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05 第七特殊部隊の隊員達

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「ということで、レクティタ隊長にはまず、部隊の皆さんの仕事を見学してもらうことになりました。品行方正で勤勉な皆さんの素晴らしい働きぶりを期待しています。今日の連絡事項は以上です」

 食堂に集まった隊員達へ、ヴィースが淡々と告げる。連絡事項という名の副隊長からの命令に、彼らは朝食を食べながら好き勝手に文句を言った。

「いひひ、僕らの仕事を見学ねえ……教育に悪くない? ひひっ」

『まあ、幼い隊長にとって、あまり面白くないのは確かだ』

「そうじゃそうじゃ。仕事よりも宴を開け宴を」

「隊長さんを口実に、私達の仕事を増やすつもりですね。その手には引っかかりませんよ」

 満場一致の不評に、ヴィースはもそもそとパンを食べながら聞き流し、隣に座っているレクティタへ視線をやった。

「よろしいですか、レクティタ隊長。ああやって、仕事をサボる言い訳ばかり口達者な彼らの尻を叩くのも、我々管理職の仕事です」

「隊長のおしごとってこと?」

「その通りです」

「偏向教育! 偏向教育です! 隊長さん、騙されないでください!」

 真正面に座っているリーベルが、被っている鍋をスプーンで叩いて不満を訴える。
 レクティタは突然の大声にびくりと肩を跳ね上げ、咄嗟に机の下へ隠れた。「あっ」とリーベルは己の失態に気づき、慌ててレクティタへ謝罪する。

「ごめんなさい、隊長さん。びっくりしちゃいましたね。もう大きな音出さないので、出てきてくれますか?」

「……うん、だいじょーぶ」

 レクティタはそう返答したが、彼女の青い瞳は警戒を露わにしていた。その矛先がどこに向けられているか察せないほど、隊員達の勘は悪くない。
 気まずい雰囲気を、ヴィースが手を二度叩いて払拭する。

「当然ですが、私達はレクティタ隊長と出会ってまだ二日目です。彼女をここで預かる以上、互いに親睦を深めるのは必須。そして、この部隊がどのような活動をしているかも、隊長に知ってもらったほうが何かと都合が良いでしょう。ついでに自己紹介も兼ねて、今日は一日、隊長と行動を共にしてもらいます。よろしいですね?」

「レ、レクティタ、からも、お願いします……」

 レクティタもペコリと頭を下げる。今度は文句は上がらなかった。代わりに、この場で一番の年長者であるフトゥが、「そういう事情なら仕方あるまい」と呟いて立ち上がる。

「じゃあ、ジジイのワシから名乗ろうか。改めまして、レクティタ隊長。ワシの名はフトゥ・ルム。気軽に『おじーちゃん』と呼んでおくれ」

 フトゥの言葉に、レクティタが目を瞬かせた。
 老人とは、もっと肌に皺があり、年老いた人のことを指すはず。なのに、フトゥの姿は、どう見ても十五歳ほどの少年だ。持っている知識との食い違いに、レクティタは疑問符を浮かべた。

「おじーちゃん……?」

「ジジイには見えないじゃろ? 隊長の疑問も最もじゃ。それもそのはず、ワシの通り名は『血の魔法使い』なのだから!」

 フトゥは待ってましたと言わんばかりに、レクティタに答えた。大仰に手を広げ、芝居がかった仕草でレクティタの席へと近づいていく。

「齢九十を超えるワシでも、魔法を使えばこの通り」

 そう言って、フトゥがヴィースの背後で顔を手で隠したかと思えば――

「血を操れば、姿形も自由自在よ」

 スッと退いた手からはヴィースの姿になっていた。
 「ええっ!?」と驚くレクティタに、立っている方のヴィースは歯を見せて笑った。まるで悪戯が成功した子供のような笑みだ。

「これがワシの個人魔法じゃ。どうじゃ、凄いじゃろ?」

 目を白黒させるレクティタに、ヴィースが横から補足する。

「フトゥは己の血を操作することで、好きな姿に変身できるんです。彼にはこの能力を生かして、隊の諜報員として活躍してもらっています」

「ちょーほーいん?」

「……簡単に言えば、色々な情報収集をお願いするお仕事です。人間以外にも化けれるので、移動手段としても優秀な方です」

 レクティタは目を輝かせた。

「へえー、すごーい! じゃあ、セミの抜けがらにもなれるの?」

「セミの抜け殻に化けるのはワシが嫌かな」

 フトゥは苦笑した後、ヴィースの肩に顔を乗せ、両手の人差し指で己を示した。

「その代わり、実物以上に化けることは可能じゃ。本物より男前じゃろ?」

「変身能力がウリなのに本物より美化してどうするんですか。無駄に魔力を消費しないで、いい加減元に戻ってください」

 ヴィースは眉間に皺を寄せながら、己そっくりの顔を手で押しのける。フトゥは「ノリが悪い若者め」と唇を尖らせ、魔法を解いた。
 そのままレクティタの席の後ろに回り込む、背もたれに肘を付く。

「それはそうと、ワシの仕事はちょいと特殊で紹介できんから、これで終わりじゃ。後は隊長と一緒に皆の仕事を見学するぞ」

「フトゥ……おじーちゃんといっしょに?」

「そうじゃ。わからないことはジジイに何でも尋ねるが良い。大抵のことは答えられる自信はあるからな」

「うん!」

 レクティタが大きく頷く。彼女の声には、先ほどまでの緊張は無くなっていた。普段からおちゃらけた態度のフトゥだが、人の警戒を解く場面では有用な人物であると、ヴィースは改めて評価する。

「では、次に自己紹介したい方は――」

 ヴィースが言い終える前に、勢いよく立ち上がり、名乗り上げた人物がいた。

「はいはい! 次は私で! フトゥさんに負けていられませんから!」

 リーベルは、フトゥに対抗心を燃やしながら、肌身離さず持っている鍋壺をボンっと叩いた。

「私は『鍋の魔法使い』こと、リーベル・ライトリー! 先程のお詫びも込めて、とびっきりのをお披露目しちゃいますよ!」
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