57 / 190
5章 10月1日のハロン
53 電話の向こうの彼の声
しおりを挟む
昨日の朝に学校を休むとメールしたまま何も報告できていないことに後ろめたさを感じて、みさぎは咲に電話をした。
連休初日の朝、湊に『おはよう』とメールすると、『おはよう』とすぐに返事が来たが、それで終わってしまった。
本当は会いたいと思ったけれど、今日は家の用事があるらしい。明日と明後日は山にこもると言っていたから邪魔することもできず、咲が暇ならどこか遊びに行くのもいいなと期待してしまう。
けれど、まずは本題だ。
『みさぎ、どうした?』
最初の声は、いつもと変わりない。
昨日のウソはバレているから怒っているかもしれないと思ったが、そうでもないようだ。
みさぎはホッとしてスマホを両手で握りしめた。
「おはよう、咲ちゃん。昨日の事だけど……」
『昨日? あぁ、サボりのことな。湊といたんだろ?』
「う、うん。ごめんね、ちゃんと言えなくて」
『気にするなよ』
いつもなら不貞腐れた態度を取られてもおかしくないのに、やたら大人しい咲に拍子抜けしてしまう。
「昨日ね、湊くんに好きって言って貰えたの」
『――そうだったんだ』
流石に驚いたようだったけれど、それも一呼吸分の沈黙で終わってしまう。
『みさぎも湊が好きだったんだろ? 良かったじゃん』
「う、うん」
いつもとは別人のような咲に、調子がくるってしまう。
「ねぇ咲ちゃん、何かあった?」
『えっ? 何で?』
咲の声が上ずって、みさぎは怪しいと勘ぐるが、そんな時に階段を上る蓮の足音がドカドカと響いた。
「ちょっとお兄ちゃんうるさい! 今電話中だから静かにして!」
廊下に向かって大きく叫ぶと、「はぁい」と声がして音がやんだ。
「ごめんね、咲ちゃん。うちのお兄ちゃん、足音うるさすぎ」
ガサツでアニメオタクなのに、彼女がほぼ途切れることのない蓮が、みさぎには理解できなかった。
前の彼女と別れてからは数か月一人だったけれど、最近また相手をみつけたのはスマホをいじる頻度で良く分かった。
『いや、気にならないからいいよ』
気を使ってくれる咲に申し訳ないと思いつつ、みさぎは朝から溜めてきたうっぷんを愚痴る。
「聞いてよ、咲ちゃん。お兄ちゃん今朝、朝帰りしたんだよ? あれ絶対に彼女と一緒だったと思うんだよね。聞いても全然教えてくれないのに、やたら浮かれてて」
『う、浮かれてたのか』
動揺する様な咲の声が気になりつつ、みさぎは話を続ける。
「そうなんだよ。朝から鼻歌歌ってたもん」
『へぇ』
蓮の鼻歌を思い出したら背中がザワザワとして、みさぎは首を震わせた。
『けど、昨日はみさぎが浮かれてたんじゃないのか?』
「そうかなぁ。そんなことないと思うけど……」
湊の顔を思い出すと、否定できなくなってしまう。けれどそう言う事にしておいて、みさぎは話題を変えた。
「それでね、智くんと話がしたいなって思うんだけど、どう思う? お祭りが終わってからって思ってたけど、やっぱり言わなきゃならないかなって」
智に気持ちが変わったら教えて欲しいと言われている。今の気持ちのまま、それを後伸ばしにしてしまうのは、彼に対して悪いと思った。
『そうだな、ちゃんと言った方がいいのかもしれないな』
「うん」
『みさぎ、今日は湊に会わないのか?』
「うん。家の用があるらしくて。あとの二日は修行するって」
『そうか。だったら、今日智に会いに行ってみるか?』
「えっ……今日?」
時計を見ると、もう昼に近い。
『あぁ。湊が居ないなら、アイツ一人であの広場に居ると思うよ。私、麓の所で待ってるから、一緒に行こうよ』
咲の提案に、みさぎは少し考えて「じゃあ、行く」と答えを出す。
自分の気持ちも伝えなければならないけれど、それ以外に智と話したいことがあった。
『決まりだな。じゃあ駅で待ってるから、電車決まったら教えて』
「わかった。また後でね、咲ちゃん」
通話を切ったみさぎは、一人で「よし」と気合を入れた。
連休初日の朝、湊に『おはよう』とメールすると、『おはよう』とすぐに返事が来たが、それで終わってしまった。
本当は会いたいと思ったけれど、今日は家の用事があるらしい。明日と明後日は山にこもると言っていたから邪魔することもできず、咲が暇ならどこか遊びに行くのもいいなと期待してしまう。
けれど、まずは本題だ。
『みさぎ、どうした?』
最初の声は、いつもと変わりない。
昨日のウソはバレているから怒っているかもしれないと思ったが、そうでもないようだ。
みさぎはホッとしてスマホを両手で握りしめた。
「おはよう、咲ちゃん。昨日の事だけど……」
『昨日? あぁ、サボりのことな。湊といたんだろ?』
「う、うん。ごめんね、ちゃんと言えなくて」
『気にするなよ』
いつもなら不貞腐れた態度を取られてもおかしくないのに、やたら大人しい咲に拍子抜けしてしまう。
「昨日ね、湊くんに好きって言って貰えたの」
『――そうだったんだ』
流石に驚いたようだったけれど、それも一呼吸分の沈黙で終わってしまう。
『みさぎも湊が好きだったんだろ? 良かったじゃん』
「う、うん」
いつもとは別人のような咲に、調子がくるってしまう。
「ねぇ咲ちゃん、何かあった?」
『えっ? 何で?』
咲の声が上ずって、みさぎは怪しいと勘ぐるが、そんな時に階段を上る蓮の足音がドカドカと響いた。
「ちょっとお兄ちゃんうるさい! 今電話中だから静かにして!」
廊下に向かって大きく叫ぶと、「はぁい」と声がして音がやんだ。
「ごめんね、咲ちゃん。うちのお兄ちゃん、足音うるさすぎ」
ガサツでアニメオタクなのに、彼女がほぼ途切れることのない蓮が、みさぎには理解できなかった。
前の彼女と別れてからは数か月一人だったけれど、最近また相手をみつけたのはスマホをいじる頻度で良く分かった。
『いや、気にならないからいいよ』
気を使ってくれる咲に申し訳ないと思いつつ、みさぎは朝から溜めてきたうっぷんを愚痴る。
「聞いてよ、咲ちゃん。お兄ちゃん今朝、朝帰りしたんだよ? あれ絶対に彼女と一緒だったと思うんだよね。聞いても全然教えてくれないのに、やたら浮かれてて」
『う、浮かれてたのか』
動揺する様な咲の声が気になりつつ、みさぎは話を続ける。
「そうなんだよ。朝から鼻歌歌ってたもん」
『へぇ』
蓮の鼻歌を思い出したら背中がザワザワとして、みさぎは首を震わせた。
『けど、昨日はみさぎが浮かれてたんじゃないのか?』
「そうかなぁ。そんなことないと思うけど……」
湊の顔を思い出すと、否定できなくなってしまう。けれどそう言う事にしておいて、みさぎは話題を変えた。
「それでね、智くんと話がしたいなって思うんだけど、どう思う? お祭りが終わってからって思ってたけど、やっぱり言わなきゃならないかなって」
智に気持ちが変わったら教えて欲しいと言われている。今の気持ちのまま、それを後伸ばしにしてしまうのは、彼に対して悪いと思った。
『そうだな、ちゃんと言った方がいいのかもしれないな』
「うん」
『みさぎ、今日は湊に会わないのか?』
「うん。家の用があるらしくて。あとの二日は修行するって」
『そうか。だったら、今日智に会いに行ってみるか?』
「えっ……今日?」
時計を見ると、もう昼に近い。
『あぁ。湊が居ないなら、アイツ一人であの広場に居ると思うよ。私、麓の所で待ってるから、一緒に行こうよ』
咲の提案に、みさぎは少し考えて「じゃあ、行く」と答えを出す。
自分の気持ちも伝えなければならないけれど、それ以外に智と話したいことがあった。
『決まりだな。じゃあ駅で待ってるから、電車決まったら教えて』
「わかった。また後でね、咲ちゃん」
通話を切ったみさぎは、一人で「よし」と気合を入れた。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説

TS転移勇者、隣国で冒険者として生きていく~召喚されて早々、ニセ勇者と罵られ王国に処分されそうになった俺。実は最強のチートスキル持ちだった~
夏芽空
ファンタジー
しがないサラリーマンをしていたユウリは、勇者として異世界に召喚された。
そんなユウリに対し、召喚元の国王はこう言ったのだ――『ニセ勇者』と。
召喚された勇者は通常、大いなる力を持つとされている。
だが、ユウリが所持していたスキルは初級魔法である【ファイアボール】、そして、【勇者覚醒】という効果の分からないスキルのみだった。
多大な準備を費やして召喚した勇者が役立たずだったことに大きく憤慨した国王は、ユウリを殺処分しようとする。
それを知ったユウリは逃亡。
しかし、追手に見つかり殺されそうになってしまう。
そのとき、【勇者覚醒】の効果が発動した。
【勇者覚醒】の効果は、全てのステータスを極限レベルまで引き上げるという、とんでもないチートスキルだった。
チートスキルによって追手を処理したユウリは、他国へ潜伏。
その地で、冒険者として生きていくことを決めたのだった。
※TS要素があります(主人公)


(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉
まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。
貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる