いもおい~日本に異世界転生した最愛の妹を追い掛けて、お兄ちゃんは妹の親友(女)になる!?

栗栖蛍

文字の大きさ
上 下
54 / 190
4章 決断

51 キスなんてできるわけない

しおりを挟む
「アイツは僕の妹だったんた」

 震える唇を固く結んで、さきれんの反応を待った。
 蓮は驚きつつも言葉を探すように視線を漂わせ、つかんでいた手を咲から離した。
 落ちるようにソファへ座ると、「咲ちゃんも」と促してから話を始める。

「もしその話が本当なら、俺が知ってもいい事なの? みさぎは何も……」
「アイツはまだ記憶を取り戻してないんだ」

 実際は咲が思い出させていないから――とあやに言われている。

「記憶を戻してなくても、みさぎが別の世界から来たんだって咲ちゃんには分かるんだ」
「うん、一目で分かった。まぁ来たって言っても中身だけだけどな。僕だって今の母親から生まれて来てるし、自分は日本人だと思ってるよ」

 ヒルスはこっちでのハロン戦の詳細を聞かずに日本へ転生している。ルーシャに『普通に過ごしていれば会える』と言われて、ずっとその時を待っていた。

 高校入試の時にみさぎとみなとに気付いて、この間ようやく智にも会えたけれど、大人組の四人には気付くことができなかった。
 湊なんて智にしか気付いていないようだし、感覚の鋭い魔法使いの智でさえ確信を持てたのは湊だけで、記憶に関しては個人差があるようだ。

「だよね。みさぎが生まれた時の事って、俺覚えてるもんな」
 
 蓮は頭をぐるぐるとひねりながら、一つ一つの話に相槌あいづちちを打っていく。

「これを蓮に話して良いのかなんて僕には分からないけど、蓮になら話してもいいのかなと思った。だけど、みさぎにはまだ言わないでいてくれるか?」
「あぁ、わかった。他にもその仲間はいるの?」
「いるよ。結構いて僕も驚いてる」
「そうなんだ。何か楽しそうだけど、転生って何か理由があって来たんじゃないの? 地球でスローライフ送りに来たわけじゃないんでしょ?」

 鋭い。流石アニメ好き男子だ。そこはあまり触れないで欲しかった。

「なら、使命を果たしに来たって言ったらカッコ良く聞こえるか? 詳しくは話せないけど」

 こんな時だけど、嫌なヤツの言葉を借りた。智が転校してきた日だったか、湊に何で白樺台高校を受験したのか聞いて、アイツはそう答えたのだ。

 ――『俺は、使命を果たすためにここに来たんだ』

 その言葉が一番適当な気がしたけれど、実際咲には湊のような重大な使命はない。

「咲ちゃんやみさぎも戦ったりするの? 使命って……そう言う事でしょ?」
「僕は弱いから前線には出れないけど、もしみさぎが記憶を戻したら、アイツに勝てる奴なんて誰も居ないよ。みさぎは強いぞ。本当に僕の妹なのかって疑うくらい」
「俺の妹も、戦う女なんて程遠い感じだけど」
「だろ? 昔もそうだった。あんななのに強かったんだ。けど心配するな、アイツのことを守ってくれる奴はちゃんといるから」
「それってもしかして、眼鏡かけた同級生? 名前忘れたけど」

 この間雨が降った時、湊がみさぎを送っていって、蓮に会ったと言っていた。

「うん、アイツは強いんだ」

 向こうでのハロン戦とは比べ物にならないくらい強くなっている。認めたくはないけれど、認めざるを得ない。

「そうなんだ……」

 蓮が話を飲み込み切れずにいるのは、その表情を見てもよく分かる。
 けれど咲は自分が異世界から来たということを話せただけで、心がスッと軽くなった。

「嘘みたいだって思うよな。そりゃそうだよ」

 逆に二つ返事で納得される方が胡散臭うさんくさい。
 みさぎも湊と智の話を聞いた時、否定しようとはしなかった。「似てるのかな」と嫉妬しっとを含んで呟いて、咲はリーナを頭に描く。

「みさぎはリーナって名前だった。僕はリーナが大好きだったんだ。もちろん今もみさぎが好きだけど。異世界に行くリーナと離れたくなくて、僕は無理矢理ついてきた。けど、リーナの好きなアイツが先に来てたし、兄妹として生まれることはできないと分かったから、それなら親友になれたらいいなと思って女に生まれ変わらせてもらったんだ」

 リーナ、と音にしただけで懐かしさが込み上げる。
 リーナにまた会いたくて、ヒルスはこの世界に来た。未来を決める鍵だとか、そんな重たい理由を背負ったつもりはなかった。

「僕はまたリーナに会いたかったんだよ」
「そっか。じゃあ、また会えたんだね。親友ならもう叶ってるじゃん。アイツ家では咲ちゃんの話ばっかりするからね」
「うん」

 咲は大きくうなずいて、笑顔を広げた。

「だったらさ、前に咲ちゃんが俺に会いたいって言ってくれたのは? 最初の時、俺に会いたいって理由でウチに来たんだよね」

 その理由をまだ話していなかった。
 最初の目的は、蓮に対し敵対心き出しで挑んだ奇襲きしゅう作戦のようなものだったが、そんな気持ちは会ってすぐに消えてしまった。

「僕は、アイツに僕以外のお兄ちゃんが居るって聞いてショックだった。どんな奴なのか確かめてやろうと思ったんだ」
「あはは、そうだったんだ。それで? 俺はリーナの兄さんから見て何点くらいだった?」

 最初に浮かんだのは八十点だ。けれど、そんな高いのはおかしいと自分で否定して、咲はマイナス点を付ける。

「七十点」
「やった、結構高いじゃん」
「おまけだからな?」

 もう少し低くすればよかったと後悔する咲に、蓮は「わかったよ」と嬉しそうに言って立ち上がった。

「ちょっとベランダいってくる。咲ちゃんも来る?」
「行く!」

 ベランダの窓を開けると広めのバルコニーがあって、その奥には夜景が広がっていた。
 強めの風が咲の長い髪をあおる。

「わぁ、めちゃくちゃ高いな」

 大都市だとそうでもないのかもしれないが、そこそこ都会の十階から見下ろす景色は、遮るものがなく壮観だった。
 手すりをつかんで空を仰ぐと、雲の少ない藍色の空に細い月が浮かんでいた。

「前いた世界にも月はあった?」
「あぁ。こっちより少し小さかった気がするけどな」

 急にテンションを上げてはしゃぎだす咲に、蓮は「良かった」と安堵あんどする。
 咲は顔を隠そうとする自分の髪をかき上げて、彼を見上げた。

「本当は今日、蓮に会いたくなかった。会ったらきっと、この間みたいに泣きたくなると思ったから」
「泣きたいときは泣いていいんだよ?」
「いや、もう大丈夫。ちょっと自信がなかったけど、今は会えて良かったって思ってる」
「そう言って貰えると嬉しいよ」
「けどさっき言ったことは無理に受け入れてくれなくてもいいんだからな? 蓮に聞いてもらえただけで僕は満足だ。ありがとうな」

 絢の所に行った時の鬱々うつうつした気持ちはもうすっかり消えている。数時間前の事だなんて嘘のようだ。

「どういたしまして。けど咲ちゃんやみさぎが異世界から来たのは分かったからいいとして、悩んでたのは解決してないんじゃないの?」
「うん、全然解決してないけど。なんだろな、もう大丈夫……ってわけでもないけど、蓮と居たら落ち着いた。今日は何か色々あって、一人で夜を過ごすのが嫌だったんだ。そしたら駅に調度電車が来て、気付いたら飛び乗ってた。誰かと話したいなって思ったら、相手が蓮しか浮かばなかったよ」

 「会えるとは思わなかったけど」と咲はほおいた。

「俺で良かったら相談相手でも泣きつく相手にでもいつでもなるよ。俺が力になれればって思うから。確かに咲ちゃんが男だってのは信じきれてない所はあるし、異世界の話だって百%そうなんだってうなずいてあげることはまだできないけど、咲ちゃんがこういう時嘘つかないだろうっては信じてるから」
「それって矛盾むじゅんしてないか?」
「うん、混乱してる」

 ベランダの手すりにひじをついて、蓮は咲を振り返った。

「けどさ、そういう相手って、咲ちゃんの中では彼氏ってことにはならないの?」
「――え?」

 苦笑する蓮に、咲は困惑してしまう。胸の前に握り締めた手にぎゅっと力がこもった。

「か、彼氏ってのは……僕は男だし。僕が男を好きだって言ったら、おかしいだろ?」
「おかしくはないと思うけど?」

 ――『ムリムリ、無理だって。幾ら可愛くたってさ、お前となんかキスできないもん』

 昼間、智にそれを言われたばっかりだ。中身が男なのだから、至極当たり前の反応だと思う。
 本当は男だから――記憶を取り戻してから、ずっと自分にそう言い聞かせてきた。

「だってさ、蓮は僕とキスできないだろう?」
「…………」

 試すように言った咲の言葉に、蓮はきょとんと目をまたたかせる。
 そうだろう? と咲は頷く。目の前の女が実は男だと再確認すれば、頭が冷静になるはずだ。
 なのに蓮はそこから咲との距離を詰めて、緩く笑顔を見せる。

「できるよ」

 蓮は正面から咲を抱き寄せて、そのまま唇を重ねた。

「ちょっ……」

 全身に走ったゾクリとした衝撃に、咲は思考停止して目を見開いたまま固まってしまう。
 離れたいと思っても、身体が言う事を聞いてはくれなかった。
 やたら長く感じた数秒の後、ようやく視界に蓮の表情が戻って来る。

「何で、ホントにするんだよ。初めてだったんだぞ?」

 咲は泣き出しそうな顔でうったえた。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

TS転移勇者、隣国で冒険者として生きていく~召喚されて早々、ニセ勇者と罵られ王国に処分されそうになった俺。実は最強のチートスキル持ちだった~

夏芽空
ファンタジー
しがないサラリーマンをしていたユウリは、勇者として異世界に召喚された。 そんなユウリに対し、召喚元の国王はこう言ったのだ――『ニセ勇者』と。 召喚された勇者は通常、大いなる力を持つとされている。 だが、ユウリが所持していたスキルは初級魔法である【ファイアボール】、そして、【勇者覚醒】という効果の分からないスキルのみだった。 多大な準備を費やして召喚した勇者が役立たずだったことに大きく憤慨した国王は、ユウリを殺処分しようとする。 それを知ったユウリは逃亡。 しかし、追手に見つかり殺されそうになってしまう。 そのとき、【勇者覚醒】の効果が発動した。 【勇者覚醒】の効果は、全てのステータスを極限レベルまで引き上げるという、とんでもないチートスキルだった。 チートスキルによって追手を処理したユウリは、他国へ潜伏。 その地で、冒険者として生きていくことを決めたのだった。 ※TS要素があります(主人公)

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...