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第4話 お城探索は攻め手の気分で
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私の足取りは軽くって、ルンルンで歩いた。私は歩こう~という歌の鼻歌まで奏でている。
そう言えば、この歌のアニメでも、主役の女の子が探検にでかけていた。縁起が良さそう。
そんな感じで機嫌よく歩いた。歩いていました、その時までは。
初めは小川沿いに森へ行こうとしたけれど、それではつまらないと川を外れて突き進んだ。
始めはよかった。生えている雑草も膝の高さまでもなく、足で払うように進んだ。
しばらくすると、小さい木のような、硬い草のような、少しばかり芯の強い植物が生えているようになった。
私は落ちていた木の枝で、それらの植物を払うようにして進んだ。
そして、ついには身の丈を覆うような草木が繁った場所になってしまった。
木の枝を振るっていた手には血豆ができていたし、薄い粗末なワンピースみたいな物しか身に着けていないせいで、四肢には草木で付けたスリ傷のようなものが、いくつもできていた。
これはまずいぞ。このまま進めば遭難まっしぐらだ。それに整備されていない道は平坦でもないし、障害物が多くて思っていたよりも体力を消耗する。
戻るのは癪だが、歩きやすい、雑草が膝下位まで伸びている所まで戻る事にした。
そこから森を横目に進み、中に入れそうな場所を見つけよう。
こういう心がくじけそうになっているときは、自分が城を攻め落としにきた武将だと妄想するに限る。
城の設計者に畏敬の念を抱きつつ、その人を上回る為に攻め続ける。
例えば今回のこの森。ここに城があった場合、築城した人はこの草木のバリケードを上手く利用して攻め手の侵入を防ぐとともに、その心身を疲弊させようとしているいるわけだ。
しかし、バリケードで囲まれていては、城から打って出ることが出来ない。ということは、どこかに出撃用の抜け道があるはずだ。私はそれを見つけて、城の内部に入り込む!そして勝つ!!
いいね、乗ってきたよ。
でも、頭の中の消極的参謀が声を掛けてくる。森に城なんてないんだから止めよう。お腹も空いたし、手足も痛いし、今日はもう、いいんじゃない。戦術的後退って選択もあるよ。
戦術的後退……否!
そんなわけには行かない。私は攻城戦において常勝なのだ。
頭の中で空想が暴走している時、現実では頭上に近づいた太陽が容赦なく陽を注ぎ、体から水分をもぎ取っていく。
その陽が照らす森の一部が、暗くなっているのを目の端で捉えた。無意識にそちらの方へ視線を動かす。
あの影は森の奥に続く木々のトンネル、伐採した木を運ぶ道ではないだろうか。私の妄想にかかると、抜け道ということになるのだけれど。
やっと見つけた!!
幸い行く手を遮る程の植物は生えていない。その方向に歩みを速めた。
入口に立って見ると、高さ30メートルある木々が、幅20メートルの道を作っていて、参道みたいになっているのが分かった。
陽の光が入ってこないせいで、涼し気な空気が漂っていて、日中歩き詰めで疲労した体と、張り詰めていた精神とを癒やしてくれる。
まさに霊験あらたかな場所だった。
道には背の低い草しか生えておらず、ここに砂利が敷き詰められ鳥居があれば、神社としか思えない。
私はは奥へと進んでいった。静かだった。鳥のさえずりさえ、聞こえない。声を出すのが恐れがましいというものではなく、声を出す必要がない感覚、出さなくても通じる超感覚とでも言えばいいのか、そのような雰囲気に満たされている。
パワースポットだ!
写真を取りたくなり、思わずスマホを探してしまった自分が面白かった。
どれくらい進んだだろう、目の前に池が見えてきた。その真ん中に土俵のような小島があり、そこに大木が生えている。丸く枝葉を茂らせた、特徴的な木だ。
池は静かに水を湛えている。さざ波さえなく、鏡のようでもある。
恐る恐る手を浸けてみると、心地よい冷たさが手を包む。手桶を作り一口飲んだ。日常であれば、煮沸消毒して安全に飲みましょう。となるだろうけれど、そんな考えは放り出した。既に顔を池に浸けて飲んでいた。
「おいしい」
靴を脱ぎ、足を入れてみる。
「ああぁ…」
言葉にならない気持ちよさが、酷使された足を癒やす。
服の裾をまくりあげ、池の中央にある小島に進んだ。水深は深いところで50センチといったところか。
「やっぱりブナの木だ」
通っていた幼稚園の敷地内に、ブナの木が生えていたのでわかる。
ドングリは小島中に落ちていて、私ははそれを1つ拾うと歯で殻を割り中身を取り出す。
虫に食われていないか確認して口に放り込んだ。ほんのり甘い。食べられるやつだ。
問題がないと分かると、手当たり次第に拾っては食い、拾っては食いを繰り返した。
朝食もろくに取らずに、1日中歩いていたのだから、これは当然のことだと思う。ダイエットでスナック菓子を絶ち、解禁日にポテチを食べたとき以来の、無尽蔵かつ剥き出しの食欲。親が見れば、食べさせて無い家の子みたじゃない、やめて~。と苦笑いすることだろう。
私は食欲を満たして、地面に横になった。
草が身体に優しく触れ、植物特有の香りが立つ。幼い頃によく嗅いだ匂いだ。いつの間にかそんな機会を持つことも無くなったけど。今日一番の癒やしの時間。
なんだかふくらはぎが痛いよ。むくんでいるんじゃないかな。
右足を軽く上げふくらはぎを揉む。
遠足のあった夜に、足がよく痛みだしたよなぁ。なんて、幼い頃のことを思い出していた。
しばらくそうしていたけれど、手が疲れできた。私は手足を伸ばし軽く深呼吸すると、眠ってしまった。
静かな時間が流れる。
そして、ブナの木から発した柔らかな光が、私を包んだ。
そう言えば、この歌のアニメでも、主役の女の子が探検にでかけていた。縁起が良さそう。
そんな感じで機嫌よく歩いた。歩いていました、その時までは。
初めは小川沿いに森へ行こうとしたけれど、それではつまらないと川を外れて突き進んだ。
始めはよかった。生えている雑草も膝の高さまでもなく、足で払うように進んだ。
しばらくすると、小さい木のような、硬い草のような、少しばかり芯の強い植物が生えているようになった。
私は落ちていた木の枝で、それらの植物を払うようにして進んだ。
そして、ついには身の丈を覆うような草木が繁った場所になってしまった。
木の枝を振るっていた手には血豆ができていたし、薄い粗末なワンピースみたいな物しか身に着けていないせいで、四肢には草木で付けたスリ傷のようなものが、いくつもできていた。
これはまずいぞ。このまま進めば遭難まっしぐらだ。それに整備されていない道は平坦でもないし、障害物が多くて思っていたよりも体力を消耗する。
戻るのは癪だが、歩きやすい、雑草が膝下位まで伸びている所まで戻る事にした。
そこから森を横目に進み、中に入れそうな場所を見つけよう。
こういう心がくじけそうになっているときは、自分が城を攻め落としにきた武将だと妄想するに限る。
城の設計者に畏敬の念を抱きつつ、その人を上回る為に攻め続ける。
例えば今回のこの森。ここに城があった場合、築城した人はこの草木のバリケードを上手く利用して攻め手の侵入を防ぐとともに、その心身を疲弊させようとしているいるわけだ。
しかし、バリケードで囲まれていては、城から打って出ることが出来ない。ということは、どこかに出撃用の抜け道があるはずだ。私はそれを見つけて、城の内部に入り込む!そして勝つ!!
いいね、乗ってきたよ。
でも、頭の中の消極的参謀が声を掛けてくる。森に城なんてないんだから止めよう。お腹も空いたし、手足も痛いし、今日はもう、いいんじゃない。戦術的後退って選択もあるよ。
戦術的後退……否!
そんなわけには行かない。私は攻城戦において常勝なのだ。
頭の中で空想が暴走している時、現実では頭上に近づいた太陽が容赦なく陽を注ぎ、体から水分をもぎ取っていく。
その陽が照らす森の一部が、暗くなっているのを目の端で捉えた。無意識にそちらの方へ視線を動かす。
あの影は森の奥に続く木々のトンネル、伐採した木を運ぶ道ではないだろうか。私の妄想にかかると、抜け道ということになるのだけれど。
やっと見つけた!!
幸い行く手を遮る程の植物は生えていない。その方向に歩みを速めた。
入口に立って見ると、高さ30メートルある木々が、幅20メートルの道を作っていて、参道みたいになっているのが分かった。
陽の光が入ってこないせいで、涼し気な空気が漂っていて、日中歩き詰めで疲労した体と、張り詰めていた精神とを癒やしてくれる。
まさに霊験あらたかな場所だった。
道には背の低い草しか生えておらず、ここに砂利が敷き詰められ鳥居があれば、神社としか思えない。
私はは奥へと進んでいった。静かだった。鳥のさえずりさえ、聞こえない。声を出すのが恐れがましいというものではなく、声を出す必要がない感覚、出さなくても通じる超感覚とでも言えばいいのか、そのような雰囲気に満たされている。
パワースポットだ!
写真を取りたくなり、思わずスマホを探してしまった自分が面白かった。
どれくらい進んだだろう、目の前に池が見えてきた。その真ん中に土俵のような小島があり、そこに大木が生えている。丸く枝葉を茂らせた、特徴的な木だ。
池は静かに水を湛えている。さざ波さえなく、鏡のようでもある。
恐る恐る手を浸けてみると、心地よい冷たさが手を包む。手桶を作り一口飲んだ。日常であれば、煮沸消毒して安全に飲みましょう。となるだろうけれど、そんな考えは放り出した。既に顔を池に浸けて飲んでいた。
「おいしい」
靴を脱ぎ、足を入れてみる。
「ああぁ…」
言葉にならない気持ちよさが、酷使された足を癒やす。
服の裾をまくりあげ、池の中央にある小島に進んだ。水深は深いところで50センチといったところか。
「やっぱりブナの木だ」
通っていた幼稚園の敷地内に、ブナの木が生えていたのでわかる。
ドングリは小島中に落ちていて、私ははそれを1つ拾うと歯で殻を割り中身を取り出す。
虫に食われていないか確認して口に放り込んだ。ほんのり甘い。食べられるやつだ。
問題がないと分かると、手当たり次第に拾っては食い、拾っては食いを繰り返した。
朝食もろくに取らずに、1日中歩いていたのだから、これは当然のことだと思う。ダイエットでスナック菓子を絶ち、解禁日にポテチを食べたとき以来の、無尽蔵かつ剥き出しの食欲。親が見れば、食べさせて無い家の子みたじゃない、やめて~。と苦笑いすることだろう。
私は食欲を満たして、地面に横になった。
草が身体に優しく触れ、植物特有の香りが立つ。幼い頃によく嗅いだ匂いだ。いつの間にかそんな機会を持つことも無くなったけど。今日一番の癒やしの時間。
なんだかふくらはぎが痛いよ。むくんでいるんじゃないかな。
右足を軽く上げふくらはぎを揉む。
遠足のあった夜に、足がよく痛みだしたよなぁ。なんて、幼い頃のことを思い出していた。
しばらくそうしていたけれど、手が疲れできた。私は手足を伸ばし軽く深呼吸すると、眠ってしまった。
静かな時間が流れる。
そして、ブナの木から発した柔らかな光が、私を包んだ。
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