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第2話 わびしいに、ひもじいはツライ
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ここはどこ?私は誰?
そんな事をこの女の人に尋ねて不審に思われるのは避けた方がいいよね。
「ほら、食べなさい」
お腹も空いている事だし、私はスープをすすった。
麦を茹でた物に塩味を効かせた、素材を活かす味だ。と、言えば聞こえがいいが、つまりはそれだけのこと。せめてトマトを入れるとか、ソーセージを入れるとかして味に深みを持たせてほしいと思う。
「おいしい?」
「おいしい」
彼女の質問ににこやかに返した私は、物凄く偉いと思う。だって美味しくないもん。
パンを手に取った。これはなんだろう、一見パンのようだが全く別の食べ物だ。醤油を塗り忘れた、ぬれ煎餅と言えばいいのか。しかも焼き立てから程遠く、一週間は放置していたのではないかと思える程に歯ごたえがあり、噛み切れない。これは間違いなく賞味期限が過ぎてるでしょ。
でも背に腹はかえられない。空腹は食べる事で満たすしかない。仕方がないので、パンをスープに浸けて食べることにした。
口の中に素っ気ないスープの味が広がり、ふやけたパンを咀嚼していると、なんだか侘しくなってきた。
これは、あの時のアジシオごはんと同じだ。
私はアジシオで握ったおにぎりが好きだった。大学生になり独り暮らしを始めた頃、横着者の性でご飯に直接アジシオをかけて食べることを始めた。実家暮らしではできない自由な食事に私はちいさな喜びを感じていた。
そんなある日、親と喧嘩をして仕送りを止められた。仕方がなくバイトを増やしたのだが、だからといって給料をすぐにを貰える訳ではない。給料日まで手持ちの食材で耐え凌ぐしかなかった。
しかし、心配はない。私にはアジシオごはんという心強い味方がいるのだ。幸いお米はたくさんある。今晩はアジシオごはんパーティだ。
さっそく食べた。私はこの時に気付いてしまった。アジシオごはんが好きだったのは、お金があってパスタだの、焼き肉だのと、他の食事ができるうえで、あえて食べていたからなのだと。
アジシオごはんしか選択肢がない時にこれを食べると、信じられないほど侘しい気持ちになった。
いま、あの時の気持ちが蘇った。懐かしい気持ちとともに若返れたらいいのに…若返ってるけど。
そうだ、わたしは誰なのか。先程この女が名前を呼んでたな…なんていってたっけ。
まったく自慢にならないが、私は人の名前を覚えるのは苦手だ。顔はすぐに覚えるのに不思議だよね。
「片付けをしたいから早く食べてね」
口の中に残っているパンをスープで流し込んだ。
「パン残ってるわよ」
「お腹いっぱいだから、もういらない」
私は椅子から飛び降りた。
「外で遊んでくるね」
小言を言われる前に逃げるに限る。玄関に向かおうとしたが、それがわからない。
「ほら、靴を履きなさい」
そう言って、皮の生地と紐を持ってきた女は、器用に私の足に巻き付けた。
コレが靴?出来損ないの袋じゃないの??
「はい、できた」
そう言うと私を持ち上げて隣の部家に連れて行ってくれた。
そこは土間になっており、竈や大きいツボなどが置かれていた。
土間なんて初めて見た。
「はい、行ってらっしゃい」
そう言うと戸を開けて、私を見送ってくれた。
「気をつけるのよ」
そんな事をこの女の人に尋ねて不審に思われるのは避けた方がいいよね。
「ほら、食べなさい」
お腹も空いている事だし、私はスープをすすった。
麦を茹でた物に塩味を効かせた、素材を活かす味だ。と、言えば聞こえがいいが、つまりはそれだけのこと。せめてトマトを入れるとか、ソーセージを入れるとかして味に深みを持たせてほしいと思う。
「おいしい?」
「おいしい」
彼女の質問ににこやかに返した私は、物凄く偉いと思う。だって美味しくないもん。
パンを手に取った。これはなんだろう、一見パンのようだが全く別の食べ物だ。醤油を塗り忘れた、ぬれ煎餅と言えばいいのか。しかも焼き立てから程遠く、一週間は放置していたのではないかと思える程に歯ごたえがあり、噛み切れない。これは間違いなく賞味期限が過ぎてるでしょ。
でも背に腹はかえられない。空腹は食べる事で満たすしかない。仕方がないので、パンをスープに浸けて食べることにした。
口の中に素っ気ないスープの味が広がり、ふやけたパンを咀嚼していると、なんだか侘しくなってきた。
これは、あの時のアジシオごはんと同じだ。
私はアジシオで握ったおにぎりが好きだった。大学生になり独り暮らしを始めた頃、横着者の性でご飯に直接アジシオをかけて食べることを始めた。実家暮らしではできない自由な食事に私はちいさな喜びを感じていた。
そんなある日、親と喧嘩をして仕送りを止められた。仕方がなくバイトを増やしたのだが、だからといって給料をすぐにを貰える訳ではない。給料日まで手持ちの食材で耐え凌ぐしかなかった。
しかし、心配はない。私にはアジシオごはんという心強い味方がいるのだ。幸いお米はたくさんある。今晩はアジシオごはんパーティだ。
さっそく食べた。私はこの時に気付いてしまった。アジシオごはんが好きだったのは、お金があってパスタだの、焼き肉だのと、他の食事ができるうえで、あえて食べていたからなのだと。
アジシオごはんしか選択肢がない時にこれを食べると、信じられないほど侘しい気持ちになった。
いま、あの時の気持ちが蘇った。懐かしい気持ちとともに若返れたらいいのに…若返ってるけど。
そうだ、わたしは誰なのか。先程この女が名前を呼んでたな…なんていってたっけ。
まったく自慢にならないが、私は人の名前を覚えるのは苦手だ。顔はすぐに覚えるのに不思議だよね。
「片付けをしたいから早く食べてね」
口の中に残っているパンをスープで流し込んだ。
「パン残ってるわよ」
「お腹いっぱいだから、もういらない」
私は椅子から飛び降りた。
「外で遊んでくるね」
小言を言われる前に逃げるに限る。玄関に向かおうとしたが、それがわからない。
「ほら、靴を履きなさい」
そう言って、皮の生地と紐を持ってきた女は、器用に私の足に巻き付けた。
コレが靴?出来損ないの袋じゃないの??
「はい、できた」
そう言うと私を持ち上げて隣の部家に連れて行ってくれた。
そこは土間になっており、竈や大きいツボなどが置かれていた。
土間なんて初めて見た。
「はい、行ってらっしゃい」
そう言うと戸を開けて、私を見送ってくれた。
「気をつけるのよ」
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