いもおい~日本に異世界転生した最愛の妹を追い掛けて、お兄ちゃんは妹の親友(女)になる!?

栗栖蛍

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1章 異世界から来た二人

11 そしてお兄ちゃん

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 みさぎの声に振り向いたのは、兄のれんだ。
 大学生の彼はあと少し夏休みが残っている。片手に傘を二本ぶら下げて、どうやら迎えに来てくれたらしい。

 「お帰り」と言った蓮は、みさぎの横に湊の姿を見つけて、いぶかし気に頭を下げた。
 誰だろうと探る蓮の視線に、湊は改札横のついたて越しに向き合って、「こんにちは」と挨拶する。

「同じクラスの相江湊あいえみなとくん。電車が一緒だから送ってもらったの」

 雨が降り出してすぐ、蓮から大丈夫かとメールが来ていた。もう帰るからと返事したきりだったが、心配して来てくれたらしい。
 蓮はあきれ顔をみさぎに送ると、改めて湊に礼を言った。

「雨降ったから泣いてるんだろうと思ったけど、良かったな。わざわざ送ってもらってすみません」
「気にしないで下さい。じゃあ、俺はここで。荒助すさのさん、また明日ね」
「うん、ありがとう湊くん」

 きびすを返した湊の背中に、蓮が「あの」と声を掛ける。

「うちの妹、こんなんですけど。よろしくお願いします」
「こんなって何よ」

 みささぎがほおを膨らませると、蓮は「こんなんだろ」と笑う。
 そんな二人の様子に、湊が不思議そうな顔をした。

「仲良いんですね」
「まぁ、兄妹だしね」
「そう……ですね。わかりました。じゃあまた、雨が降ったら送ってきます」
「よろしくな」

 満足そうな蓮の笑顔とみさぎの「またね」を背に、湊はホームの奥へと戻って行った。

   ☆
「俺来たのマズかった?」

 広井駅からみさぎの自宅までは徒歩で十分ほどだ。車の少ない路地を選んで、みさぎと蓮は傘を片手に並んで歩いた。

「どうして?」
「だってお前、彼氏に家まで送ってもらうつもりだったんだろ?」
「彼氏って。湊くんはそういうのじゃないよ」

 動揺するみさぎに、蓮は「あぁそうか」と一人で納得して、ニヤリと口角を上げた。

「まだ告白してないってことか。いじらしいな」
「だから、そういうのじゃ……」
「馬鹿か、お前は」

 必死に否定する妹を、蓮はバッサリと切り捨てる。

「お前、アイツの前で雨が怖いって言ったんだろ? それで家まで送ってくれようとするなんて、向こうは好きってことなんじゃないの?」

 いつもながらに兄は単純だ、とみさぎは思う。その言葉がまかり通るなら、送ってくれると言った咲や智もそうなってしまう。
 ムスリとふくつらをするみさぎに、蓮は「怒るなよ」と笑った。

「まぁ別に、彼氏作るのくらいいいんじゃねぇの? 雨が苦手なのも全然治らないしな。誰かと一緒だと落ち着くみたいだし、今日は帰ったらゲームでもしようぜ」
「うん。お兄ちゃんには負けないからね」

 蓮の言葉がみさぎの胸に妙に刺さった。
 確かに誰かといると雨に対する抵抗感は薄れる気がする。

「何でなのかな……」

 みさぎがいくら考えたところで、その答えは出なかった。


   ☆
 シナモンは戦闘の前に渡される丸薬の味に似ていた。
 あれを食べるとしばらくの間空腹を紛らわすことができるから、ターメイヤの兵なら好んで食べる味だが、リーナは嫌いだと良く言っていた。

「貴方まだ帰らないの?」

 結局咲は店に戻って、かれこれ一時間が経過した。他の生徒も流石にいなくなり、中は貸し切り状態だ。

 あやはエプロンを脱いで向かいに座ると、三個目のシナモンロールに手を付けた咲に「もぅ」と眉を寄せた。

「二個目からはちゃんとお金払ってもらうわよ」
「冗談じゃない。これはだまされた僕への慰謝料いしゃりょうみたいなものだよ」
「騙してなんかいないわよ。貴方が気付かなかっただけじゃない。鈍感なだけでしょ。ラルにあんなに喋らせて、二人が貴方だって気付くのも時間の問題なんじゃない?」
「聞きすぎたとは思ってるよ。けどね、昔の記憶なんて十七年も前の事だから、僕だって怪しいんだよ。今のうちに記憶のり合わせをしとかなきゃって思ってさ」

 咲はんできた水をごくごくと一気に飲み干した。

「それで、記憶は合ってた?」
「まぁ大体ね。それより――」

 テーブルに乗りそうなほどの絢の巨乳を一瞥いちべつして、咲は改めて彼女に訴える。

「アンタは昔、時間移動はできないって言ってたよね? なのにどうして僕たちより年上なんだ? 僕はそこにニュータウンができて親が家を買ったからこの町に住んでる。元は広井町に居たからね。それが五年前。アンタはいつからここに居るんだよ」
「そんなの企業秘密よ」

 絢はすました顔で、ツンととがらせた唇に人差し指を当てた。

「何だよ、企業って」

 咲は諦めきれない顔をしたまま、窓の向こうの止まない雨を見つめた。
 みさぎはもう家に着いただろうか。一緒に帰ったのが湊だという事が不服だけれど、それでも無事であればいいと思ってしまう。

「アンタはどうしてリーナが雨を苦手か知ってるか?」
「さぁ」
「あいつが最後にハロンと戦った時、こんな雨が降ってたんだよ。記憶なんてない筈なのに、アイツ……」

 胸が苦しくなって、それを紛らわせるように咲はシナモンロールをかじる。
 絢は「やめなさい」と注意した。

「そんなに食べたら太るわよ。貴方の言う世の中の男ども全てから見向きもしてもらえなくなるでしょ」
「今はいいの」
「全く、相変わらずリーナの事ばっかりなのね、お兄ちゃん」
「黙れよ、ルーシャ」

 咲は絢をそう呼んで、ぷいと顔をらした。



  

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