさえ、それは分かる。
 仲間意識を抱いていた自分が恥ずかしくなって、みさぎは唇をぎゅっと結んだ。

 けれど当の本人は、高校がどこかなんて気にもしていない様子だ。

「俺、勉強そんなに好きじゃないし、こっちの方が近くて朝寝てられるからいいよ。大体、お前たちに会うために生まれ変わったんだしな」

 小声で言って、智は嬉しそうに笑った。

「東桃ってことは、れんと同じか」

 ふと咲がそんな話をして、みさぎは肩をすくめた。

「咲ちゃん詳しいね。お兄ちゃんと、そういう話もするんだ」
「まぁな」
「へぇ。みさぎのお兄さんて大学生だよね。じゃあ、今は東桃大ってこと?」
「う、うん」

 その話は正直して欲しくない。
 蓮は昔から成績が良く、どうしても比べられてしまうみさぎはいつも辛い思いをしている。

「蓮て頭いいのか。僕はここ以外考えてなかったから、町の高校のレベルなんて分からないよ。そんなに凄いのか?」
「まぁうちの県だと一番じゃないか? けど智、良く親御おやごさんが許してくれたな」
「俺三男だから。まぁ最初は驚かれたし反対されたけど、大学には入るって誓約書書いたから」
「大学は東桃に戻るってこと?」
「そういうこと」
「大変だな。まぁ俺も似たようなものか」

 湊は溜息を漏らした。
 そんな智より成績が上の湊は、『使命を果たすため』とはいえ、こんな辺ぴな高校を受けるとなれば家でひと悶着もんちゃくあっただろう。

 何だか次元の違う話になってきた気がして、みさぎは苦笑いする。

長谷部はせべ凄いなぁ。東桃から来たのかぁ」

 横から突然会話に入り込んできたのは、クラスの盛り上げ役鈴木だ。側でみさぎ達の話を聞いていたらしい。
 カッコつけてクルリと払った前髪に女子は誰もときめかないが、今回の中間テストの結果で湊と智の間に並ぶのが彼の名前だった。

「まぁ俺にはちょっと及ばなかったみたいだけど、その怪我のハンデ分、僕も油断は禁物ってことだ」

 あぁこういう所が鈴木のモテない理由なんだなと、みさぎは一人納得した。
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