いもおい~日本に異世界転生した最愛の妹を追い掛けて、お兄ちゃんは妹の親友(女)になる!?

栗栖蛍

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1章 異世界から来た二人

6 可愛い少女が異世界を救った話

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 湊と智がこの日本に生まれる前に生きていた世界は、異次元空間を挟んだ先にあるという。

「実際、俺もよく分かってないけどな」

 悪気ない笑顔を見せて、智は続けた。
 二人が居た国の名前は『ターメイヤ』。今みさぎたちがいる世界とは違い、魔法の存在する本の中のような所だ。
 二人は兵士で、ウィザードの側近だったらしい。

「ウィザード?」
「魔法使いの中でも最高位の存在……まぁ、強い人ってことだよ。あの日突然空が暗くなって、国が恐怖に飲まれた。ハロンって魔物が現れたんだ」

 智は表情を険しくして唇を噛んだ。

「強かった。本当に……俺なんて全然歯が立たなかった。生き残ったのが不思議なくらいだ。リーナが居なかったら、もうあの世界は消えていただろうな」
「リーナ?」
「俺たちが仕えたウィザードの名前だ」

 湊が横でボソリと呟く。過去を見つめる微睡まどろんだ瞳は、彼が電車で外を眺める表情に似ている。

「リーナってことは女性なの?」
「女性っつうか、女の子だな。初めて会った時、アイツは俺たちより年下の十四歳だったんだ」
「アイツだと?」

 咲が突然、智をギロリと睨みつけた。

「お前、自分が仕える相手をそんな呼び方するのか?」
「はぁ?」

 まるで鬼教官と生徒だ。
 智は彼女の反応に驚きながら、ボリボリとほおく。

「そりゃリーナはめちゃくちゃ強いウィザード様なんだけどさ。初めて会った時は小さくて、可愛くて、全然そんな感じじゃなかったんだよ」

 みさぎは自分より年下の彼女を想って息を呑んだ。魔術師とか魔法使いとか言うとカッコいい気がするけれど、戦うからには怪我もするだろうし死ぬことだってあるだろう。
 智がハロンとの戦いを口にすると、湊はうつむいたまま押し黙ってしまった。

「戦闘が長引いて、五分五分の戦いが続いた。最前線に立ったリーナは心身ともに疲弊ひへいしちまったんだ。力不足の俺たちにはどうしてやることもできなかった。だからそれ以上の戦闘続行を危惧きぐして、彼女の師だったウィッチの――ウィッチはまぁ魔女ってとこだな。そのルーシャって名前の彼女が最終手段をくわだてたんだ」
「最終手段?」

 一つ一つの説明を理解しようと必死に聞き入るみさぎの手を、黙った咲が膝の上でそっと掴んだ。
 彼女の手が震えている。智の話を聞いて怖くなったのだろうか。

「咲ちゃん?」

 返事はなかった。智を睨みつけたままの横顔が、今まで見た彼女の中で一番鋭く感じる。
 心配してみさぎがもう片方の手を彼女の上に重ねると、咲はハッとみさぎを振り返った。『ありがとう』とでも言うように少しだけ微笑む。

「異次元への隔離。つまり次元に触れることのできるルーシャの手を借りて、リーナはハロンを次元の外へと追っ払ったのさ」

 智は淡々と答えた。

「異次元って……本とかで言う異世界みたいなものなの?」
「いや違う。異世界だと、そこに住んでる人が居るだろう? その世界と世界の間に、広い隙間があるんだ。世界を部屋に例えるなら、それを繋ぐ廊下だって言えばわかるか?」
「廊下って。ムードないな」

 咲はみさぎの手をそっと離し、テーブルの外で足を組んだ。

「ムードとかいらねぇんだよ。分かればいいんだから」
「けどそれでターメイヤは平和になったんじゃないのか?」
「あぁ、平和になったよ。全部リーナのお陰だ。世界大戦も含めて何年も落ち込んでいた世界に、ようやく平穏が戻ったんだ」

 それで『ターメイヤの脅威』は一件落着したんだと言った智の口が、「けど」と陰る。

「終わりじゃなかった。未来を読む能力を持ったルーシャが……」

 そこまで言ったところで、智は急に言葉を切った。目を大きく開いたまま視線を宙に漂わせて、「やっぱりごめん」と零す。

「やめとくわ」
「はあっ? 何だよ。そこまで言って終わるなよ。未来を読むその女がどうしたんだよ。そうやって黙られると、私たちにとって相当都合の悪い事みたいじゃないか」
「咲ちゃん……」

 苛立つ咲の腕をつかんで、みさぎは「ごめんなさい」と謝った。

「言い辛い事なら言わなくていいよ。けど、二人が話してくれたことは信じる。嘘だなんて思えないから」
「みさぎちゃん……」

 きまり悪そうな顔をする智に、湊は「ばぁか」と呟いて溜息を漏らした。

「そこまで言ったんなら、終わらせるわけにいかないだろ? あることないこと勘ぐられる方が面倒なんだよ」
「そう……だよな、ごめん。大丈夫、俺たちがちゃんと守るから」
「守る?」
「異次元で消滅するだろうと言われてたハロンは、そこでそのまま生き続けたんだ。長い時間をかけて傷を癒し、出口を見つける。十七年後の未来――つまり、今年の十二月一日にこの町に現れるんだ」

 だからここに来たんだ――という話の末尾は、みさぎの悲鳴に近い叫び声に掻き消えてしまった。

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